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こちらの作品はirxsのnmmn作品となっております
上記単語に見覚えのない方、意味を知らない方は
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ご本人様とは全く関係ありません
言わずもがな後編です。
前話お話した通り2万余裕で超えてました。
安心してほしいのは、
前後編に偏りあがあるわけではなく
ほぼ同じ文章量なので前回のが読めたら
今回もすぐ読める長さだと思います。
ちなみにこの作品は
学生時代後編のとあるセリフを言わせたくて
できたのですが、どれでしょうか?
当てた方がいらっしゃったら……
これと言って決めていませんが、
何かしましょうか……?🤔
それでは、お喋りもこの辺で。
前回の続きからです
放課後。
あの言葉が、まだ頭の中に残っている。
『伝えるだけでも、ええと思うで』
消そうとしても、離れてくれなかった。
にがくて、くるしくて。
でも、どこか甘くて。
こんな感情、
知らなくてよかったのに。
小さく息を吐く。
考えないようにしても、
無駄だった。
鞄を手に取って、立ち上がる。
「ないこ」
ちょうどそのタイミングで、
名前を呼ばれた。
振り返ると、まろが立っている。
「帰ろ」
当たり前みたいに差し出された言葉。
「……うん」
少しだけ間を置いて、頷く。
隣に並んで、教室を出る。
いつもと同じ帰り道。
同じ距離。
同じ歩幅。
なのに。
なんでかな、
まろがやけに遠く感じた。
「今日さ、あにきがな」
何気なく話し出すまろの声。
ちゃんと聞こえてるはずなのに。
言葉が、うまく頭に入ってこない。
「……ないこ?」
ふと、名前を呼ばれる。
「え、あ、ごめん。なに?」
慌てて取り繕う。
「いや、なんかぼーっとしとるなって」
少しだけ覗き込むような視線。
「……ちょっと疲れてるだけ」
適当に笑って、ごまかす。
「そっか」
それ以上、追及はされなかった。
まろは、優しいよね。
こんなどす黒い感情を抱えてる俺にも、
……みんなにも、分け隔てなく優しくて。
頭も良くて。
英語なんか、普通に話せるし。
ノリもいい。
誰かが困っていれば、
自然に空気に溶け込んで、すくい上げる。
……ずるいよな。
こんなやつ。
モテないわけ、ないじゃんか。
「……なあ、ないこ」
名前を呼ばれて、顔を上げる
「ほんまに、大丈夫なん?」
「……大丈夫だよ」
――嘘だ。
でも。
このあと、
何を言えばいいか分からなくて。
「そっか」
気まずそうに視線を下げた俺を見たまろは
それ以上踏み込まずに、前を向いた。
しばらく、沈黙が続いた。
足音だけが、静かに響く。
「……あんさ」
不意に、まろが口を開いた。
「昼に呼ばれとったやつ、あったやん」
どくん、と心臓が鳴る。
「……あー、あったね」
できるだけ、平静を装う。
これから言われる言葉に
身構えながら。
「別に、大したことやないから」
軽く笑って、
そう言う。
ほら、またあの子の話題。
もういいよ。
分かったって。
「ちょっと呼ばれただけやし」
「……うん」
短く返す。
それだけで、
会話は終わったみたいに静かになる。
隣にいるはずなのに、
一歩分だけ、
