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えーと、まず第一に。
本当にすみません。
めちゃくちゃ軽薄かもしれないですこの話。
いやね、あらすじとしては
15歳の太宰、18歳の太宰、22歳の太宰がまた前話のように白い部屋に閉じ込められるんですけど。
あの、本当にすみません。
先に言っておきます・・・。
アンチコメントしないでね!!!!(ギャン泣き)
18歳太宰はポートマフィア抜けてすぐのころの太宰です。
そこは、底冷えのするような純白の空間だった。
上下左右、どこを見渡しても境界線の見当たらない、ただただ白いだけの部屋。窓もなければ扉もない。家具と呼べるものは、部屋の中央に置かれた一つの丸テーブルと、それを囲む三つの椅子。そして、真っ白な壁の一面には、まるでそこだけインクを吸い込ませたかのように、黒々とした文字が浮かび上がっていた。
『織田作之助について語らないと出られない部屋』
三人の「太宰治」は、その文字をそれぞれ異なる距離感で見つめていた。
時空の歪みによって一つの空間に囚われたのは、すべて同じ一人の人間。しかし、その身に纏う空気も、重ねてきた年月も、決定的に異なっていた。
「……だれ?」
最初に声を漏らしたのは、ぶかぶかの黒外套を着た十五歳の太宰だった。全身のいたるところに真新しい包帯を巻いた、ポートマフィアに入ったばかりの彼女は、不可解そうに首を傾げた。その瞳は、年相応の幼さを残しながらも、現世のすべてを退屈だと切り捨てるような、凶暴で冷徹な光を放っている。その記憶の引き出しをどれだけひっくり返しても、壁に刻まれた名前には、掠りもしない。マフィアの最下層の構成員など、幹部候補たる彼女の視界に入るはずもなかった。
「っ、」
その隣で、十八歳の太宰が、目に見えて顔を苦しそうにしかめた。
つい数日前まで最年少幹部として血生臭い日常の頂点に君臨していた彼女は、壁の文字を見た瞬間、心臓を鋭利な刃物で突き刺されたかのような衝撃に襲われていた。呼吸が浅くなり、無意識のうちに自分の胸元を強く掴む。指先が小刻みに震え、視界が激しく歪むのを、奥歯を噛み締めて必死に堪えていた。数日前まで包帯で覆われていた琥珀色の瞳が目に見えて震える。
「っ、はは……」
そして、三人のなかで最も年長である二十二歳の太宰が、乾いた笑みを漏らした。
砂色のトレンチコートをまとい、首と手首にだけ包帯を巻いた彼女は、自嘲気味に唇を歪めて天井を仰ぐ。その笑い声には、何の感情も籠もっていなかった。いや、籠もりすぎていて、これ以上傷つかないために、脳が強制的に出力した残響のようだった。彼女の瞳は、暗い深淵のようでありながら、どこかすべてを受け入れた後の、ひどく静かな凪を湛えている。
「ねえ、二十二歳の私。十八歳の私」
十五歳の太宰が、二人の異常な反応を見逃さずに、冷ややかな視線を向けた。
「その名前、誰のこと? 二人とも、随分と面白い顔をしているけれど。私の知らないところで、そんなに特別な人間にでも出会ったわけ?」
十八歳の太宰は何も答えられなかった。ただ、痛みに耐えるように視線を床に落とし、荒い呼吸を整えようとしている。彼女にとって、その名前は今まさに、最も新しく、最も深く、そして決して癒えることのない致命傷そのものだったからだ。
「……出会ったよ。出会ってしまったんだ」
二十二歳の太宰が、静かに椅子に腰掛けながら呟いた。その声は、驚くほど低く、部屋の白い壁に吸い込まれていく。
「十五歳のあなたには、まだ分からない。でも、十八歳の彼女にとっては……今まさに、世界そのものである人の名前だよ」
