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ちょっと前話慣れないシリアス書いたので
コメディ全開です。
モロ中太♀っす
そこは、ただひたすらに真っ白で、無駄に広い空間だった。
四方の壁には継ぎ目一つなく、出入り口らしきものも見当たらない。部屋の中央にぽつんと置かれた丸テーブルと、それを囲む三つの椅子。そして、その真っ白な壁の一面には、まるで場違いなネオンサインのように自己主張の激しい文字が浮かび上がっていた。
『中原中也について語らないと出られない部屋』
「うわぁ……」
最初に文字を目にした十五歳の太宰が、心底嫌そうな、汚物でも見るかのような声をあげた。ぶかぶかの黒外套を着て、全身に包帯を巻いた彼女は、呆然と壁を見つめたまま一歩後退る。ポートマフィアに入ったばかりの彼女にとって、その名前は現在進行形で自分の平穏(主に精神的嫌がらせの楽しさ)を脅かす、最も騒がしい相棒のプロフィールの筆頭だった。
「げぇ……」
その隣で、十八歳の太宰が完璧に顔をしかめた。黒い外套を羽織り、右目に包帯を巻いたマフィアの最年少幹部である彼女は、まるで一週間放置された生ゴミの匂いを嗅いだかのような表情で、激しく舌を打つ。
「何これ? 誰の異能力? 太宰治に対する精神的拷問部屋かしら。こんな名前を口にするくらいなら、今すぐ致死量の薬を飲んでここを爆破した方がマシなんだけど!」
「あはは! いやぁ、相変わらずあの帽子置き場は時空を越えてまで私に迷惑をかけてくるんだねぇ!」
二人とは対照的に、お腹を抱えて爆笑し始めたのは二十二歳の太宰だった。砂色のトレンチコートをまとい、すっかり大人の女性の余裕を醸し出している彼女は、涙を拭いながら椅子を引いてどっかりと腰掛けた。
「まあまあ、十五歳の私も十八歳の私もうなだれてないで座りなよ。同じ『私』が三人揃って、しかも全員がなぜか女の姿で、話題が『あのチビ』だなんて。これはもう神様がくれた最高に悪質な冗談だよ」
「笑い事じゃないよ、二十二歳の私!」
十五歳の太宰がテーブルを叩いた。
「ただでさえ毎日『おい青鯖!』って怒鳴られて耳が痛いのに、なんでこんな謎の部屋でまであいつの話をしなきゃいけないわけ? そもそもあいつについて語ることなんて、身長が縮んだとか帽子がダサいとか、そのくらいしかないよ!」
「おや、本当にそれだけかい?」
二十二歳の太宰が、悪戯っぽく片目を細めて十五歳の自分を見つめた。
「胸に手を当ててよーく思い出してごらんよ、十五歳の私。君、一昨日の夜、自分の部屋で何をしてた?」
「っ、」
十五歳の太宰の顔が、一瞬にして真っ赤に染まった。ぶかぶかの外套の襟元をぐっと掴み、きょろきょろと視線を泳がせる。
「な、何のことだかさっぱり分からないね。私はただ、あいつの任務の報告書を白紙で出して怒らせただけ……」
「隠さなくていいよ、だって私は『君』なんだから」
二十二歳の太宰がニヤニヤと笑う。
「うーん、私の彼氏はね——あ、いや、十五歳の君にとってはまだ『最悪の相棒(予定)』だっけ? でも、もう身体の関係は持っちゃってるよねぇ? あのチビ、普段は『おいクソあま!』とか言って突っかかってくるくせに、ベッドの上だと信じられないくらい独占欲が強くて凶暴になるんだよ」
「ちょっと! 二十二歳の私、何言ってるの!?」
十五歳の太宰が叫んだが、二十二歳の太宰は止まらない。
「いいじゃない、減るもんじゃなし! あいつさ、重力を操る異能力のくせに、私を抱くときは重力なんて関係なしに、自分の腕の力だけでベッドにめちゃくちゃに縫い付けてくるでしょう? 私が『痛いよ中也、離して、死んじゃう』ってわざとらしく泣き真似をすると、一瞬だけすごく焦った顔をして愛撫が優しくなるんだよね。そこですかさず私が『なーんちゃって、嘘だよー』って笑うと、顔を真っ赤にして『この、クソ女がぁッ!』って怒鳴りながら、腰の動きを倍にして仕返ししてくるの! 本当に単純で扱いやすいよねぇ!」