距離が開いた気がした。
今まで、
こんなことなかったのにな。
「……ないこ?」
黙りこくった俺を呼ぶまろ。
「……ん」
それに、
一拍遅れて返す。
「なんか考えとるやろ」
ちょっとからかうような声。
そして、どこか心配そうな声。
「……いや?」
小さく首を振る。
それでも、
まろは俺から視線を戻さなくて。
「……ほんまに?」
追い打ちみたいに、もう一度。
今度は、低く、
誤魔化させないというように。
その一言で、
胸の奥が、
少しだけ揺れた。
抑えようとしても、
止まらなかった。
うまく、飲み込めるはずだったのに。
心の奥の、
どろどろとした感情の一部が
「……いいよなって」
ぽつりと、こぼれる。
「そうやって、誰にでも呼ばれて」
「ないこ?」
少し驚いた声。
もう、止められなかった。
「優しくてさ」
「頭も良くて」
「モテて」
言葉が、勝手に溢れる。
「……俺とは大違いだよ」
自分で言ってて、嫌になる。
けど。
口は止まらなかった。
「なあ」
気づけば、足が止まっていた。
まろの方を見る。
まろは、
小さく目を見開いていた。
俺は、そんなのお構いなしに言葉を続ける。
「それ、さ」
声が、少し震えた。
「ほんとに、〝大したことない〟の?」
一瞬の、沈黙。
「……ないこ、それは」
まろが、
少しだけ言葉を選ぶみたいに視線を落とす。
その間が。
その間ですら。
たまらなく、怖くて。
「……俺のもんなんじゃねぇの」
気づいたら、口に出ていた。
自分でも、何を言ってるのか分からない。
でも。
抑えられなかった。
あの約束した時から、
「お前の隣って。
……俺のもん、なんじゃねぇの」
そんな気持ちが。
言った瞬間、空気が止まる。
やばい、って分かる。
でももう、遅くて。
「……ないこ」
まろの声が、少し低くなる。
その響きに、はっとする。
……言、っちゃった。
取り返しのつかないこと。
今さらになって、頭が追いつく。
「……ごめ、俺、先帰るわ」
視線を逸らす。
「頭、冷やしてくる」
1秒でも早くこの場から逃げ出したくて、
一歩踏み出した、その瞬間。
パシッ、と腕を掴まれる。
強い力。
振りほどけない。
「まろ……?」
呼んでも、返事はない。
それどころか、
掴む力がじわじわ強くなる。
「まろ、ってば」
言い終わる前に、
ぐい、と引かれる。
足がもつれて、
半分引きずられるみたいにして、
そのまま歩かされる。
「ちょ、待って……!」
声をかけても、
やっぱり何も返ってこない。
夕方の道。
部活帰りの声とか、
遠くの車の音とか、
遠くの車の音とか、
周りは普通に流れてるのに、
こっちだけ、変に息が詰まる。
人通りを避けるみたいに、
細い路地へ入っていって。
ようやく、足が止まった。
「まろ?ねぇ、どうし」
最後まで言わせてもらえなかった。
一歩、距離を詰められて。
顎を持ち上げられて。
そのまま、
口を、塞がれたから。
「ん……ふっ、ぁ、まっ、て」
片手は掴まれたまま、
まろのもう一方の手が、
後頭部を押さえつける。
「……っ、ん、ぅ……」
そのせいで
息が、うまくできない。
腰を引いて離れようとしても、
詰められるばかりで。
それを繰り返すうちに、
いつの間にか、背中に壁が触れていて。
もう、後ろには下がれない。
逃げようとした体は、
気づけば、
まろの服を掴んでいた。
