君の善意に兄弟が殺された、僕に残されたのは君に殺されるという恐怖のみ。
だだっ広くなった食卓の長椅子に座り込んでいた。ここには家族の生活感が残っていて安心とともに信じ難さを僕に与えた。カレンダーは12月の2週目を指していた。窓は早朝の薄暗さを写していて夜と錯覚をしてしまう。
苛立ちを抑えきれずに穴を開けてしまった壁。それを覆う紙袋だったもの、違和感は生活の上で消えていった。知らず知らずのうちにめくれ上がってしまった壁紙。電気に照らされた自分の影に不快感を覚える。
どうして僕だけが取り残されてしまったのだろうか。それほどまでに彼に何かを抱かせてしまったのか。
家にいることが出来なかったので僕は電車に乗ることにした。朝方の通勤通学時間、加えて向かいのホームは都市へ向かう線路だったのでなかなかの人達が電車を待っていた。しばらくして向かいの線路には電車が来て彼らを連れ去った。数えられる程度の人々が残される。まもなくしてこちらにも電車が来た。車内は暖かかったが、末端の冷えは取れなかった。数名が立っていて時々揺れて千鳥足のようになる。もう少しで乗り換えをする駅だ、人混みをかき分けて歩く。
電車を待っていた。ただ待っていた。快速列車というワードが頭を巡った。ライトが目の前の線路を照らし出した、まるでここが本来の歩くべき道だと言うように。だから僕は光に手を伸ばした、助けて欲しかったから。神様が居ないと知った。救世主など存在しないと知った。もう頼れるのは光だけだった。線路の金属を照り輝かせているそれこそが救いだと思った。
瞬間、血の匂いを感じた。鉄を口にくわえたような味と人々の恐怖と驚愕の叫び。痛みを感じ取れるほどの余裕はない。他者を思いやれるほどの優しさは誰かが奪っていった。もう僕は人でなくてもいい、兄弟と同じにして。兄弟と一緒にいさせてよ。何度喧嘩してもいい、怒られてもいい、嫌われてもいい。だから、願いを叶えてよ、僕らに悪夢を見せた君が。
「た……すけ……て、ぼく……らの……あくむ……」
「Natürlich bist du mein Freund!」
(もちろん、君は僕のトモダチだからね!)
とても面白かったよ、神も救世主も居ないって僕が言ったことを簡単に信じてくれるだなんて、まるでコメディだ。神も救世主も雲の上の更に上、ここからは見えないところに住んでいるよ。御使いが僕を神の前に運んでくれたけれど逃げたんだ。だってみんながみんな、ずっと微笑んでいて怖かったから。それに、君たちを「助け」たかったからね。やっとみんな僕とトモダチだ。これからだよ、君たちの魂を僕が「救う」まで。「助け」られて安堵だなんてさせないよ、まだまだ夢を見せてあげる。
連れ戻すよ、どこに居たって。
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