狩り手

鬼の目が僕を見つめる。その目は、ただの獣のそれではない。深い悲しみと絶望、そして絶え間ない怒りを感じる。鬼は、ただ命令に従うだけの存在ではない。その背後には、かつて人間だった名残がある。

「自由を望んだ…」

鬼が口を開くと、その声はかすれ、深く重いものだった。まるで遠い昔の出来事が蘇るかのように、呟くように続ける。

「かつて、俺は人だった。自由を求めて…だが、自由は俺には似合わなかった。」

その言葉に、僕は足を止めた。鬼が人間だった？ そんなことを信じることができるだろうか。しかし、鬼の目は何かを語っている。それが真実であることを、僕は嫌でも感じ取っていた。

「仲間と共に、自由を手に入れようとした。仲間は死んだ。自由の代償は、命だ。」

鬼の声に、痛みと悔恨が込められている。過去の記憶が彼を縛り、鬼の姿になったことを後悔しているのだろうか。それとも、もう何もかもが無意味だと感じているのだろうか。

「自由は悪だ。自由を持った者は、何もかもを失う。だから…もう自由を求めない。」

鬼は再び僕を見つめた。その視線の中に、何かを思い出しているような、一瞬の弱さが感じられる。だが、すぐにその目は冷徹なものへと変わった。

「自由が、すべてを壊す。そして、死んだ。死んだ時、般若に吸い込まれた。」

その言葉に、僕は驚くべき事実を聞かされた。鬼が死んだ時、彼はただの死者ではなかった。般若の力によって、鬼として生き返り、彼女の手に引き寄せられたのだ。それが、鬼が今の姿になった理由だった。

「彼女に吸い込まれた。主を得るために。」

鬼の表情には、かすかな苦しみが見えた。だが、すぐにそれは消え、冷酷さが戻る。自由を望んだことを後悔し、そして彼女に従うことで自らの存在意義を見出している。

「主をほしい、主人がほしい。俺は、ただそのために存在している。」

鬼の言葉は、どこか悲しい。しかし、その悲しみを感じ取ることができるのは、もはや僕だけだろう。鬼はその時、自分が何を失ったのか、どれほど深い孤独の中で生きてきたのかを、少しだけ感じ取っているのかもしれない。

だが、それでも僕は鬼と対峙しなければならない。彼は般若の使い魔であり、彼女の命令に従うことを運命として受け入れた者だ。

「僕が終わらせる。」

その言葉を吐き出すと、僕は再び足を踏み出す。鬼は動かなかったが、彼の存在そのものが僕に圧力をかけてくる。それでも僕は止まらない。鬼の過去に触れることができたとしても、それは僕の戦いを止める理由にはならない。

「自由を求めることが悪だとしても、僕には守るべきものがある。だから、君を倒さなければならない。」

その言葉とともに、僕は再び鬼に向かって歩みを進めた。