それしか、できなかった。
やっと、少しだけ唇が離れる。
「は……っ、まろ……」
乱れた呼吸のまま、名前を呼ぶ。
息が乱れる。
うまく、言葉にならない。
それよりも。
「……なんで……っ」
絞り出した声は、
思ってたより弱かった。
その瞬間、
もう一度、引き寄せられる。
今度はさっきよりも、
乱暴で。
「……逃げんな」
低く、押し殺した声。
耳元で落とされて、
ぞくり、と背中が震える。
「自分で言うたんやろ」
後頭部に添えられた手に、
少し力がこもる。
「〝俺のもん〟って」
視線を外そうとしても、
顎を軽く持ち上げられて、
無理やり、向き合わされる。
「……なら、最後まで言えや」
まっすぐな目。
逸らす余地なんて、どこにもない。
「中途半端なまま、逃げんな」
その言葉が、深く刺さる。
「……っ、ちが、」
否定しようとして、
言葉が、続かない。
何を、否定したいのかすら、
分からなくなる。
「……違く、ないやろ」
かぶせるように、静かに言われる。
少し柔らいだ声が、
余計に追い詰めてくる。
「……ないこ」
名前を呼ばれる。
近すぎる距離で。
「俺、期待してええんよな」
息が、止まる。
視線が、揺れる。
逸らそうとしても、逸らせない。
何も、言えない。
まるで、時間が止まったように。
代わりに、
ぎゅっと、服を掴む手に力が入る。
それだけで、
全部見透かされてしまいそうで。
「……ほら」
小さく、まろの口角が上がる。
「ちゃんと、教えて?」
息がかかる距離で、
まっすぐ、見つめられる。
「……っ」
喉が、うまく動かない。
言わなきゃいけないのに。
『伝えるだけでもええと思う』
分かってるのに。
「……ち、がぅ……」
やっと出た声は、
情けないくらい、小さくて。
でも。
首を振ることも、
否定も、できなかった。
その時点で、
もう全部が俺の答えみたいなものだった。
「……はは」
小さく、息を吐く音。
「分かりやす」
どこか嬉しそうで、
少しだけ、困ったみたいな声。
「顔、真っ赤やで」
指先で、頬に触れられる。
びくっと、体が揺れる。
「……なあ、ないこ」
さっきよりも、ずっと優しい声。
「それで、〝違う〟は無理あるやろ」
図星を突かれて、
何も言い返せない。
視線を逸らしたくても、
逃がしてもらえない。
「……っ」
きゅっと、唇を噛む。
それが俺の精一杯だった。
「……もうええわ」
ぽつりと、落とされる声。
一瞬、心臓が強く跳ねた。
……え。
そう思った瞬間。
ぐい、と引き寄せられて。
今度はさっきよりも、
少しだけ優しく、唇が重なる。
「……っ、ん……」
さっきみたいに、抗えない。
だけど。
今度は、無理やりじゃなくて。
確かめるみたいに、ゆっくりで。
噛み締めた唇をほどくように。
「……好きって言ってや」
唇が離れたすぐあと、
すぐ近くで、囁かれる。
「俺のこと」
目と鼻が触れる距離。
もう、誤魔化せる気もしなくて。
「……っ、」
なのに。
言おうと思えば思うほど、
喉の奥が震えて、
余計に言葉にできない。
「……な」
額が、軽く触れる。
「もう、離さんから」
その声は、
さっきよりもずっと柔らかいのに。
不思議と、
さっきよりも強く、俺を縛りつける。
「……俺もやし」
ぽつりと、続けられた急な言葉に。
一瞬、思考が止まる。
……え?