「世界?」
十五歳の太宰が、小馬鹿にしたように鼻で笑った。
「莫迦莫迦しい。私にそんな、世界と呼べるような大層なものができるはずがない。この世はただの退屈な泥泥で、私は早くそこから抜け出したいだけだ。男だの人間だのに、私の世界を預けるような真似、絶対にするはずがないよ」
「そうだね。私も、そう思っていた」
十八歳の太宰が、掠れた声で割り込んだ。彼女はまだ胸元を掴んだまま、這い出るような声で壁の文字を見つめる。
「何もないと思っていた。暗闇のなかにしか、私の居場所はないと信じていた。……でも、あの人は、その暗闇の底に、ただ当たり前のように居てくれたんだ」
十八歳の太宰の脳裏に、錆色のコートを着た、冴えない風貌の男の姿が浮かび上がる。
口数が少なくて、いつも煙草の煙を燻らせていて、おつかいのような仕事ばかりしている男。人殺しをしない、マフィアのなかでは奇人扱いされている、不殺の構成員。
「あの人はね、私の心中への誘いを、いつも『そうか』って淡々と受け流すんだ」
十八歳の太宰が、ぽつり、ぽつりと語り始めた。その声は、痛みを伴いながらも、どこか狂おしいほどの愛着を孕んでいる。
「誰もが私を『マフィアの黒い亡霊』だと恐れるなかで、あの人だけは、私をただの寂しがり屋の迷子みたいに扱う。私の突飛な我が儘も、くだらない嫌がらせも、全部大きな掌で受け止めてくれる。……あの人とバーで酒を飲んでいる時だけ、私は自分が、この息苦しい世界で息をしてもいいような気がしたんだ」
十五歳の太宰は、その言葉を黙って聞いていた。冷徹な瞳の奥に、微かな動揺が走る。未来の自分が、これほどまでに一人の人間に執着し、心を乱されているという事実に、本能的な恐怖を感じていた。
「それだけじゃないだろう?」
二十二歳の太宰が、十八歳の自分を見つめながら、静かに促した。その瞳には、過去の自分に対する痛切な同情と、愛おしさが混ざり合っている。
「……ええ」
十八歳の太宰の目から、一筋の涙が零れ落ちた。しかし、その声は熱を帯びていく。
「あの人は、夜の底でも……私を、これ以上ないほど優しく満たしてくれた。普段は朴念仁のくせに、二人きりになると、驚くほど強くて、大きな身体で私を組み伏せるの。硝煙の匂いがする無骨な手で、私の身体に刻まれた傷跡を、包帯越しにひとつひとつ確かめるように愛撫して……私が我慢できなくなって声を上げるまで、じっくりと私を焦らすの。……あんなに深い愛撫、知らなければよかった」
彼女の肩が激しく震える。
「繋がっている時、あの人は私の背中を大きな掌でしっかりと支えて、何度も、何度も、深く私を突き上げてくれた。その熱い身体に押し潰されながら、彼の胸に顔を埋めて、激しい鼓動を聞いている時だけは……私は、死にたいなんて気持ちを完全に忘れられた。あの人の内側に溶けて、一つになってしまいたかった。あの人がいれば、私は生きていけるって、本気で信じていたのに……っ」
十八歳の太宰は、そこまで言うと、ついに顔を覆って慟哭した。
彼女の世界は、崩壊したのだ。その最愛の男は、彼女の目の前で、血の海に沈んだ。彼女を置いて、逝ってしまった。
部屋のなかに、十八歳の彼女の悲痛な泣き声だけが響き渡る。
十五歳の太宰は、その姿をただ凝視していた。自分が未来で経験するであろう、圧倒的な幸福と、それに続く絶望の深さに、言葉を失っていた。
「……私の番だね」
二十二歳の太宰が、静かに立ち上がった。彼女の表情は、どこまでも穏やかで、しかしその奥には底なしの虚無が横たわっている。
「十八歳の私が言ったことは、全部本当だよ。彼は私の光だった。そして、私の目の前で消えてしまった。……でもね、彼は死に際に、私に呪いを遺していったんだ」
