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えー、わたしいつも脳内プロットのため、
いきなりテラーには書かず、
メモアプリで書いてから
こちらに写しているのですが。
今回初めてメモアプリの文字制限こえまして。
一体何文字書いてたんでしょうね、わたし。
怖くて確認すらしてませんが、
ざっと2万は超えてたんでしょうね。
なので、学生時代も前後編に分けました。
学生時代は書き終えてるのでまたすぐ出します。
……たぶん。
今も首にかかる小さな輪っか
いつか
これが現実になる日を願っていた
でも
所詮は子供のまやかしで
叶うはずなんか、ないんだと
今日、改めて実感した
結婚しよ、今度は本気で
『ねぇ、ないくん。結婚って知っとる?』
『けっこん……?けっこんってなぁに?』
『結婚ってな、
ずーっと一緒におるお約束なんやって』
『そうなの?』
『おん!
やからな、まろ、ないくんと結婚したい!』
『ないこも!ないこもいふくんと結婚する!』
『ほんま!?なら、約束な!』
小さな指を絡めて、
君は無邪気に笑った。
『大きくなったら結婚しよ』
その言葉を、
あの頃の俺は、ただ嬉しくて。
深く考えることもなく、
でも確かに、大事に胸にしまった。
「……はっ、ゅ、め……?」
やけに現実味を帯びた夢を見た。
見慣れた自分の部屋の天井を
ぼんやり眺めていると、
次第に意識がはっきりしてくる。
……あれは夢なんかじゃない。
間違いなく、俺の過去だ。
俺と――
「おはよ、ないこ」
聞き慣れた声に引き戻されて、
視線を上げる。
そこにいたのは、
あの頃と変わらない、
柔らかな笑みを浮かべた男。
「……はよ、まろ」
――俺の幼馴染である、まろとの。
言うまでもなく、
あの日『結婚しよ』なんて言い出した張本人。
……あいつが今でも覚えているかは、
分からないけど。
少なくとも。
俺は、一度も忘れたことなんてない。
はぁ、と小さく息を吐いてから口を開く。
「なんで今日お前来んのはやいの?
いつももうちょい遅いじゃん」
すると、まろは
きょとんとした顔で首を傾げた。
「ないこが言ったんやん。
今日早よ行こって。忘れたん?」
……あれ?
俺、そんなこと言ったっけ……?
ふと視界に入った、2月のカレンダー。
14日。
赤ペンで丸がついていて、
その横には――
『はやくいく!!』
明らかに自分の筆跡。
一瞬、言葉を失う。
……あぁ、そうか。
今日は、バレンタインデー。
バレンタインといえば、チョコ。
俺もまろも、ありがたいことに
毎年それなりに貰っていた。
……いや、
〝貰いそうになっていた〟が正しいか。
いつからだったか。
まろが受け取らなくなって、
それに合わせるように、
俺も受け取らなくなった。
それでも、
まろはモテるから。
誰かが渡すのを見たくなくて。
誰かのものになってしまうのが嫌で。
あの約束が叶わない約束になってほしくなくて。
だから毎年、
バレンタインの日は、
誰よりも早く学校に行く。
全部、避けるために。
「……そうだったね、ごめん。
ちょっと着替えるから、下で待ってて」
「え〜、なんで?
