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丸い輪郭、薄い紅色に染まった頬、大きな瞳に愛らしい唇。
だが声は低く、小柄ながらも体つきは女のそれではない。
どうやら女の子に間違えられるのはよくあることのようで、反射的に声を荒げてしまったことを彼は詫びた。
「助けてくれたのに、ごめん……」
ううん、いいよと星歌は大人の威厳を取り繕うが、頭の中ではまったく別のことを考えていた。
──金髪王子っちゃあ、まさしくソレなんだけどなぁ。思ってたやつじゃあ……ないんだよなぁ。金髪ったって根元1センチくらい黒いし、こりゃブリーチだよ。ニセ王子だよ。やっぱり現実はこんなもんかなぁ。
「うちの店、今日のお昼に開店するんだけど。えっと、あなたはあの学校の……先生?」
微妙な沈黙は星歌の年齢を見定める時間だったのだろう。
童顔の星歌だが、残念ながら女子高生に見られることはなかったようだ。
特に今は、少々おかしな格好をしている。
「いやぁ……昨日まで事務員だったんだけど、失業しちゃってねぇ。ハハッ……」
なるべく軽い調子を心がけたものの笑い声は乾いており、結果的にニセ王子の頬を引きつらせるに至る。
シマッタ、そこまでぶっちゃけて話すことはなかったなと、星歌は「アハハ」という白々しい笑い声とともに後ずさる。
そのままジリジリと距離をとり、ゆっくりと遠ざかろうとの魂胆だ。
しかし、企みはあえなく潰えた。
ニセ王子が一気に距離を詰めてきたのだ。
「じゃあ……じゃあさ、うちでバイトしない?」
息がかかるほど近く。
少女のように整った顔が近付く。
星歌は反射的に一歩、身を引いた。
「バイト? ここのパン屋さんで? でも私、パンなんて作ったことないし……」
パンどころか、食事もろくに作れやしない。
ひとり暮らしをはじめてから、スーパーの惣菜かコンビニ弁当ばかりだ。
弟の家に押しかけた際に手料理をせがむのが、唯一のまともな食事といえようか。
そんな彼女の前で、ニセ王子は「作んなくていいよ」と手を振ってみせた。
「僕は藤翔太
ふじしょうた
。パン職人……の、まだ見習いかな。パンを作ったり、接客したりする予定。落ち着いたら、店番を手伝ってくれるバイトさんを募集しようって話してたんだ」
「うーん、でもなぁ……」
藤翔太と名乗ったこのニセ王子。
慣れ親しんだ様子でウンウンと頷いてみせる。
困っていたところを助けられたと感じているのか。
すっかり星歌に気を許している様子が窺える。
「兄がこの店のオーナーなんだ。もうすぐ来ると思うんだけど。一応フランスで修行してきたパン職人だよ」
「ほほぅ、おフランスで?」