テラーノベル
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空が崩れたのは、山道へ入ってしばらく経った頃だった。
ぽつり、と頬へ落ちた雨粒は、あっという間に激しい雨へ変わる。
「うわっ……!」
緋八マナが慌てて空を見上げると、隣を歩いていた 小柳ロウ が肩を竦めた。
「最悪の timing だな」
「たいみんぐって何」
「悪い時って意味」
「普通に言えや!」
そんなやり取りをしている間にも雨脚は強くなる。
ロウは周囲を見回し、「こっち」と手招きした。
案内された先には、古びた小さな社があった。
屋根は傷んでいるが、雨宿りくらいならできそうだ。
「今日はここで休むか」
ロウは慣れた様子で荷を下ろした。
マナも濡れた袖を絞りながら、その場へ座る。
「……ほんまに旅人なん?」
「何だよ急に」
「普通に山慣れしすぎやろ」
ロウは少し笑った。
「まぁ、色々あってな」
それ以上は話さない。
でも、無理に聞く気にはならなかった。
外では激しい雨音が続いている。
マナは膝を抱えながら、ぼんやり外を見た。
こんなふうに誰かと旅をするなんて初めてだ。
けれど胸の奥には、ずっと消えない痛みがある。
ライは今、どうしているだろう。
ちゃんと食べているだろうか。
怪我はしていないだろうか。
「……会いたい」
気づけば呟いていた。
ロウがちらりとこちらを見る。
「また考えてたのか」
「……うん」
マナは苦笑する。
「ずっと頭から離れへん」
「重症だな」
「うるさい」
ロウは小さく笑ってから、壁にもたれた。
「でもまぁ、そこまで想える相手がいるのは羨ましいかもな」
その言葉に、マナは少し驚く。
「ロウにはおらんの?」
「昔はいた」
さらりと言われ、マナは目を瞬いた。
だがロウはそれ以上語らなかった。
どこか遠くを見る目をしている。
マナは何となく察して、深くは聞かなかった。
しばらくして、ロウが火を起こし始める。
手際が良すぎて笑えてくる。
「……ほんま何者なん」
「ただの流れ者」
「絶対違う」
ロウが吹き出した。
「お前、顔に出るタイプだろ」
「ライにも言われた」
その名前を口にした瞬間、胸がぎゅっと痛む。
ロウは少し黙ったあと、ぽつりと言った。
「好きなんだな、本当に」
マナは俯いた。
「……うん」
否定できない。
「最初は変なやつやと思っとった」
川辺で笑っていたライを思い出す。
貴族なのに偉そうじゃなくて。
寂しそうで。
優しくて。
「でも気づいたら、会いたくて仕方なくなっとった」
雨音が静かに響く。
「一緒におると、安心したんや」
声が震える。
「なのに、離れなあかんくなった」
ロウは静かに聞いていた。
茶化さない。
否定もしない。
ただ、ちゃんと聞いてくれている。
それが少しだけ嬉しかった。
その頃。
屋敷では、 伊波ライ が縁談の席へ座らされていた。
豪華な部屋。
並べられた料理。
向かいには名家の姫君。
けれどライの表情は死んでいた。
「若君?」
姫君が不思議そうに首を傾げる。
ライは我に返った。
「……失礼しました」
形だけ笑う。
そんな自分に吐き気がした。
ここにいるべきじゃない。
本当は今すぐ屋敷を飛び出して、マナを追いかけたい。
「……」
ふと、懐へ手をやる。
そこにはもう何もない。
組紐はマナへ渡した。
けれど代わりに残った感覚だけが、消えてくれない。
あの温もりも。
最後の口づけも。
「ライ」
自分の名を呼ぶ声が、耳から離れなかった。
その夜。
雨はまだ降り続いていた。
社の中で、マナは火を見つめながらぼんやりしていた。
するとロウが不意に言う。
「なぁ」
「ん?」
「もし、そのライってやつがお前を迎えに来たら」
マナが顔を上げる。
ロウは静かに続けた。
「お前、どうする」
心臓が跳ねた。
そんなの。
答えなんて決まっている。
「……行く」
マナは小さく笑った。
「どこまでも」
その答えを聞いたロウは、少しだけ目を細めた。
まるで。
その言葉が、少し羨ましいみたいに。
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コメント
1件
ああ〜〜〜もう第13話も良すぎた!!😭💕 雨宿りのシーン、ロウの“昔はいた”って一言が刺さりすぎて…何も聞かないマナの距離感も優しくて泣ける。 「行く、どこまでも」って言い切るマナ、強くなったなぁ…ライも縁談の席で死んだ顔してるのツラいけど、その対比がエモすぎる。続きが気になりすぎるよ!!😭🔥