着替え見るくらい別にええやろ?」
「よくないの。
ほら、出ていった出ていった」
軽く背中を押すと、
まろは「ちぇ」と不満げに言いながらも
部屋を出ていった。
その無防備さが。
……俺のことなんて、
なんとも思ってない証みたいで。
地味に、刺さる。
俺は、あの約束を。
一度だって、忘れたことがないのに。
「……っ」
パジャマのボタンに手をかけた瞬間、
胸元で小さく、金属が触れ合う音がした。
流れるように、視線を落とすと。
鎖の先で揺れているのは、
小さなリング。
カーテンから挿す光で
きらきらと光って見えた。
あの日、まろが
『これ、約束のしるし!』
無邪気に笑いながら、
半ば押しつけるみたいに渡してきたそれを。
俺は、ネックレスにして。
ずっと、身につけている。
指先でそっと触れると、
ひんやりとした感触が伝わってきた。
……本当は。
こんなの、
もう外してもいいのかもしれない。
子どもの頃の約束なんて、
普通は忘れていくものだし。
実際、まろは――
「……」
そこまで考えて、思考を止める。
あいつが覚えてるかどうかなんて、
関係ない。
これは、俺が。
勝手に、大事にしてるだけなんだから。
「……バカみたい」
小さく呟いて、ぎゅっとリングを握る。
それでも手放せない時点で、
答えなんてとっくに出てるのに。
コンコン、と軽いノックの音。
「ないこー?まだー?」
ドアの向こうから聞こえる、
いつも通りの声。
その何気なさが、
少しだけ苦しくて。
「……今いく」
短く返して、手を離す。
リングはまた、胸元で静かに揺れた。
まるで。
ずっと、これを身につけているのが、
俺だけだと。
そう、突きつけるみたいに。
「誰もおらんな」
「まぁまだSHRまで30分以上あるしね」
肩にかけていた鞄を下ろし、
自分の机の上に置く。
教室はしんと静まり返っていて、
物音ひとつない。
「てか、なんで今日早よ行くん?」
何気ない調子で、まろが聞いてくる。
やっぱり、分かってない。
「……なんとなく」
短く返して、椅子を引く。
ぎぃ、と音がやけに大きく響いた。
「なんとなくで毎年来る時間ちゃうやろ」
くすっと笑いながら、
まろは隣の席に腰を下ろす。
その声は軽くて。
深い意味なんて、ひとつもなさそうで。
「いいじゃん、別に。早く来たって」
ぶっきらぼうに返しながら、
視線は合わせない。
合わせたら、たぶん。
余計なことまで、全部気づかれそうだから。
「ふーん?まぁ俺は楽でええけどな。
人おらんし、静かやし」
そう言って、伸びをするまろ。
……ほんとに、それだけなんだろうな。
俺とは、違って。
こんなに想われてないとか、
なんか、虚しくなってくるな。
誰もいない教室。
今年も、ちゃんと間に合った。
これなら。
「……今年も、大丈夫か」
小さく呟いた声は、
自分にしか聞こえないくらいで。
その意味に気づくやつなんて、
ここにはいない。
「……ないこ?」
「んー?」
空いた時間を埋めるためだけに持ってきた、
生徒会の仕事。
これからのことなんて考えたくなくて、
無心になれる作業――資料まとめだけを選んだ。
パチッ、パチッ、と。
静かな教室に、ホッチキスの音だけが響く。
「それ、俺も手伝おか?」
「……ん、ありがと」
何部かをまろに渡して、
二人で黙々と資料をまとめていく。
言葉はなくても、
作業のリズムだけが揃っていくのが、
妙に心地いい。
「うぃ〜、おーわり!ないこは?」
「これで終わるよ」
「おけおけ」
できた資料を受け取って、
自分の分と合わせてトントンと揃える。
机の端に置いた、その瞬間。
ふと、視線を感じた。
手を止めて視線を向けると、
まろがじっとこちらを見ていて。
「……なに?」
問いかけても、
返事はない。
その代わりに。
まろがゆっくりと手を伸ばしてくる。