「わー! わー! 聞こえない! 何も聞こえない!」
十五歳の太宰は両耳を塞いで激しく首を振った。しかし、その耳元までしっかりと赤くなっており、否定できない事実であることを物語っていた。
「ふん、子供だねぇ」
それを見ていた十八歳の太宰が、冷ややかに鼻で笑った。彼女は右目の包帯を指先でいじりながら、どこか気怠げに足を組む。
「幹部にもなっていない頃の私は、そんな可愛い小競り合いをしていたわけ? 悪いけれど、十八歳の私とあいつの関係は、もっとずっと泥沼で、濃厚よ」
「へえ、聞かせておくれよ幹部殿」
二十二歳の太宰が面白がって身を乗り出す。
「うーん、私の彼氏はね……一言で言えば、ただの『犬』よ。私がマフィアの幹部になって、あいつより立場が上になったものだから、夜の部屋ではそのフラストレーションを全部私にぶつけてくるの。仕事中は『太宰幹部』なんて他人のふりをして澄ましているくせに、二人きりになった瞬間、私の首筋に噛みついて犬のマークをつけてくるんだから、本当に躾のなっていない駄犬だわ」
十八歳の太宰は、黒い外套の襟を少しだけ広げ、自身の白い首筋を見せた。そこには、うっすらとだが、確かに人間が強く噛みついたような痕跡が残っていた。
「あいつ、私が他の男(主に黒い外套を羽織った一人称が「やつがれ」の人)の部下に指示を出しているのを見るだけで、その日の夜は目が完全に据わっているの。ベッドに私を放り投げたら、言葉での会話なんて一切拒否して、ただひたすら本能のままに突き上げてくるわ。重力で私の自由を奪って、私の手首をベッドのヘッドボードに固定して……私が快感で頭が狂って、あいつの名前を叫んで泣くまで、絶対に許してくれないの。あいつのあの低い声で『俺だけ見てろって言ってんだろ、治』なんて耳元で囁かれながらめちゃくちゃにされるの、悔しいけれど……まあ、身体の相性だけは最高に良いから、許してあげなくもないけれどね」
「げぇ、十八歳の私、随分とマニアックなことになってるじゃないか」
十五歳の太宰が引きつった笑顔で言った。
「あいつにそんな独占欲を向けられるなんて、考えただけで鳥肌が立つよ。私ならあいつのワインにこっそりタバスコを一本丸ごと仕込むね」
「あら、君もそのうちそうなるのよ、覚悟しておきなさい」
十八歳の太宰が不敵に笑う。
「さあさあ、最後は二十二歳の私の番だね!」
二十二歳の太宰が、ぱんと手を叩いた。彼女はすっかり楽しくなってしまい、テーブルの上に身を乗り出す。
「うーん、私の彼氏はね! 今やマフィアの最高幹部様になっちゃって、ますますお金を持ったから、買うワインのグレードが上がって大変なんだよ! 私はもうマフィアを辞めて探偵社にいるから、一応『敵対関係』ってことになってるんだけど……あいつ、全然そんなの関係なしに、私の安アパートに合鍵で勝手に入り込んでくるんだよね」
「えっ、マフィアを辞めてもまだ付き合ってるの!?」
十五歳と十八歳の太宰が同時に声をあげた。
「そうだよ? あいつ、私が探偵社で男の同僚(主に理想にうるさい眼鏡の男)と仲良く仕事してるのが気に入らないみたいでさ。アパートに来るたびに『おい、あの眼鏡とはどこまで進んでるんだ』とか、小学生みたいな嫉妬をしてくるんだ。可愛いでしょう? だから私が『えー? 国木田君とはね、毎日一緒に書類仕事をして、夜はね……』ってわざと焦らすと、あいつ、持ってきた高級ワインのボトルを机に叩きつけて、そのまま私を床に押し倒すんだよ」
二十二歳の太宰は、本当に嬉しそうに、声を弾ませて語る。
