HEAVENで二時間程過ごした後、そろそろ良い時間という事もあって、お開きになった。
明石さんと礼さんはこの後どちらかの自宅で飲み直すらしく、それに俺も誘われたものの眠いからと断り、タクシーに乗った二人を見送った。
HEAVENのキャストたちも各々帰って行き、俺は酔いを冷ます為徒歩で帰ろうと歩み進めて行くと、少し前に帰ったはずのカナが道の途中でしゃがみ込んでいるところに遭遇した。
「おい、大丈夫か?」
「……あ、……えっと……芹、さん」
「何してんだよ、こんなとこで」
「ちょっと……気持ち悪くて……」
そう口にするカナの顔色はもの凄く悪く、今にも倒れそうな程青い顔をしている。
「ったく、酒飲めねぇくせに無理して飲むからだろ? とりあえず場所変えるぞ」
「え? あ、せ、芹さん!?」
面倒事にはあまり関わりたくは無いが、夜中に具合の悪そうにしている女を放っておく訳にもいかず、ひとまず場所を変えようとカナを抱き上げる。
「じっとしてろ。少し行ったとこに公園あるから、とりあえずそこのベンチにでも座って夜風に当たっとけ。そうすれば、いくらかマシになるだろ」
「す、すみません……」
抱き上げた瞬間は驚き、恥ずかしさから降りようとしていたカナだけど、俺の言葉に納得したのか具合が悪過ぎて話すのも辛くなったのか、すぐに大人しくなって身を任せるようにもたれかかってきた。
「ほら、これ飲んでゆっくりしてろ」
公園に着き、カナをベンチに座らせた俺はすぐ側の自販機でミネラルウォーターのペットボトルを買って彼女に手渡し横に座って自分用に買ったブラックコーヒーの缶を開けた。
「……すみません、芹さん。ご迷惑をおかけして」
「別にいいって…………それより一つ聞きたい事があるんだが、聞いてもいいか?」
「え? あ、はい」
座って夜風に当たり、水を飲んで少し落ち着いてきたらしいカナが謝ってくるも、それについては気にしてない事を告げた俺は、それよりも聞きたい事があると前置きをしてある質問をした。
「アンタさ、何でキャバ嬢やってんだ? 言っちゃ悪いが、向いて無さすぎだろ?」
「そ、それは……」
質問を聞いたカナが言いづらそうに黙り込んだその表情から、余程の事情を抱えてるとみた。
「悪ぃ、言いづらい事なら無理には聞かねぇよ。その様子から見るに、金が必要なんだろ?」
「はい、すみません……」
水商売を選ぶ理由なんて、大抵が何かしらの問題を抱えている事が殆どで、人には言えない事情もあると理解しているから、それ以上深く追求しなかった。
けど、カナのように金が必要だったり、酒が苦手なのに無理して飲んだり、極端に男慣れしていない初心なキャバ嬢は危険だ。
そういう女を狙って客として店を訪れ、上手い事を言いながら金をチラつかせてアフターに誘って身体の関係を強要したり、無理矢理酒を飲ませて酔わせ、抵抗出来ない状況で襲いかかる、なんて事案も少なからず存在する事を知っているから俺はカナに忠告する。
「とにかく、気をつけた方がいい」
「え?」
「酒が苦手なら無理に飲まない方がいい。具合が悪いなら無理せずにボーイにでも話して家まで送って貰えよ。深夜に道端でしゃがみ込んでちゃ、変な男に襲われるぞ? 夜の仕事に就くなら、それなりに危機感持てよ」
説教じみた忠告に、自身の危機感の無さに気付いたカナは返す言葉が無いのかそのまま黙ってしまう。
そんなカナを前に俺は、少し言い過ぎたのではと柄にも無く気になった。
(つーか俺、何言ってんだろ。説教みたいな事、柄じゃねぇっつーのに)
今日会ったばかりのキャバ嬢相手に何をしているのか、自分でもよく分からない。
黙ったままのカナに再度声を掛けようとした、その時、
「ありがとうございます。芹さんて、親切な方ですね。これからは気をつけますね」
俺に言われた事を素直に受け止めたカナは、HEAVENで挨拶を交わした時とは少し違う、ぎこちなさの無い笑顔を向けて感謝の言葉を口にした。
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