え、なに。
一瞬だけ、息が詰まった。
避ける理由も、間もなくて。
「朝から思っとったけどさ」
低く落ちた声と同時に。
その指が、するりと頬に触れる。
びく、と肩が揺れる。
親指が、目の下をなぞった。
「ここ、うすーく隈できとる」
「……嘘」
予想外の距離に、
思わず言葉が詰まる。
……変な夢、見たからかな。
それに、今日は早かったし。
「寝とけば?」
まろは何でもないみたいに言って、
軽く笑う。
「先生来たら、起こしたるから」
その声音は、あまりにも自然で。
そこに、特別な意味なんて
ひとつもないみたいに。
「……じゃあ、ちょっとだけ」
視線を逸らしたまま、そう答える。
本当は。
こんな距離で、
平気でいられるお前のほうが。
ずるい。
言葉にはせず、飲み込んで。
机に突っ伏すと、
ひんやりとした感触が頬に伝わる。
すぐ近くで、椅子がきしむ音。
まろが、隣にいる気配。
それだけで、
変に安心してしまう自分がいて。
「……大丈夫?寒ない?」
「……大丈夫だよ、ありがと」
かすれた声で返して、目を閉じる。
意識がゆっくりと沈んでいく中で。
何かが頭に、
ふっと触れる感触。
ぼんやりとした頭でも、
それが手だと認識するのに
時間はかからなかった。
やわらかな手のひらが、
そっと髪を撫でる。
その手つきはあまりにも優しくて。
まるで、壊れ物に触れるみたいに。
誰が撫でているかなんて、
分かりきっているのに。
……どうせ、夢だ。
そう思い込むことでしか、
この距離を受け止められなくて。
でも、確かめようとする前に、
心地よさに引きずられていく。
最後に思ったのは。
こんなふうに、
何も知らないまま隣にいられるのも、
きっと、今だけなんだろうなって。
「おやすみ、ないこ」
その喜びと苦しみの複雑な気持ちだけだった。
「ないちゃん? なーいーちゃんって。
起きて、マジ頼むから」
誰かに呼ばれている感覚。
朦朧とした意識で聞こえたその声は、
あいつのものじゃなかった。
「ん……」
「あ、起きた。
ないちゃんが寝てんの珍しいな」
目を開けると、そこにいたのは
同じクラスの初兎ちゃん。
去年同じクラスで、
俺とも、まろとも仲がいい。
独特の空気を持ってて、
アホだけど、
なんだかんだ仲間思いのいいやつ。
「……なに、もう」
ぼやけた頭のまま返しながら、
重たい体をむくりと起こす。
その瞬間。
ぱさり。
何かが落ちる音。
視線を下げると、
足元に落ちていたのは
見覚えのあるブレザーだった。
けど。
自分は、ちゃんと着ている。
「……?」
拾い上げて、胸元を見ると。
そこには……
『猫宮』
丁寧に刺繍された名前。
「……あいつの、か」
夢じゃ、なかった?
一瞬、さっきの感触がよみがえる。
頭を撫でられた、あの優しい手。
けど。
それなら、なんで。
「……どこ行ったんだよ」
ぽつりと零れる。
教室を見回しても、
あいつの姿はどこにもない。
なんでいないんだよ、と
視線だけが落ち着かない。
「……なぁないちゃん?」
名前を呼ばれて、はっとする。
「今日の課題やってたら
写させてくれない?」
「あ、あぁ……」
返事をしながらも、
意識はまだ教室のどこかを探していて。
「聞いとる?ないちゃん」
「聞いてるって」
適当に答えながら、
もう一度だけ、視線を巡らせる。
やっぱり、いない。
小さく息を吐いて、
どうでもいいことに意識を戻す。
「……で?
お前はそんなことで俺起こしたわけ?」
「おん」
けらけらと笑う初兎ちゃんに、
「ふざけんな」とか
「次からは気をつけてよ〜」とか、
適当に返す。
けど。
その間もずっと、
落ち着かない視線だけが教室を彷徨っていた。
……まろのばーか。
俺のこと起こすって言ったくせに。
引き出しに手を入れて、
初兎ちゃんの言う課題を探す。
あれ?
