体が重い。息が浅い。肝臓を貫かれた痛みがまだ僕を支配している。どれだけの時間が過ぎたのか、分からない。ただ、痛みとともに意識が戻る度に、僕は何度も同じことを考えていた。
「般若…」
その名前が、頭の中を支配している。彼女が僕に与えた痛み、あの恐ろしい「鬼」の力…すべてが胸に深く刻まれている。
ゆっくりと立ち上がり、足元を確かめながら進み始めた。力が入らない。だが、進まなければならない。目的があるからこそ、ここまで来た。僕は、般若を倒すために。
道を歩きながら、冷たい風が肌に刺さる。痛みが全身を走るたび、足を引きずるようにして進む。その痛みさえ、今はどこか心地よく感じるようになっていた。どんなに体が痛んでも、僕には立ち向かう理由があるから。
「般若…」
僕の声は途切れ途切れだったが、再び彼女の元へ向かう決意だけは固まっていた。彼女が放った「鬼」の力、そしてその使い手である彼女自身を倒さなければならない。これ以上、僕の仲間や無実の人々が犠牲にならないように。
やがて、明かりが見えてきた。歩き続ける。般若の居場所、僕が知りたくない場所、しかし避けては通れない場所だ。
目的地に近づくにつれて、胸が締め付けられるような思いが募る。般若に対する憎しみ、怒り、それでも何かが引き寄せられるように感じる。それが、彼女の力に魅了されているということなのか、あるいは彼女が僕に与えた深い傷がそうさせているのか。
やがて、廃工場のような建物が見えてきた。彼女の拠点だ。血のように赤く染まった壁が、警告のように僕を待っている。
僕はその建物の前に立ち止まり、深呼吸をした。全身の痛みを感じながら、もう一度自分に言い聞かせる。
「これが、最後だ。」
言葉を胸に建物に足を踏み入れる。中は静寂に包まれていた。しかし、その静けさが、不気味に感じられる。般若が僕を待っているような気がして、心臓が激しく打ち鳴る。
「待っていたよ。」
その声が、暗闇の中から響いた。振り向くと、そこに立っていたのは彼女、般若だった。暗い中で彼女の顔が笑みを浮かべている。その表情には、恐ろしいほどの冷徹さと、何か…僕に対する強烈な支配の意志が感じられた。
「やっと来たね。遅かったじゃないか。」
彼女はそう言いながら、ゆっくりと近づいてくる。その足音は、まるで命を奪うために歩いているかのように響いた。
「鬼が待ってるよ。」
その言葉と共に、背後から「鬼」の気配が押し寄せる。鬼の目が僕を捕らえ、彼女の命令を待っている。僕はその恐怖に立ち向かう覚悟を決め、痛みを感じながらも立ち上がった。
「般若、君のその力、僕が終わらせる。」
僕の声は震えていたが、その決意だけは揺るがなかった。
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