テラーノベル
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「追われてる顔してんな」
その言葉に、緋八マナの体が強張る。
反射的に立ち上がり、後ずさった。
旅装束の青年は「あー、悪い」と片手を上げた。
「脅かすつもりじゃねぇよ」
陽に焼けた肌。
少し乱れた青髪。
腰には使い込まれた刀。
ただの旅人には見えなかった。
けれど、その目には不思議と敵意がない。
「……誰」
警戒を隠さず尋ねると、青年は少し笑う。
「小柳ロウ」
「……え?」
「名前」
「あ、いや、それは分かるけど……」
マナが戸惑うと、ロウはくつくつ笑った。
「お前、面白いな」
「初対面で言うことちゃうやろ」
「その反応する時点で面白い」
からかわれている。
マナはむっと頬を膨らませた。
ロウはそんなマナを見ながら、少し視線を細める。
「まぁ、安心しろ。追手じゃねぇ」
その言葉に、マナの肩が僅かに揺れた。
図星だった。
ロウはそれ以上問い詰めてこない。
ただ、じっとマナを見る。
「……腹減ってるだろ」
そう言って、腰の袋から干し飯を取り出した。
マナは目を瞬く。
「ええん?」
「その顔で遠慮されても困る」
「どんな顔やねん」
「今にも倒れそうな顔」
否定できなかった。
数日まともに食べていない。
マナは小さく礼を言って受け取る。
「うま……」
「だろ?」
ロウが少し得意げに笑う。
少し落ち着いた頃。
ロウは近くの岩へ腰掛け、空を見上げた。
「で、何から逃げてる」
マナの手が止まる。
やっぱり気づかれていた。
「……言えへん」
「別に無理に聞かねぇよ」
ロウは肩を竦める。
「でも、命狙われてるなら、この辺ふらついてると死ぬぞ」
さらりと言われ、マナの顔が青ざめた。
ロウはその反応を見て苦笑する。
「図星か」
「……」
黙り込むマナへ、ロウは深く追及しなかった。
その距離感が少しだけありがたかった。
風が吹く。
木々が揺れる音だけが響いた。
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マナは膝を抱える。
「……帰れへんねん」
ぽつりと零れる。
ロウは静かに視線を向けた。
「帰ったら、迷惑かかる」
ライの顔が浮かぶ。
最後に抱きしめられた温もり。
「だから逃げた」
声が震える。
ロウは少し黙っていた。
やがて、ぽつりと聞く。
「好きな奴か」
心臓が跳ねた。
マナは顔を上げる。
ロウはどこか面白そうに笑っていた。
「顔に書いてある」
「……そんな分かりやすい?」
「めちゃくちゃ」
即答だった。
マナは思わず顔を覆う。
「終わっとる……」
ロウが吹き出した。
「なんだそれ」
ひとしきり笑った後、ロウは真面目な顔になる。
「その好きな奴と引き離されたわけか」
マナは静かに頷く。
「……身分違いやった」
「へぇ」
「俺は農民で、あいつは貴族」
ロウの目が少し細まる。
マナは俯いたまま続けた。
「どう頑張っても、一緒にはおれんかった」
ライの顔が浮かぶ。
笑った顔。
優しい声。
最後に聞いた、“愛してる”。
胸が締めつけられる。
「……会いたい」
気づけば零れていた。
ロウはしばらく黙っていた。
やがて、小さく笑う。
「じゃあ会いに行けばいい」
マナが目を見開く。
「……は?」
「会いてぇんだろ?」
「いや、でも」
「身分とか、追手とか、そういう話か?」
ロウは軽く肩を竦める。
「好きなら会いに行きゃいいじゃねぇか」
簡単に言う。
でも、その言葉に胸が熱くなる。
ライも同じだった。
危険なのに、何度も会いに来てくれた。
「……でも、ライが危なくなる」
「あ、ライって言うんだ」
しまった、と思った時には遅かった。
ロウがにやりと笑う。
「やっぱ隠すの下手」
「っ……!」
顔が熱くなる。
ロウは楽しそうに笑いながら立ち上がった。
「まぁいいや」
そして、マナへ手を差し出す。
「行く当てねぇなら、しばらく一緒に来るか?」
「……なんで」
「一人で死なれたら寝覚め悪い」
軽い口調だった。
でも、その手はちゃんとこちらへ向けられている。
マナは少し迷ってから、その手を取った。
温かかった。
けれど。
ライの手とは違う温度だと、思ってしまった。
コメント
1件
第12話、読み終えました。マナとロウの距離感が絶妙で、軽いノリの裏にある優しさにじんわりきました。「帰れへんねん」からの胸の内と、ロウがあえて深掘りしない――その空気感がすごく巧いです。そして最後の「ライの手とは違う温度」、あれで一気に感情が締まりました。身分違いの切なさがじわり沁みます。次が気になりますね。