テラーノベル
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私が貨車に足をかけ、乗り込むと、床板はギイギイと不安な音を立てた。大丈夫かこれ…、と思いつつも、奥の方に詰め、続々と兵隊が乗り込んでくる。その間貨車はグラグラ揺れて、先が思いやられた。私の知る限り、エレット海岸演習場までは汽車で12時間ほど。いつもは客車だからのんびり出来るけれど、なぜだか今回は貨車に乗らされている。…理由は、なんとなく察しがつく。大兵力の移動に、客車を使い切って貨車を動員してるのだろう。私は仕方がないが腰を据える事にした。が、痛い。木の床だが、思っているよりも痛い。エルフの華奢な尻に、床板はまるで石が食い込むように攻撃を加えてくる。おまけに兵隊は乗せれるだけ押し込まれるので、中で身動きをとることすらままならない。すると、兵隊の一人が、
「あ、藁だ!藁がある!」
と言い、みんなでバケツリレー方式で回し、自分たちの尻に敷いた。たかが藁だが、これがかなり違う。私は何とか安住の地を得てため息を漏らし、ホッと一息つくことができた。
やがて前の方からプシューっと、蒸気の音が聞こえ、汽笛を力強くボォーッと鳴らすと、ゴットンゴットンと汽車が動き出した。
「ねぇ、ミリア」
ふと、隣合っていた同分隊のエル・ミルフット上等兵が話しかけてきた。ピョコピョコと跳ねている髪の毛がフワフワとしていて、正直かわいい。実はエルの方が先任なのだが、もう何年も一緒なので、とっくに言葉遣いは砕けている。
「今回の演習、かなり大きいって話だよ。何やるのかな?」
「う~ん、まぁ規模は、俺たちが貨車に詰められてるくらいだし、大きいだろうけど…」
「最近きな臭いしさ~… もしかして、戦争でも起きたりして。」
やっぱり、皆薄々勘付いている部分はあった。アルも、エルも、私も。
「…もし、戦争になったら、どうする?」
私の質問に、エルは頭を私の肩に乗っけて、考える。…ガワは女でも、心は男だから、こう引っ付かれると、何かと落ち着かなくなる。陸自時代の男臭いトラック移動と比べるとマシかもしれないが、あっちの方が気は楽だった。
「…私は」
「…私は、特に未練も無いからなぁ。がむしゃらに戦うね。」
そう言うエルはにししと笑っているが、私はその言葉に、只ならぬ物を覚えた。エルフは不老不死に近いのだから、こういう子が居ても、おかしくはないのだろうが…
私達を載せた汽車はのんびりと黄金色の麦畑の間を通っていく。外から見れば呑気なものだが、中は当然、貨車にサスペンションなどあるわけがないので、ガタガタと、尻に対して猛烈な攻撃を仕掛けてくる。藁を引いているとはいえ、参ってしまう。胸の内ポケットから時計を取り出すと、なんとまだ2時間しか経っていない。寝ようにも揺れと痛みで寝付けず、話すったって話のタネにも限りがある。
ふと、兵隊達がぼちぼち話していた会話が、「いよいよ始まるかもしれない」という空気に当てられてか、クラスノフ帝国軍の話題となった。
「ねぇ、そういえば”ダルケ”の奴ら、小銃を新型に更新したらしいよ。」
「本当?どんな銃なの」
「なんでも、私たちと同じボルトアクションで、私たちより短いらしい。」
「へぇ」
私は聞き耳を立ててその話を聞いていた。「ダルケ」というのは、クラスノフ帝国のダークエルフ達の事を指す。そんな彼女等が、新型の小銃を採用したというのだ。私はへえと思いつつも、「短い」という言葉が引っ掛かった。
私たちの暮らすノルデン共和国は島国。帝国は海を挟んだ向こう側の大陸にある国。その間に挟まる海に帝国領の列島・諸島、大小合わせて20ばかりの島が連なり、距離感で言えば、前世の二大陸間にある列島に近い。
そこにある島々は基本的に森や密林に覆われており、草原というものは余りない。かつて前世の日本軍は、南方のジャングルにおいて「九九式短小銃」を使用していた。なぜならそれは短く、木々の間も取り回せるからである。そのような短い小銃を彼女らが持っているというのであれば、私たちの小銃よりも向こうの方が有利という事になる。これは些細な事かもしれないが、半自動小銃の無いこの世界においては、大きなアドバンテージとなりえる。
私は先に待ち構えているかもしれない戦争に、暗いものを感じていた。
その気分を反映したように空はすっかり暗くなり、皆は指先に火を出してランプ代わりにしたりして、ぼやぼやと貨車に揺られていた。
「スゥ…スゥ…」
エルは頭を肩に乗っけたまま寝息を立てている。密着していて体温が良く伝わる。こんなところでよく寝れるなあと思いつつ、ポッケに入れていたタバコを取り出す。前世と違って両切りだから、慣れないと吸うのが少し難しい。
#切ない
雪代 真希奈
43
くろぬか
2,870
42
吸う前にトントンとタバコの先を手のひらに叩きつけ、葉を寄せて、唇に挟んで潰す。これをしないと口に葉っぱがモロ入ってくるのだ。エルフになって本当に良かったのは、魔法のおかげでライター・マッチ要らずな点だ。簡単にロウソク程度だが火を起こすことができる。私はこの衰退した魔法に感謝しつつタバコに火を点け、一服した。私の吸うタバコは甘みがあり、とても香り高い。前世でも私はピースを愛していて、よく吸った。タバコに含まれるニコチンは鎮静作用をもたらし、こんな痛々しい移動も、ホッと一息つくことができる。吸い始めると、兵隊がなぜみんな吸っているかがよく分かる。と、個人的には思う。
そうして、そろそろ尻も無くなろうかという頃、汽車はギィーッと、甲高いブレーキ音を立てた。エルフの耳にはかなり痛い音である。隣のエルも「んあ!?」なんて言って起き上がった。
そして駅に到着し、兵隊皆立ち上がって伸びをして、狭い貨車の中でカチコチになった身体を伸ばす。腰やら首がボキボキと鳴って、心地良い。小銃を手に取り、汽車を降りた。エルと一緒にまだ揺れている足を進めて駅舎を出ると、その光景に息を吞んだ。
海岸一面に広がる、人。大量の天幕と人が海岸線を覆い、師団どころの数ではない。ざっと見積もっても、5万くらいはいようかという規模だった。演習でもそんな数は集まらない。
「なぁ…エル…」
私は空いた口も塞がらぬままエルに問いかけた。
「…うん…」
「俺たち…どうやら年貢の納め時だぞ…」
エルはぽかーんとしたまま、
「…私…まだ妹たちに挨拶してないよ…」
私たちは眼前に広がる戦争の足音に、震えか、武者震いか―。ただ、足をすくませるばかりだった―。
コメント
1件
読み終えました……。 貨車での移動、めっちゃリアルで辛そうだった……藁が救いって、壮絶すぎるよ😭 戦争の気配に、みんな「なんとなく」気づいてる感じがすごく伝わってきた。 特に「短い小銃」の話からの主人公の考察、静かにゾッとした……。 エルフの耳に響くブレーキ音とか、細かい描写が本当に好きです。 最後の「俺たち…どうやら年貢の納め時だぞ…」からのエルの「まだ妹たちに挨拶してないよ…」が沁みました。次の展開、気になりすぎます。 続き、静かに待ってますね🌙