今、なんて……
「俺も、ないこのこと好きやから」
理解が、追いつかない。
ただわかるのは
胸の奥が、
一気に熱くなること。
「せやから」
指が、そっと頬に触れる。
「ちゃんと、こっち見て」
ゆっくりと、
顔を上げさせられる。
「これからは、隠さんでええよ」
まっすぐな目。
俺の心のすべてを
かき乱すような、
暴き出すような、そんな目。
「全部、俺に見せて」
言葉はいらない。
そんなもの、なくたって
もう、お互い十分わかっているから。
だから俺はその代わりに、
今度は自分から、まろに重なった。
「は〜、やーっと付き合うたん?」
次の日。
初兎ちゃんに
昨日あったことを話すと、
そんなふうに言われた。
あのあと、
どうやって帰ったのかも、
あんまり覚えてない。
ただ、
やけに近かった距離と、
触れた温度だけが、
やけに鮮明に残ってる。
「……別に、そんなんじゃないし」
目を逸らしながら、小さく返す。
「は?その反応でそれ通る思っとる?」
即ツッコまれて、言葉に詰まる。
「いや、だって……なんか、その……」
うまく説明できない。
というか、したくない。
思い出すだけで、
どうしようもなく顔が熱くなる。
「ほら見ぃ、真っ赤やん」
楽しそうに笑うから
「うるさい……」
誤魔化すように、机に伏せる。
「で?どっちから言うたん?」
そんな俺を気にせず、
初兎ちゃんは
次々質問してくる。
「……」
「キスした?」
「……っ、初兎ちゃん!!」
思わず顔を上げると、
にやにやした顔が目に入る。
「ほぉ、図星か」
「ちが……いや、違くは……」
途中で言葉が崩れる。
もう何言っても無駄な気がした。
「はいはい、もうええわ」
くすくす笑いながら、
初兎ちゃんが頬杖をつく。
「でも、よかったやん」
ふっと、少しだけ優しい声になる。
「ずっと引きずっとったやろ」
その言葉に、
一瞬だけ息が詰まる。
「……まぁ」
小さく、頷く。
胸の奥に引っかかってたものが、
少しだけ軽くなる。
「ようやく、って感じやな」
そう言って、軽く笑う初兎ちゃん。
そのとき。
「なに楽しそうにしとん」
聞き慣れた声がして、
びくっと肩が揺れる。
顔を上げると、
まろが、すぐ近くに立っていた。
「……っ」
一瞬で、昨日のことがよぎる。
まともに見れなくて、
反射的に視線を逸らした。
「あ、そうや。ちょうどええタイミングで」
初兎ちゃんがにやっと笑う。
「まろちゃん、バレンタイン貰った?」
どくん、と心臓が鳴る。
「……チョコは、もらってへんな」
あっさりした返事。
「え、あの子のは?」
初兎ちゃんが目を丸くする。
「あれは、頼みごと。
チョコ渡してくれへんかって」
「ほんまに?」
「ほんま」
軽く頷いてから、
ほんの一瞬、間が落ちる。
その沈黙のあと。
ふっと、こっちを見る。
「あぁ、でも」
その一言で、
空気が変わる。
「チョコやないけど」
ゆっくりと、言葉を選ぶみたいに。
「欲しかったもんは、ちゃんともらったで」
「……お?」
初兎ちゃんが首を傾げる。
「なにそれ、どういう意味?」
にまにまと、意味ありげに笑う。
それに対して
まろは、
くすっと小さく笑って返した。
「そのまんまやけど」
そう言いながら、
視線は、ずっとこっちのまま。
……なんでこっち見てくんの。
その視線の意味が分からなくて、
なんか、そわそわする。
「……ないこ」
名前を呼ばれる。
低くて、優しい声。
「ちゃんともらったよな、俺」
「……え?」
思わず聞き返す。
何のことを言ってるのか、
うまく掴めない。
昨日のことが一瞬よぎるけど、
それとこれとが繋がらなくて。
「……っ、」
視線だけが絡んで、
余計に分からなくなる。
でも、
妙に、胸の奥がざわつく。
理由は分からないのに。
「え、ちょ、待って待って」
初兎ちゃんが割って入る。
「それってさぁ——」
にやにやした顔で、
俺たちを交互に見て。
「そういうこと?」
「さあな」
はぐらかすみたいに言いながらも、
まろは一歩も引かない。
むしろ、
何かを含んだみたいに視線を絡めてくる。
「……っ」
居心地が悪くて、
思わず視線を逸らす。
「ほんまお熱いこっちゃ」
小さく笑われる。
「???」
全く意味が理解できなくて、
頭の中が?マークで埋め尽くされる。
え、まじでまろどうした?