ここに入れてると思ったんだけど……。
記憶と違う場所に、
小さく眉をひそめる。
なら、こっちか?と
鞄に手を伸ばした、その時。
ふっと、視界が暗くなる。
大きな影が、上から落ちてきて。
思わず手を止めた、その上に。
重なる、別の手。
「……何しとるん」
すぐ近くで落ちた声に、
心臓が跳ねる。
顔を上げなくても分かる。
「まろ」
ゆっくり視線を上げると。
少しだけ肩で息をしている、
まろがいた。
「なにしてんのって……
初兎ちゃんが課題写すって言うから
そのプリント探してるだけだけど……」
「ふーん」
短く返される。
その視線が、やけに近くて、
なんとなく逸らした。
「見つからんのやったら、俺の貸そうか?」
その隙に、まろは自分の席へ手を伸ばすと、
机の中からプリントを取り出し、
そのまま初兎ちゃんに差し出した。
「え、あ、ちょ、……っあ!あった!!」
遅れて、
俺の手元にも目当てのプリントが見つかる。
けど。
「ありがとな、まろちゃん」
「おん、次からは気をつけや?な?」
もう初兎ちゃんの手には、
まろのプリントが渡っていて。
「……ま、いっか」
小さく呟いて、
見つけたそれを引き出しに戻した。
そのまま、何も気にせず視線を落とす。
だから、気づかなかったのだ。
「ないこから借りようとすんなよ、あほ兎」
「しゃーないやん、
ちょうどええ相手おらんかったし。
僕は悠くん一筋やから。
ほんま、まろちゃんって――」
そんな2人のやり取りがあったことに。
「あ、そういやまろちゃんさ」
急に明るい声をあげたと思えば、
ニマニマとまろの方を見ながら、
俺に話しかけてくる。
「さっき呼ばれてたん、どうしたん?」
「……え?」
思わず顔を上げる。
呼ばれてた?
だから、さっきいなかったのか。
胸の奥が、わずかにざわつく。
視線だけでまろを追うと。
まろは否定することもなく、
ただ、初兎ちゃんをじっと見つめていた。
止めるようにも、誤魔化すようにも見えない、
その沈黙。
「いふく〜んって、
ポニーテールの女子に呼ばれとったやろ?」
ほら、と初兎ちゃんは、
窓際にいた女子を指さした。
けど、まろは何も言わない。
ほんの一瞬だけ視線が合って。
すぐに、逸らされた。
「チョコ貰ったん?なぁ、教え」
「初兎」
低く落ちたその一言が、
空気ごと切り裂く。
初兎ちゃんの言葉が、そこで止まった。
まろの顔は見えない。
けど。
目の前の初兎ちゃんが、
一瞬で表情を強ばらせたのを見て、
嫌でも分かる。
……あ、これ、触れちゃいけないやつだ。
「いや、
ちょっとからかっただけですや〜ん??
お兄さん、その顔は怖いっすね……」
「後で、な??あにきにもしっかり伝えとくわ」
「それとこれとはちゃいますやん!!な!?」
軽口みたいな会話が続く中で。
俺だけが、そこに入れていなかった。
なんで。
なんで、あのタイミングで遮った?
言われたくなかったから?
もしかして。
あの子から、チョコ貰ったから……?
もう一度、
さっき初兎ちゃんが指した方を見る。
窓際にいるその子は、
柔らかく笑っていて。
俺にはないものを、
全部持ってるみたいだった。
……あーあ。
今までの、全部。
無駄になった?
あの時、寝てなければ。
まろのそばにいれば。
何か、変わった?
答えの出ない考えが、
ぐるぐると頭の中を回る。
黒い感情だけが、
じわじわと広がっていった。
「……ないこ」
不意に落ちた声に、
思考が引き戻される。
顔を上げると、
すぐ目の前にまろが立っていた。
いつの間にか、
初兎ちゃんはいなくなっていて。
「……なに?」
できるだけ、いつも通りを装う。
けど、少しだけ声が固くなる。
まろは一瞬だけ、
言葉を選ぶみたいに間を置いて。
それから、ぽつりと。
「……気にせんでええよ」
そう言いながら。
ぽん、ぽん、と。
軽く頭を撫でられる。
「……は」
思わず小さく、息が漏れた。
なにを。
なにを気にするなって言ってんの。
「さっきのやつ。
別に、大したことやないし」
視線を逸らしたまま、
まろはそう続けた。
――あぁ。
やっぱり、そうなんだ。
「……そっか」
それだけ返して、視線を落とす。
さっき触れられたところが、
じんわりと熱い。
大したこと、ないんだ。
俺がこんなに引っかかってることも。
気になってることも。
全部、まろにとっては。
「……よかったじゃん」
気づけば、そんな言葉が出ていた。
自分でも驚くくらい、
軽い声で。
「モテるやつは大変だな」
小さく笑ってみせる。
ちゃんと、いつも通り。
まろにとって〝ただの幼馴染〟の俺を、
演じてみせる。
でも。
胸の奥が、ぎゅっと痛む。
……全然、よくなんかないくせに。
〝まろのことが好きな〟俺は。
昼休み。
いつもなら、
まろと2人で食べるけど。
今日は、なんとなく。
まろと2人でいるのが、しんどくて。
初兎ちゃんと、
あと上の学年からあにきを呼んで、
4人で食べている。
お弁当は、
食べても食べても味なんかしなくて。
心なしか、食欲もあまりなかった。
お弁当の残りが半分を切ったところで、
俺は一度、箸を置いた。
「ないこ?どうしたん?」
普段、食欲旺盛な俺が、
一番に箸を置いたのが不思議だったのか、
まろが声をかけてくる。
「……今日、あんま食欲ないんだよね」
適当に笑って、ごまかす。
もうこれは、
家に帰って食べよう。
「ないちゃん、どっか体調悪いん?」
初兎ちゃんも、
不安そうにこちらを見ている。
隣にいるあにきだって、
心配そうな表情をしていた。
「ないこ、何かあったん?
