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“あの日、私だけが取り残された坂道”
Episode 06 #もう一度認められたい
「な、何言ってるの……?」
私は乾いた声で笑おうとしたけれど、引きつった笑みすら作れなかった。千尋の真っ直ぐな視線が、私の心の奥の暗闇を容赦なく照らし出しているようで、たまらなく怖かった。
「私がお医者さんになりたいのは、自分の意志だよ。他にやりたいことなんてないし……」
「本当に?」
千尋は一歩、私の方へ足を踏み出した。
「美咲、テストの点数が返ってくるたび、今にも消えちゃいそうな顔してる。中学の時は、もっと楽しそうに勉強の話をしてくれたじゃん。今の美咲は、まるで誰かに見張られて、怯えながら走らされてるみたいに見えるよ」
「……何を知った風なこと言わないでよ!」
激しい感情が、抑えきれずに口から飛び出した。
「千尋には関係ないって言ったじゃん! ちょっとやっただけで点数が取れる千尋には、私の気持ちなんて一生わからないよ! 私はね、一番じゃなきゃ意味がないの! 勉強ができなきゃ、お母さんに……誰にも、認めてもらえないの!」
叫んだ瞬間、はっと息を呑んだ。
言ってはいけない本音が、一番見下していたはずの千尋の前で、完全に決壊して溢れ出てしまった。
屋上に、沈黙が流れる。風の音だけが、私たちの間を通り抜けていく。
私は自分の両腕を抱きしめるようにして、ガタガタと震えていた。惨めで、恥ずかしくて、今すぐこの場から飛び降りたいほどの衝動に駆られる。
千尋は、怒ることも、呆れることもしなかった。ただ、悲しそうな目で私を見つめていた。
「……そっか。お母さんのため、だったんだね」
「違う、私は……」
「美咲。私は、勉強がちょっとできるだけで、別に天才でも何でもないよ。ただ、私は『間違えること』が怖くないだけ。美咲は、一問間違えるたびに、自分の全部が否定されたみたいに傷ついてる。そんなの、見てて辛いよ」
千尋の言葉は、私の心を優しく、だけど深く抉った。
間違えることが怖い。その通りだった。私にとってバツ印は、お母さんからの拒絶を意味していた。だから完璧を求め、暗記に頼り、少しの応用でパニックになっていたのだ。
「私、もう行くね」
これ以上ここにいたら、自分が完全に崩壊してしまう。私は千尋に背を向け、屋上の重い扉を押し開けて逃げ出した。
階段を駆け下りながら、涙が次から次へと溢れて止まらなかった。
千尋に本音を見透かされたことへの悔しさ。
そして何より、千尋が言った「お母さんのため」という言葉が、あまりにも図星だったことへの絶望。
私は、お医者さんになりたいんじゃない。
ただ、お母さんに「お前は価値のある子だ」と、もう一度抱きしめてほしいだけだった。
その日の夜、私は塾の自習室に向かうと言い残して、家を出た。だけど、どうしても塾のビルに入る気になれず、街の明かりから逃げるように、人気のない小さな公園のベンチに座り込んでいた。
カバンの中には、進路希望調査の紙が入っている。
#現実世界
雪代 真希奈
107
#進化
雪代 真希奈
25
#儚い
nanaha.
236
期限は明日。
街灯の冷たい光の下で、私はペンを握り締めたまま、またしても動けなくなっていた。
コメント
1件
うわあ…第6話、めっちゃエモかった😭💔 美咲の「一番じゃなきゃ意味がない」って叫び、胸にグサグサ刺さった…。お母さんに認めてもらいたいがための完璧主義、千尋に核心突かれて崩れる様子が切なすぎる。進路希望調査の前で動けなくなるラストも、続きが気になりすぎて今夜眠れない〜!🌸