さっきから、言ってることも態度も、
よく分からない。
やけに距離近いし、
こっちばっか見てくるし。
変に意識しそうになって、
余計に落ち着かない。
「ま、ええわ」
まろが軽く肩をすくめる。
「チョコはあとでもらうし」
さらっと続けられたその一言に、
また心臓が跳ねる。
「……っ!?」
思わず顔を上げる。
「逃げんなよ」
小さく、でもはっきりと。
その声音は柔らかいのに、
拒ませる気なんて最初からないみたいで。
何も言い返せなくなる。
雰囲気がとろりと甘い感じになったところで
「猫宮、ちょっといいか」
不意に声をかけられ、
空気が一瞬でほどける。
3人分の視線が、そっちへ向いた。
「……あー……だる。タイミング悪」
まろが小さく舌打ちまじりにこぼす。
あのーまろさん??
先生相手にそれ言う!?
心の中で即ツッコんだ。
「すぐ行きます」
口ではああ言ってても、
返事はちゃんとして、
そのまま立ち上がる。
まろは振り返ることもなく、
教室を出ていった。
「……っ」
張りつめていたものが、一気に緩む。
「……無理」
小さく漏れる。
「この空気、ほんと無理……。
俺溶ける……」
また机に突っ伏した。
顔が熱いまま、下がらない。
「いや溶けてるやんもう」
呆れたような声。
「がち無理、まじ黙れ」
顔を隠したまま、くぐもった声で返す。
からかわれてるのは分かってるのに、
それに反応する余裕もない。
「てかさぁ」
初兎ちゃんが、少しだけ間を置いた。
「まろちゃんも、素直やないよなぁ」
その一言に、
ぴくっと指先が動く。
「……なにが」
顔は上げないまま、聞き返す。
「チョコの話」
さらっと続けられて、
心臓が変に跳ねる。
「届けるように言われた相手。
ないちゃんやろ」
少し楽しそうな声。
「……え?」
思わず顔を上げた。
「あの子、ちらちら見とったの
まろちゃんやなくて、ないちゃんやったし」
言いながら、
まろが出ていった扉を見つめて、
軽く肩をすくめる。
「それに、まろちゃんが
誰かに渡しとる様子もなかったしな」
ひとつずつ、積み重ねるみたいに。
「もし仮に断っとったら、
あの子、直接ないちゃんに行ったやろ?」
一拍、間が落ちる。
「それ、避けたかったんちゃう」
「……なんで」
気づけば、そう聞いていた。
「さあ?」
わざとらしく濁しながら、
こっちを見る。
「まぁないちゃんは、
告白されても断るやろうけど」
少しだけ、声が落ちる。
「そもそも、させたくなかったとか」
「……っ」
言葉が、詰まる。
胸の奥が、ざわつく。
「で、毎年チョコも受け取らんのは」
少しだけ、笑いを含んだ声。
「本命以外いらんから、とか?」
その一言で、
全部、繋がる。
「……じゃあ」
喉が、ひりつく。
「さっきの、『もらった』って……」
「そのまんまやろ」
あっさり返される。
「チョコやなくて、ないこ本人」
にやっと笑われる。
「……っ!!」
一気に顔が熱くなる。
さっきの視線も、
言い方も、
全部の意味が、今さら分かって。
「……むり……」
小さく漏れて、
また机に突っ伏す。
今度は、顔を隠すみたいに深く。
「破壊力えぐいよな、あれ」
上から、楽しそうな声。
「ほんで?」
少しだけ、やわらぐ。
「チョコ、どうするん」
「……渡す」
間を置かず、答える。
自分でも驚くくらい、迷いはなかった。
「やろな」
くすっと笑われる。
「まあ、頑張りや」
軽く背中を押される。
「……うん」
小さく頷く。
ポケットに入れたままの手に、
じんわり力が入る。
勢いで言ったはいいけど。
『チョコ、渡す』なんて。
……そもそも、
