テラーノベル
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これは、私が異世界に転生し、何を見たかを記した物語である。
「いやぁ、にしても、私ら撥ねられて正解だったかもねぇ。」
そう言って目の前の女はグラスをあおる。短い髪をクイクイと指先で弄びながら、足を組み変えた。
「そうだなぁ、だがしかし、死して尚、結局は軍隊に20年もこき使われてら。」
私たちはそう言って笑いあう。死して尚、軍隊にこき使われる。私は何か悪い事でもしたっけかな?
私は手元を見る。細く白い腕に手。見るだけで笑ってしまう。前世で陸上自衛隊に居た頃の面影は、とっくにない。長ーく伸ばした髪を手で払い、うなじを見せて首の一つも捻れば、色気は満点。
タバコを取り出して、指先から火を起こして点ける。この世界に魔法はある。が、せいぜい指先にロウソク程度のとろ火を出すぐらい。
完全に科学に負けた、衰退する能力だ。…タバコのマッチ要らずなのは、重宝しているが。
私はこれまた長ーい耳を手癖でさわさわと撫でながら、タバコを吹かす。そんな事をしながら、ふと脳裏に過去を思い出す。
自衛隊を退官し、警備会社に行って、偶然出くわした同期と飲んで…
仲良くトラックに轢かれてお陀仏。即死だったんで、苦痛がなかったのが幸いだったかな。
それで目が覚めたらこの、エルフの姿。まったく傑作である。
今となっては、遠い昔のよう…と言いたいが、事実、人間から見れば本当に遠い昔になってしまった。
そしてなんと、その傑作は、二部作で上映された。
私と共に死んだ親友である同期もまた、転生して来ていたのだ。それも奴は、前世大好きだった、「海軍」の制服に身を包んでいた。
「ウワーッ!」
叫び声を上げて、ショートヘアのエルフが机に突っ伏す。そいつは、私の“元”同期、宮崎 宗太(みやざき そうた) …改め、「ベルン・アルエット」。ノルデン海軍兵長。
「チックショー、やっぱりお前強いなぁ」
「ハハハ、お前だって昔っから弱いまんまだな」
「なにぃ!?」
私たちは軍服も脱いで、馴染みの酒場で二人で吞んでいた。私もアルも、かれこれ20年近く軍にいる。長命だからこその勤続年数だ。それでも私はまだ上等兵だし、アルは兵長。
この日もとっくに何べんと話した昔話に花を咲かせている。
私の暮らすノルデン”共和国”は、10年程前に王政から共和政へ移行した。前世の革命による共和政の某国とは違い、存外穏便に事は行われた。そしてここ最近、隣国の「クラスノフ帝国」と、何やらきな臭い雰囲気となっていた。隣国は主に、いわゆる”ダークエルフ”とよく言われる、褐色肌のエルフたちが暮らす国だ。200年ほど前の内戦で独立したらしく、それから国交はほとんど無く、一兵卒の私たちはその詳細を知る由もない国である。その雰囲気の悪さは、今日になって一兵卒の身からも分かるほどになっていた。
今日、酒場に呑みに来ている理由は、この翌日に、お互い「大演習」を控えていたからだ。
「今年の大演習は、海軍と共同かな?」
「そうじゃないかあ?俺が聞いた分には、エレット海岸の演習場沖でやるって話だからねぇ。」
「ふーむ、なるほどな。」
私たち一兵卒には、具体的な内容はあまり知らされず、当日になって指示されることが専らだった。
私が口を尖らせていると、アルエットは神妙な面持ちになって、私にグイっと近寄ってきた。…顔は綺麗だし、良い匂いがした。こいつ、女にすっかり慣れているなぁ。そんな事をふと思いつつ、私が何だと思ってキョトンとしていると、向こうから切り出す。
「…ねぇ」
「…何だよ」
「…この演習ってさ、『そういうこと』かな?」
私は最初、意味が分からず、思わず聞き返す。
「『そういうこと』って、何だよ?」
「…開戦だよ」
私の脳裏に、バットでぶん殴られたような衝撃が響いた。十分にあり得る話だし、酒で忘れていたが、私自身も、同じ考えを持っていなかった訳では無かったから。
