マナの結婚式前夜―――
仕事から帰り、誰もいない部屋で1人夕食をとっていると電話がかかってきた。
『お疲れのところすまないね』
『いえ、大丈夫です。それより、明日結婚式だというのに俺なんかと話していていいんですか?』
『全然問題ないよ』
『マナと一緒にいてあげなくて大丈夫ですか?』
『どういう意味だい?』
『マナは学生の頃からあがり性で、前日は朝方になるまで寝られなくて、寝坊して学校を遅刻してましたよ』
『その心配はないようだよ。マナちゃんは結婚式の準備と緊張で疲れて眠ってしまったから』
『そうですか、それなら明日は大丈夫ですね』
『明石くん、本当に来ないつもりなのかね?』
『えぇ、世良さんには申し訳ないと思いますけど、行くつもりはありません』
『そうか、仕方無いな。それよりゆずきさんのことだけど、何か連絡はあったのかい?』
『どうしてそのことを?』
『ゆずきさんが、いなくなる数日前に私のところに来たんだ』
『それじゃあ、俺らが招待されたパーティーの時にはこうなることはわかっていたんですか?』
『そういうことになるな』
『そうだったんですか――でも、ゆずきは何しに世良さんのところに?』
『君のことで話があってね。それより、ゆずきさんは何でニューヨークなんかに行ったと思う?』
『ファッションの勉強をするためです』
『ホントにそれだけだと思ってるのかい?』
『他に何かあるんですか?』
『・・・・・・。君のためだよ。詳しいことは私の口から言うようなことじゃないけど、ゆずきさんは君を想って自ら身を引いたんだ』
『意味がわからないんですけど――』
『その答えがわかる日が来るかもしれないし、来ないかもしれない。だからと言って、私はそうさせるつもりは、サラサラないがね。でも1つ言えることは、ゆずきさんは明石くん、君を本気で愛してるよ。愛してる人に幸せになって欲しいから、別の生き方を選んだ』
『俺だってゆずきを愛してますよ。結婚だって考えてました』
『君はゆずきさんのために、自分の幸せより相手の幸せを望んで別れを選べるかね』
『俺は――』
この時、何故か俺の脳裏にマナの顔が浮かんできた。
『君はゆずきさんと同じで、愛する人のために別れを選んだ。それなら、ゆずきさんの気持ちがわかるハズだし、その時が来たらゆずきさんが出した答えに報いるために覚悟を決めるべきだ。ふぅぅ〜〜私は何を言ってるんだ。誰の味方をしてるんだか――』
『言ってる意味はよくわかりませんけど、ゆずきが出した選択を無駄にはしたくないと思ってます』
『そうならないことを願うけど、私も来るべき時が来たら、覚悟を決めて、後悔しない生き方を選ばせてもらうよ」
『はぁ――』