まだ準備できてないんだよな。
昨日は、
あんな流れになるなんて思ってなくて。
用意なんて、何もしてない。
でも。
さっきの言葉が、頭から離れない。
『チョコもあとでもらうし』
あんな言い方されたら。
「……逃げられないじゃん」
ぽつりと漏れる。
「なにが?」
初兎ちゃんが覗き込んでくる。
「……なんでもない」
首を振ってごまかす。
そのとき、
教室の扉が、がらっと開いた。
「ただいま」
何事もなかったみたいな顔で、
まろが入ってくる。
「はや」
初兎ちゃんが呟く。
「たいした用やなかったし」
軽く肩をすくめながら、
そのまま、こっちに視線が向く。
「……っ」
また、目が合う。
さっきの続きみたいに。
逃げたくなるのに、
今度は、逸らせなかった。
「……なに」
先に口を開いたのは、向こう。
少しだけ、試すみたいな声。
「いや……」
言いかけて、止まる。
喉が、うまく動かない。
だけど。
ここで言わなかったら、
たぶん、ずっと言えない。
「……あのさ」
ぎゅっと、手を握る。
「今日、放課後……空いてる?」
一瞬、沈黙が落ちた。
「……え?」
まろが、少しだけ目を細める。
「何かあった?」
「……その」
視線が、逃げそうになるのを堪えて。
「チョコ、作るから」
ちゃんと、言い切る。
「……家で」
そこまで言って、
一気に顔が熱くなる。
「……来る?」
言ったあとで、
遅れて恥ずかしさが押し寄せる。
なにこれ。
誘い方、これで合ってるのか分からない。
「……ん、分かった」
あっさりした返事。
たったそれだけで、
心臓が跳ねる。
「……ほんとに?」
思わず聞き返すと、
「嘘ついてどうすんねん」
少しだけ呆れたように言って、
そのまま、ぐっと距離を詰められる。
「……っ」
逃げる間もなく、
軽く額をつつかれる。
「ちゃんと用意しとけよ」
低く、少しだけ楽しそうな声。
「……っ、分かってる」
小さく返すと
「楽しみにしとくわ」
そう言って、ふっと離れる。
それだけなのに、
さっきより余計に意識してしまう。
じっとまろを見つめていると
「はいはい、ごちそうさま」
横から、呆れた声。
「教室でやるなや、そういうの。
周り巻き込まんといて」
その一言で、
またぶわっと顔が熱くなる。
「……っ」
何も言い返せなくて、
ただ俯くしかない。
「わかりやすすぎなんよなぁ、ないちゃんは」
「ふは、また真っ赤」
楽しそうな声が重なって、
そのまま、笑い声が広がる。
「……もういい」
小さく呟いて、
机に突っ伏した。
ちなみに顔の熱は、全然引かなかった。
「できそ?」
「んー、あと、固まるの待つだけ」
放課後。
家に帰って、
ほとんど間を置かずにチョコを作り始めた。
……とはいっても、
本格的なものじゃない。
溶かして、流して、冷やすだけ。
それでも、
やけに手元が落ち着かなかった。
「……さっきから危なっかしいな」
背後から、低い声。
「別に」
ぶっきらぼうに返すけど、
見られてると思うと、
余計にやりづらい。
「失敗してもええけど」
すぐ後ろで、気配が近づく。
「俺の分やし」
「……っ」
その言い方、ずるい。
思わず振り返ると、
近い。
思ってたより、ずっと。
「なに」
少しだけ目を細めて、
覗き込まれる。
「……なんでもない」
視線を逸らす。
さっきまで教室にいたはずなのに、
距離感が、全然違う。
静かで、
甘くて、
逃げ場がない。
「ほら」
不意に手首を掴まれる。
「冷蔵庫、入れんのやろ」
「あ、……うん」
そのまま促されて、
チョコの型を持ち直す。
距離が近いまま、
横をすり抜けて、
冷蔵庫を開ける。