二十二歳の太宰は、自身の首と手首の包帯に触れた。
「『人を救う側になれ』って、あの人は私に言った。正義も悪も、私にとってはどちらも同じだと知りながら、それでも、少しでも美しい側を歩けと、私の頭を撫でてくれたんだ。……酷い男だよ、本当に。自分はさっさと死んでしまったくせに、私に『生きろ』と命令するなんて。だから私はマフィアを辞めて、今は泥臭く人を救う仕事をしている」
彼女は壁の文字を見つめ、どこか遠い目をしながら、自嘲的に笑う。
「夜、一人でベッドに入るとき、今でも彼の大きな掌の温もりを思い出す。私を強く抱きしめ、私の名前を呼んでくれた、あの掠れた低い声。私の中に残された彼の熱だけが、今でも私をこの現世に繋ぎ止めている。私はね、今でも彼を愛しているよ。彼が遺した呪いを守るためだけに、私は今日ものらりくらりと、この退屈な世界で生きながらえているんだ」
二十二歳の太宰が語り終えた瞬間、ガチリ、と空間の底から響くような重々しい音が鳴り響いた。
真っ白な壁に書かれていた『織田作之助について語らないと出られない部屋』という文字が、じわじわと薄れて消えていく。そして、文字があった場所の壁が左右にスライドし、元の世界へと繋がる眩い光の通路が現れた。
条件は達成された。太宰治が、それぞれの段階で、その男について「語った」からだ。
「……帰ろうか」
二十二歳の太宰が、涙を拭った十八歳の自分と、呆然と立ち尽くす十五歳の自分を振り返り、優しく微笑んだ。
「私たちは、それぞれ戻るべき場所がある。辛い現実も、これから迎える絶望も、すべてはあの人に繋がっているんだから」
十八歳の太宰は、まだ赤い目をしながらも、毅然とした態度で立ち上がり、黒い外套の襟を正した。
「……ええ。私は戻るわ。たとえこの先に、あの人の死が待っているとしても……私は、あの人と過ごす時間を、その温もりを、絶対に手放したくないから」
十五歳の太宰は、自分の白い手をじっと見つめていた。まだ見ぬ「織田作之助」という男。自分をこれほどまでに狂わせ、変えてしまう男。
「……莫迦莫迦しい……。でも……そこまで私を狂わせる男がどんな奴なのか、少しだけ興味が湧いたよ」
十五歳の少女は、ぶかぶかの外套を揺らしながら、最初に光の扉へと歩き出した。続いて十八歳の太宰が、その後に二十二歳の太宰が続く。
三人の太宰治は、互いに振り返ることもなく、それぞれの時空へと歩みを進める。
光の中に消えていく彼女たちの背中には、共通の、切なくも絶対的な「一人の男」の影が、生涯消えない刻印のように寄り添っていた。
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コメント
3件
なんか儚い寄りみたいな雰囲気ですこ……! 十五歳の太宰さんも織田作との出会いを大切にしてほしいし、ほかの年齢軸の太宰さんたちも思い出を忘れずに生きていってほしい…‼(´;ω;`)
わあああ、もうこのエピソード最高すぎて頭ぶん殴られた…!!😭💥💥💥 15歳と18歳と22歳の太宰が織田作について語るって設定、天才すぎん??18歳太宰の「あの人がいれば生きていけるって本気で信じてた」って台詞に心臓ぎゅうってなったよ…!!同じ人間の違う時点の傷の深さがリアルすぎて、読んでて苦しくなるほど刺さった…😢💔 22歳太宰が「彼の遺した呪いを守るために生きてる」って言うシーンもエモすぎて反則!織田作の温もりがずっと残ってる感じが切なくて愛おしい…! 素敵な作品本当にありがとうございます!!次回も楽しみにしてますね🌸✨