何かあったんなら教えてや」
きっと、まろは分かってる。
これが体調の問題じゃないことも。
俺が、何か抱えてることも。
朝、あれだけ食べてたのも見てるし。
何より、まろは、
俺よりも、俺のことを知ってる。
体調が悪いと、俺が自覚するより先に
見抜くことだってあるくらいだ。
……まぁ。
さすがに、この感情までは知らないけど。
その時だった。
「いふくん」
不意に、
鈴を転がしたみたいな、柔らかい声がして。
びくり、と肩が揺れる。
顔を上げると、
そこにいたのは……
朝、話題になってたあの子。
「ちょっといいかな」
遠慮がちにそう言って、
まろの方を見る。
「あー……」
まろは一瞬、言葉を濁して。
それから、ちら、と俺の方を見た。
行くのを迷ってるみたいな、その視線。
……行けよ。
幼馴染の俺なんか、気にしなくていいだろ。
「行ってくれば?」
へらりと笑って、
代わりに答える。
「ないこ」
まろの声が、少しだけ低くなる。
何を、今更。
気にしなくていいんだろ?
「俺は大丈夫だから。
ちょっと体調悪いだけ」
だから、ね?と
無理やり口角を上げてみせる。
まろは、
まだ何か言いたげにしていたけど。
結局。
少しだけ間を置いてから立ち上がった。
「……すぐ戻る」
それだけ言って、
あの子と一緒に教室を出ていく。
その背中を、
無意識に目で追ってしまって。
……あぁ、だめだな。
完全に、俺の一人芝居だ。
箸を持つ手に、無意識に力が入る。
別に、気にする必要なんてないのに。
視線が、勝手に扉の方へ向いてしまう。
「……ないちゃん?」
初兎ちゃんの声に、はっとする。
「……ん?どうした?」
なんとか、いつも通りを装う。
「ちょっと、僕らも話そか。
ええやろ?悠くん」
ちらっとあにきに視線を向けて、
確認を取る。
「当たり前や」
あにきは力強く、
それでいて優しく笑って。
くしゃりと、初兎ちゃんの頭を撫でた。
その光景が、やけに目について。
……いいな、って。
思ってしまった自分に、
少しだけ嫌気が差した。
初兎ちゃんに連れられて、
誰もいない屋上に来た。
あにきは、まろが帰ってきた時に困るから、
教室で待ってくれている。
……申し訳ないな。
しばらく、沈黙が落ちた。
風が吹き抜ける。
ふと見上げた空は、
雲に覆われて薄暗い。
朝は、あんなに晴れてたのに。
「……ないちゃんさぁ〜」
重たい空気を崩すみたいに、
初兎ちゃんが口を開く。
「まろちゃんのこと、好きなん?」
いきなり、核心を突くような質問。
「いや?」
間髪入れずに返す。
「そんなわけないじゃん」
できるだけ軽く、
いつも通りの調子で。
でも。
「……ほんまに?」
すぐに、返された言葉。
逃がしてくれないみたいに、
まっすぐ見られる。
「幼馴染だし。
今さらそういうのじゃないって」
言いながら、
自分で少しだけ違和感があった。
じゃあ、なんで。
さっき、あんなに。
「ふーん……」
初兎ちゃんは、納得してない顔のまま。
「じゃあさ」
一歩、距離を詰めてくる。
「なんであんな顔してたん?」
「……は?」
思わず、間の抜けた声が出る。
「あの子に呼ばれて、
まろちゃんが出てったとき」
逃がさないように、
言葉を重ねてくる。
「めっちゃ、嫌そうな顔しとったで?」
「してないって」
反射的に否定する。
けど。
「してたよ」
被せるように、即答される。
「僕にはそう見えた」
にやりと笑うでもなく、
ただ事実を言うみたいな声音で。
「……別に」
視線を逸らす。
風が、少しだけ強く吹いた。
「なんか、気になっただけ」
それだけ。
それだけの、はずなのに。
胸の奥が、じわっと痛む。
「ふーん……」
初兎ちゃんは、少しだけ黙ってから。
「なら」
ぽつりと。
「取られても、平気なんや?」
その一言が、
やけに、重く落ちた。
「別に、ないちゃんがそれでええならええよ?