「ここでええ?」
「大丈夫」
棚に置いて、
そっと扉を閉める。
かち、という音がやけに響いた。
「……」
沈黙が落ちる。
……やること、なくなった。
どうしよ、こっから。
「……できるまで、ちょっとかかるけど」
「知ってる」
即答。
「んー特に何も考えとらんかったけど。
何かする?」
こちらを一瞥して、
にやりと笑うから。
俺は、言葉に詰まる。
「……っ」
なんか、ずるいな。
さっきから。
俺の思ってることなんて、
全部分かってるみたいな顔して。
「まぁ、何もせんでもええけど」
1度、どこか斜め上を見てから、
また俺の方を見る。
「時間」
少しだけ、笑う気配。
「何もしないのはもったいないやん?」
その一言が落ちたあと、
わざとみたいに、少しだけ間が空く。
逃げるなら今、って言われてるみたいで、
なのに、足は動かない。
気づけば、
じり、と距離を詰められていた。
「俺がその時間もらってもいい?」
選択肢なんて、
最初からないみたいな聞き方。
その言い方で、
昨日の熱が思い出されて。
「……っ」
視線が、絡む。
さっきよりも、
もっと近くで。
「……好きにすれば」
やっとのことで絞り出す。
相変わらず、可愛さも素直さも
どちらも微塵も持ち合わせていないが。
「へぇ」
楽しそうな声。
まろには、バレバレのようだ。
「言ったな?」
そのまま、
ひょいっと身体を持ち上げられる。
「……っ、ちょ、」
言い終わる前に、
しっかりと抱き留められて、
逃げ場を塞がれる。
「暴れんな」
低くて、少しだけ優しい声。
「おとして壊れたら困るやろ」
「……え、それ、今?」
急に場違いなこと言ってくるし、
まろが俺を落とすなんてありえない。
だから、
チョコ持ってる時に言えよ
と呆れたように言うと、
小さく笑われる。
「今やからやろ」
意味深に返されて、
何も言えなくなる。
目をぱちりと瞬かせたまま、
その言葉の意味を飲み込めずにいると——
ふっと、体が揺れる。
歩き出した気配。
「……っ」
抱き上げられたまま、
状況に追いつかないまま顔を上げると、
「あ、そや」
不意に、そんな声が落ちてきた。
「その指輪、
もうちょいしたら新しいのに買い替えよな」
「……え」
間抜けた声が出る。
だって、まろは
「……もう覚えてないかと思ってた」
ぽつりと零すと、
足が、ぴたりと止まる。
「は?」
少しだけ顔を覗き込まれる。
距離が近い。
逃げ場なんて、
横抱きの時点で最初からない。
そのせいで、
心臓の音ばかりがやけに大きく響く。
「忘れるわけないやろ」
あっさり返されて、
言葉が詰まる。
「まぁ俺もサイズ合わんくなって
家で飾っとるだけやしなぁ……」
そりゃ、そう思ってもしゃあないけど。
そう言いながら、
ぐっと腕に力がこもる。
落ちないように、って分かるのに、
余計に意識してしまう。
「ないこもちゃんと持っといてな?」
低く落ちる声。
「次は、外されへんやつにするし」
「……なにそれ」
「そのまんまやけど」
わずかに口元が緩む。
そのまま、また歩き出して
「何度でも言うけど。
俺、離す気、ないから」
ぽつりと落とされる。
「……っ」
ベッドのすぐ前で、
ようやく足が止まる。
そのまま、ゆっくりと下ろされて。
まろと向き合って座り合う。
だから、
距離はほとんど変わらないまま。
「約束。
大きくなったら結婚しよ」
昔と同じ言い方。
同じ笑い方で。
「……覚えてたんだ」
小さく呟くと、
ふっと笑う気配。
「前は小さすぎて
相手されへん年齢やったけど、
今度は本気やから」
その言葉が、
やけに重く落ちる。