“演習”と称して動員し、開戦するというのは、前世でも聞き覚えのある話だ。ここが異世界とはいえ、それをやらないという保証は一切ない。
「…戦争か」
私も、流石に真剣にならざるを得ない。大きなため息が、無意識の内に漏れ出した。
「うん、まぁ、可能性は…高いよな。」
「だろう?…どうする。」
どうすると言われたって、私は前世では国防の義に駆られて入隊したのだから、その反面、現世はゆっくり生きたい。しかし、兵隊が「嫌だ」と言うのも、多分どの兵隊も思ってるだろうが口にするのはなんだか気恥ずかしい。私は何とか言葉を探して答えた。
「どうする…ったって、俺と、お前。”その為”に今まで頑張ってきたんじゃないか。」
私の言葉に、アルは腑に落ちたような落ちてないような、ムーっとした顔をした。
「そりゃあ…そうだけど。」
私は元気づけるようにして、話を繋ぐ。
「ついに来た、腕の見せ所だぜ。日本軍歌の『索敵行』でも言うじゃん、『夜泣きしていたこの腕だ』なんてさ」
「…むぅ。」
「むぅ、じゃねぇやい!」
肩をバシッと叩くと、アルは驚いたような顔をして、フッと笑みをこぼして、手元のグラスをあおった。
「…そうだね、俺達このために兵隊やってんだもんね。それぐらいの気概で行かないと、ダメだねぇ」
私は正直言って居心地が良いとは言えなかった空気を明るくする事に成功し、内心安堵した。私も一緒にグラスをあおり、アルにグッと近寄る。
「俺とお前、場所は違えど、戦争になれば一緒に戦うんだ。先に死んだら、ぶっ飛ばすからな!」
「そういうお前こそ、死んだらただじゃ置かないよ?」
「「ハハハハハ!」」
私たちはまた、なんてことのない雑談に爆笑し始めた。そして私たちはひとしきり呑んだ後、アルの帰隊が迫ったので、勘定をする。
「なぁ、アル。」
「ん?何?」
「…絶対、絶対に、また、ここで呑もう。戦場で一緒に吞むんじゃダメだ。絶対に、『ここ』でだ。」
私は無意識のうちに声に力を込めて、アルの目を一直線に見つめて言った。アルはきょとんとすると、一拍置いて、
「…解った。絶対、『必ず』。…ね!」
アルは勘定を済ませ、軽く別れを告げて、道を歩いて行った。私はその背中を、悲しみとも、嬉しさとも言えない心持ちで見送った。
私も隊に帰り、営内で荷造りをする。下着や替えのシャツ、作業着を背嚢という革のリュックに詰める。中には木枠が入っていて、平ための四角に整えられ、その周りに、コの字を90度左に回したようにして外套を巻き付け、背嚢についている革のベルトで留める。他に天幕、毛布、飯盒に円匙という携帯シャベルを括り付けて完成だ。翌朝、私は軍服に身を包み、背嚢を背負って、汽車の乗車列に並んだ。私の乗る汽車が到着すると、私は見た目に驚いた。汽車の後ろに連結されている、車輪の上に箱が乗っかったような車両。それが十数台後ろに連なっている。
こりゃあただの貨物列車じゃないか。せめて椅子にくらい座らせてくれよ。と、届かぬぼやきを心に抱えつつも、私はその「貨車」に乗り込んだ。エルフの四肢にはあまりに厳しい、冷たく硬い床を踏みしめて―。
いはとり
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Bac164
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コメント
1件
おお、第1話からすごく良い雰囲気だね!転生してもなお軍隊に所属してる皮肉な設定、めっちゃ刺さるわ。しかもエルフで20年も兵隊やってるとか、そのキャリアの重みがすごい伝わってきた。アルとの馴染みの酒場でのやり取りも温かくて、でも「開戦」って言葉が出た瞬間の空気の変わり方がリアルだった。最後の「絶対ここで呑もう」って約束、泣ける。戦争の足音が近づく中での別れ際、めちゃくちゃ心に残った。続きが気になる!