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それから明け方まで帰りを待ったけど、ゆずきが戻って来ることはなかった。
その日の夜、仕事を終えた俺は、ゆずきの家に行ってみた。
ピーンポーン―――
インターホンを押してみたけど、何の反応もなかった。俺はゆずきから渡されていた合い鍵を鞄の中から出そうと手を入れた。
あれ? 鍵がない。いくら探しても合い鍵は見つからなかった。なくす訳はない。誰かが意図的に鞄から取り出さなければ、鍵が1人でになくなるはずはなかった。だとしたら――鞄の中に合い鍵が入っていることを知っている人物以外にありえない。まさか、ゆずきが――。
ピーンポーン―――
ピーンポーン―――
トントントン―――
インターホンを鳴らし、ドアを何度かノックしたけど、やはり何の反応もなかった。
「ゆずき、いないのか?」
ドア越しに、ゆずきを呼んだけど、人の気配があるような感じはしなかった。とりあえず、ゆずきに電話をしてみた。
『お掛けになった電話は現在使われておりません』
どういうことだ?
「あのぉ――その家の人、今日引っ越したみたいですよ」
ドアの前で立ち尽くしていると、隣人の若い女性に声をかけられた。
「引っ越し?」
「引っ越し業者の人が来て、荷物を運び出していましたよ」
「そんなバカな――」
確かに、アメリカにファッションの勉強をしに行くとは言ってた。まさかそれを伝えた翌日にいなくなるなんて――。だとしたらもう、ゆずきは日本にはいないかもしれない。もう手遅れかもしれない。電話も解約し、引っ越してしまったゆずきと連絡をとる手立ては何もなかった。
「うぅぅぅぅぅ――」
俺は車に戻り、運転席側のドアノブに手をかけた瞬間涙が溢れだした。そしてドアガラスに額を押し当てると、声を殺して泣いた。ゆずきと2度と会えないんじゃないかと思ったら胸が苦しくなり呼吸が荒くなっていった。
「はぁはぁ、はぁ―――」
呼吸するのが苦しくなり胸を押さえた。余りのショックとストレスで、どうやら過呼吸になったようだ。ゆずきがいなくなった寂しさと過呼吸のせいで胸が苦しく、涙が次々と溢れ出しては止まらなかった。
その夜は何もする気も起こらず、真っ暗な部屋の中でただ涙を流して一夜を明かした。