透明な放課後
 
 音が、消えた。
 風の音も、外のチャイムも、きんときの足音も
 全部──まるで
世界が「無音」のフィルターに包まれたように
 「…きんとき?」
 俺が振り向くと、そこにいるはずのきんときが
 いなかった。
 
 さっきまで確かにいたのに、消えていた。
 まるで「最初から存在していなかった」
 かのように。
 
 俺は、自分の手のひらを見た。
微かに震えている。
 
 目の前の紙切れ──
 『6人のうち、1人はもういない。』
 それを拾った途端、きんときが消えた。
 「…やっぱり、おかしいよ」
 呟いた声は
教室の壁に吸い込まれるかのようにして
消えていく。
 その時だった。
 
 「うん、そうだね。やっぱり”あの時”から変わったんだと思う。」
 
 ──声が、した。
それは確かに、俺の耳に届いた。
 だがそれは、自分の声だった。
俺は、ハッとして振り向く。
 
 黒板の前に、誰かが立っていた。
制服は俺と同じ。髪型も、背格好も、顔も。
鏡を見ているようだった。
 「……え?」
 「やっときずいたんだね、nakamu。」
 「だれ……?」
 「僕だよ。──未来の君。」
 
 
 
 言葉を失った。
 自分と同じ顔が、穏やかに微笑んでいる。
 「信じられないと思う。
でも、信じてもらわなきゃいけない。
これはもう、君だけの問題じゃないんだ。」
 「……どういうこと? 」
 俺は1歩、黒板の方へ踏み出す。
けれど、未来の”ぼく”は手を挙げて制した。
 「近ずかないほうがいい。
まだ”境界”が安定していない」
 「境界?」
 「自分と記憶の境目さ。君
があの紙を拾った時、
君の”記憶の中のきんとき”が1部、削去された。」
 「違うよ。きんときはいる?でも君の中から、きんときとの”関係”が1部、改ざんされたんだ。きずいたでしょ?何かがおかしいって」
 俺は、胸に手を当てた。
確かに
さっきまで一緒にいたはずのきんときの顔が、少しずつぼやけていく。
 声や表情、最近の会話が思い出せない。
 
 「──なんで、そんなことが起きるの……?」
 未来の”ぼく”は静かに答えた。
 「6人のうち
1人がこの”世界の記憶”を壊し始めた。
このままだと君もそのうち、
”誰かの記憶”から消される。僕みたいに。」
 「君みたいに…?」
 「そう。僕はもう、本来の世界にはいない。
君が選ばなくては行けないんだ。
誰が嘘をついていて、誰を、信じるのか。
──ただし、選び損ねたら、全員、消えるよ」
俺の頭の中に、6人の顔が浮かぶ。
 broooock、シャークん、
きんとき、スマイル、きりやん。
 誰が嘘をついている?
そもそも、自分の記憶は正しいのか?
「ぼく」は本当に未来の自分なのか?
 疑問が、喉の奥で固まった。
 その時、放課後のチャイムがなった。
 キーンコーンカーンコーン…。
 音が戻ってきた。
世界が、元に戻る。
 俺が再び顔をあげた時──そこにはもう、
「ぼく」はいなかった。
 ただ、机の上に1枚の紙が残されていた。
 『broooockには近ずくな。
broooockは──まだ、嘘をついている。』
 
 
 
 
 つづく─
 ーーーーーーーーーーーーーーーーー
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!