「……っ」
息が詰まる。
冗談じゃないって、
分かる言い方だった。
「……忘れんなよ」
もう2度と、
あんな想いはごめんだから。
隣。
しっかり俺で埋めさせてね。
「そっちこそ」
軽く返される。
でも、
視線は一切逸らされない。
「ん」
小指を差し出されて、
反射みたいに、自分の指を重ねる。
絡まる指先。
あの時と同じで、
あの時とどこか違う。
でも、
「ゆーびきりげーんまん――」
なんて
歌い出だしたら、あの時の俺らのまんま。
少し照れくさいけど、
不思議と、止める気にはならなかった。
「——嘘ついたら針千本飲ーます」
歌い終わって、
ほんの一瞬、間が空いて。
それから、
どちらからでもなく、ふはっと笑い出す。
「……懐かし」
小さくこぼすと、
「やろ?」
近い距離のまま、返ってくる。
「でも今の方が、効き目強いけどな」
ぽつりと落とされる一言。
「……っ」
ひとこと一言が、
俺のことを想ってくれてるんだって分かるから、
ここ2日、心臓がもちそうにない。
視線を逸らしかけて、
でも、逸らしきれなくて。
「……ほんと、ずるい」
小さくこぼすと、
「なにが」
すぐ近くで、楽しそうな声。
「全部」
短く返すと、
くすっと笑われる。
「褒め言葉やと思っとくわ」
軽く流されて、
余計に何も言えなくなる。
少しだけ、間。
絡めていた指先が、ゆっくりほどけて。
そのまま、
当たり前みたいに距離は変わらない。
「……なぁ」
ふと、落ちてくる声。
「来年も」
一拍、間があって。
「チョコ、よろしくな」
さらっとした言い方なのに、
逃げ場をくれない響き。
「……なんで上からなんだよ」
思わず返すと、
「早速、約束破るん?」
意地悪く笑いながら、
すぐに返ってくる。
「……っ」
言葉に詰まる。
さっきの、指切り。
そういう意味もあったのかよ。
「……気が向いたら」
やっとのことでそう返すと、
「ふーん」
少しだけ、含みのある声。
「じゃあ毎年、こっち向かせるわ」
さらっと言われて、
一気に顔が熱くなる。
「……は?」
「楽しみにしとけ」
軽く笑う気配。
近いままの距離で、
逃がす気なんて、やっぱりなくて。
「……ほんと、勝手」
小さく呟くと、
「今さらやろ」
即答。
少しも悪びれた様子がない。
「……否定しないんだ」
呆れたように言えば、
「する理由ある?」
さらっと返されて、
言葉に詰まる。
「……ないけど」
ぼそっと返すと、
満足そうに、ふっと笑われる。
いきなり、
とん、と肩を押されたかと思えば、
そのまま距離が一気に縮まる。
「……っ」
反応するより先に、
視界がまろで埋まって。
「ほな、長話もこの辺で」
低く落ちる声。
「そろそろ、喰わせてもらおうか?」
冷蔵庫の中。
チョコが固まるまでの時間。
やけに長く感じるのは、
きっと
こいつのせいだ。
『大きくなったら結婚しよ』
小さい時に見た
誰もが見るような夢物語
自然に消えていくはずだった
あのシーンは
永遠に俺を縛りつけて、
「っあ、も、ぉくきて……っ、!
むぃ、これこゎ、!!」
「っは、かわ」
今も俺を捕らえて離さない
Coming soon……
コメント
2件
コメント失礼します😭😭 1話の甘酸っぱさMAXからのでろ甘カップルになるのほまにやばくて好きすぎて😭😭マジでドキドキしながら読んでました😭😭😭😭💖💖💖「俺のもんなんじゃねぇの」←←コレ!!コレ半端ないです桃さんの不器用が混ざりつつも本音が溢れ出ちゃうのガチ好きだし、青さんが一枚どころか上手すぎるしそれに桃さんもタジタジしてほまに解釈ド一致でした😭😭😭💖💖失礼しました😭😭😭💖💖