ただ、そうは思ってなさそうやん」
まるで、心の奥まで見透かすみたいに、
まっすぐ見つめられる。
「仮に取られたとして、
ないちゃんの気持ちはどうするん?
自然消滅待ち?そんなん嫌やん」
図星すぎて、
何も言えなかった。
言い返せないって分かってるからこそ、
余計に、苦しい。
「……初兎ちゃんに、何が分かるの……?」
気づけば、そんな言葉がこぼれていた。
少しだけ、声が震える。
「俺の気持ちなんて、
初兎ちゃんには分かんないでしょ」
うまく笑えなくて、
視線を逸らす。
「別に……好きとかじゃないし。
ただ、幼馴染なだけだし」
言い切るには、
少しだけ、間があった。
それでも、
誤魔化すみたいに続ける。
「周りより、ちょっと仲が良くて、
関わりが深いだけで……」
それだけのはずなのに。
胸の奥が、きゅっと締めつけられる。
「……っ」
息が詰まる。
こんなの、
〝ただの幼馴染〟で済むわけないのに。
『大きくなったら結婚しよ』
小さい頃の、
何気ない約束。
誰にでもあるような、
軽い言葉のはずなのに。
それが、
今も離れてくれない。
まろは、きっと覚えていないのに。
自分だけが、
あの言葉に縋ってる。
だから、こんなに苦しい。
「……そっか」
否定されると思っていたのに。
返ってきたのは、
やけにあっさりとした声だった。
思わず顔を上げる。
初兎ちゃんは、少しだけ困ったように笑って。
「ほな、そういうことにしとこか」
そう言ってから。
今度は、俺の横にぴたりとくっつく。
「でもな、ないちゃん」
さっきよりも、
少しだけ優しい声で。
「〝好きじゃない〟って言う人が、
あんな顔せえへんで」
その言葉に、
息が詰まった。
何も言い返せないまま、
視線だけが揺れる。
胸の奥が、じわりと痛んだ。
認めたくないのに、
どこかで分かってしまっている自分がいる。
逃げ場みたいに握った拳に、
少しだけ力がこもる。
そんな俺を見て、初兎ちゃんは。
ほんの少しだけ、柔らかく笑った。
「自分の気持ち、伝えるだけでも
ええと思うで」
静かに零されたその一言が。
これからの俺らの関係を変えるなんて、
この時の俺はまだ知らない。
コメント
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淡い恋心が儚くて苦しくて読んでて色んな感情になったよ…! 小さい頃に約束したのが桃さんの中にはずっと残っててしかも幼なじみ設定…もう最高すぎて言葉も出ない😖💘 さーちゃんのお話って言葉一つ一つが心にすとんってはまる感じがして不思議なのよねぇ🫶🏻︎💕︎︎ 青さんはどう思ってるのかとか、このあと桃さんは行動を起こすのかとか気になることばかりだよ…✨✨素敵な作品ありがとうー!!ෆ