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想像してみる。
少女と見紛う可愛らしい男性ふたりが、焼き立てのパンを手に笑い合っている様子を。
可愛らしい兄弟が営む、可愛らしいパン屋さん。
なんだか童話の世界のように思えて、星歌は目を細めた。
そのときだ。
翔太が「あっ」と声をあげた。
口元には笑みの形が浮かんでいる。
「初日から遅刻ってどうなんだよ、兄さん」
「ごめんごめん」という声の方へ視線を向けて、星歌は目を見開いた。
可愛らしい兄弟という想像図がガラガラと音たてて崩れていく──兄のほうだけ。
そこにいたのは長身の青年。
金髪碧眼、日本人が持ち合わせない彫りの深い顔立ちと爽やかな笑顔。
青い目が、怪訝そうに星歌に注がれる。
「あっ、困ってたところをこの人が助けてくれて……」
説明をはじめる翔太の前にズイと星歌は身を割り込ませた。
「モノホン王子じゃないか! ついに神は私に微笑んだ……いえ、オーナー! 私の名は白川星歌と申しまする。今日から一生懸命働きまする!」
「えっ、はぁ……」
喰い気味にガシッと両手を握られ、モノホン王子は明らかに顔を引きつらせる。
「バ、バイトさんだよ。僕がスカウトしたんだ」
翔太の助け舟に、ようやくモノホン王子の表情がやわらいだ。
「そ、そうか……よろしくね」
「よろしくお願いしまっす! 白川星歌、パンの道を究める覚悟でござりまするっ!」
「ハ、ハハッ……」
心強いでしょ兄さん、と幾分ズレた気質らしい翔太が嬉しそうに星歌を店内に招き入れる。
早速今日から来てくれるなんて助かるよ。色々教えるからよろしくねとの翔太の言葉に星歌は張り切るも、一時間後には後悔という石を背中にしょったようにうなだれていたのだった。