「探偵社に入ってから、私の身体を気遣ってか、普段のあいつの抱き方はすごく紳士的で、とろけるくらい甘い愛撫をしてくれるようになったんだ。私の包帯を一本一本、すごく愛おしそうに解いていって、傷跡に何度もキスをしてくれる。……でもね、その嫉妬スイッチが入ったときだけは別! 床に押し倒されたまま、スカートを乱暴に捲り上げられて、下着も引きちぎらんばかりの勢いで脱がされて、いきなり奥まで貫かれるんだ。床が固くて背中が痛いって言っても、『うるせぇ、お前が悪い』って言って、汗だくになりながら何度も何度も激しく腰を振ってくるの。あいつの帽子が床に転がって、オレンジ色の髪が私の視界を塞いで、あいつの熱い吐息と、私の情けない鳴き声だけが部屋に響き渡るあの時間……最高にコメディで、最高にエロティックだと思わないかい?」
二十二歳の太宰が語り終えると、部屋には一瞬、妙な熱気と沈黙が流れた。
十五歳、十八歳、二十二歳。それぞれの時代で、中原中也という男は、太宰治というめんどくさい女の取り扱い説明書を完全にマスターし、夜のベッドの上でその主導権を握り続けているらしかった。
「……はあ。結論として、あいつはどの時代でも、ただの単細胞で、嫉妬深くて、絶倫なチビってことだね」
十五歳の太宰が、諦めたようにため息をついた。
「そうね。でも、あの溢れんばかりの生命力と熱量だけは、私たちの乾いた身体にちょうどいい栄養剤になるのは認めざるを得ないわ」
十八歳の太宰がふっと口元を緩める。
「そうそう! あいつのあの熱の中にいるときだけは、心中なんて忘れて『あー、気持ちいいなぁ、生きてるなぁ』って思えるんだから、本当に大した男だよ、中也は!」
二十二歳の太宰が盛大に笑った。
その瞬間、ガチリ、と部屋のどこかで、何かが激しく噛み合うような派手な音が響いた。
真っ白な壁に浮かび上がっていた『中原中也について語らないと出られない部屋』という文字が、派手なエフェクトと共に霧散していく。それと同時に、壁の一部がガラガラと音を立てて開き、元の世界へと繋がる、これまた無駄に眩しい光の扉が現れた。
「おっ、クリアだ! さすが中也、名前を出すだけで部屋が壊れるなんて、破壊力だけは一流だね!」
二十二歳の太宰が真っ先に立ち上がり、トレンチコートの裾を翻した。
「じゃあね、過去の私たち! 私はこれからアパートに帰って、待ち伏せしているであろう中也に、今日の分の嫉妬を爆発させて、ベッドで腰が抜けるまで可愛がられてくるよ!」
「私は執務室に戻るわ。あいつ、私が急にいなくなったからって、今頃マフィアの廊下を壁ごと破壊しながら探しているに違いないもの。戻ったら、お詫びとして私の部屋で朝まで犬にしてあげるわ」
十八歳の太宰も、楽しそうに黒い外套を揺らす。
「げぇ、私はこれからあいつと共同任務だよ……。今日の夜は、絶対に怒りのあまり重力でベッドを壊される気がする。新しいベッドの弁償代、あいつの財布から抜き取っておかなきゃ」
十五歳の太宰も、文句を言いながらもその足取りはどこか軽かった。
三人の太宰治は、互いに振り返ることもなく、それぞれの時空にいる「最高に騒がしくて、最高に愛しいチビ」の元へと帰るため、光の扉へと飛び込んでいった。
扉が閉まる直前、空間には彼女たちの、全く同じトーンの、しかし最高に幸せそうな笑い声がいつまでも響いていた。
コメント
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もっのすっごく細かいところまで書かれててすきぃ そしてこの物語を書いてくれた夏の穂さんもすきぃ
わあ…これ、めちゃくちゃ面白かったです!「中也について語らないと出られない部屋」ってタイトルからして笑っちゃいましたけど、各年代の太宰がそれぞれ違う形で中也への愛と不満を語る構成が秀逸ですね。十五歳のツンデレ具合、十八歳の支配欲あふれる関係、二十二歳の大人な余裕と嫉妬スイッチのギャップ…どの太宰も中也にベタ惚れで、でも口では辛辣で、そのバランスが最高にコメディしてました。特に「ベッドの上では重力関係なく腕の力だけで縫い付ける」とか「安アパートに合鍵で入り込む」とか、細かいエピソードがキャラの魅力を引き立ててて、思わずニヤニヤしながら読みました。爽快で温かい読後感、ありがとうございます!