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その声はまさかクリス様なのかと思ったときには、クリス様が中年女性の横にいた。しかもガス灯の光を受けてまるで、舞台にぱっと登場した主役のような現れ方だった。
金糸の髪が闇の中でも輝いていて美しい。そんなクリス様に釘付けになり、私も含めてその場にいた者達がポカンとする。
当の本人だけはニコニコと微笑み、中年女性の手を緩やかに取った。
「マダム。いきなりで申し訳ございません。私は軍の高官です。何かあれば私が全ての責任を持ちましょう。だから、主君のプリンセス・|人魚姫《マナ》の願いを聞き入れて欲しい」
セリフまで本当に舞台俳優のようだ。
しかし、返ってそれが中年女性の戸惑いよりも興味を上回ったようで、中年女性はぼうっとクリス様に見惚れていた。
そしてクリス様がずいっと顔を近づけると、中年女性は「どうぞ、お使いくださいませ」と言った。
その言葉にクリス様が唇の端を釣り上げて、私を見た。
「ほら、マナ。マダムもこう言ってる。早くその少年を治療したらいい」
朗らかな笑顔のクリス様。
今まであった刺々しさが消えたような気がした。
刹那のうちに『先ほど、私に愛想を尽かしたのでは』と疑問が過ったが、少年が「ううっ」と呻いたので、そんな疑問はどうでもよくなった。
治療出来るならなんでもいい!
「クリス様、ありがとうございます! では事務員の方は中へと案内をよろしくお願いします。男性のお二人は慎重に藤吉君を中に運んで、その時に絶対に水疱……水ぶくれを潰さないで!」
火傷で出来た水ぶくれは、体が体を守る為に出来たもの。
いわゆる天然の保護液。だから油やお味噌で治療するなんて、持ってのほかだったのだ。
私はまず中に入ったら、診察台がある部屋に藤吉君を運んで欲しいと指示をしながら、リヤカーの台から飛び降りる。
また服が破れる音がするが気にしない。いっそパンプスも脱ぎたいぐらいだ。カツっと踵を鳴らして、次はクリス様と母親に指示をだす。
「クリス様は私の助手をお願いします。お母さんは何かあった時の為に中で待機を。待つだけは辛いと思いますが、私がしっかりと藤吉君を見ます。何も心配しないで下さい」
藤吉君の家族へと微笑むと、家族三人は涙を堪えながら力強く頷いてくれた。
事務員の方も動きに迷いはもうなくて、いそいそと扉を開けてくれる。
そして事務員の方を先頭にして、扉の中に人が吸い込まれていく。
それを見て良かったと、少しだけ気が楽になった。
これであの少年はまた元気に外を歩ける。あとはしっかりと私が治療するだけ。
早く皆様の後を追わなければと、前に体を傾けたとき。
「Mana. You pass. Just like Chihiro, you are worthy of receiving my devotion.」
(マナ。君は合格だ。チヒロと同様に僕の忠節を捧げるに相応しい)
すっとクリス様の英語が耳に入ってきた。
早口言葉で何を言われたのか、全く聞き取れなかった。
ゆっくりとならば多少は分かるのにと思った。
けどクリス様は柔らかく微笑んでいたので、何か英語で励ましてくれたのだろうと、そう思うことにした。
私はきりっと表情を引き締め「では、治療を開始します!」と、クリス様と一緒に眼科の中に入るのだった。
コメント
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第26話、読了しました……! クリス様の登場シーン、ガス灯の下で金糸の髪が輝く描写があまりにも美しくて、一瞬で引き込まれました……。「主君のプリンセス・人魚姫」って呼び方、エモすぎませんか……? マナの医療知識とリーダーシップがしっかり発揮されていて、成長を感じました😭 最後の英語のセリフ、耳元で囁かれたような感覚になってゾクゾクしました……。 今回も素敵な更新をありがとうございます、猫とろさん🌙