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ー仙蔵ー
伝七が戻ってきて3日がたった。
この3日間、伝七はおかしかった。
授業を無断で休んで街にでかけたり、用具倉庫を荒らしたり、普段の伝七からは考えられないことだ。
流石におかしいと思った私は喜八郎と一緒に伝七を探していた。
「珍しいな。お前が、ついてくるなんて。」
「‥‥僕も後輩は大事なんで。」
そんなことを言ってると、校庭の塀の瓦にしゃがんでいる伝七を見つけた。
「伝七。」
「意外と早かったですね。」
「お前は誰だ?」
伝七の顔を見て、喜八郎が顔をしかめた。
「っは、誰って‥‥黒門伝七ですけど。」
「違う。」
「何が違うんだ?」
まるで目の前に親の敵がいるような顔をする喜八郎に、今度は私が顔をしかめた。
「立花先輩。あれは伝七であって伝七ではありません。」
「は?」
「僕の家が祓い屋なのは知っていますよね?」
「あぁ。」
そのことについては知っていた。まだ下級生だった頃に家のことで相談されたことがあったから。
「伝七は取り憑かれてます。」
伝七から目をはなさずに言う喜八郎はとても真剣な目をしていた。
「何?」
「出てきたら?」
喜八郎がそう呼びかけると、
「ーフフッ‥‥。なぁんだバレてたの。ー」
伝七が口を開いた。
その口から出された声は伝七の声と女の声が重なったような声だった。
私と喜八郎は攻撃態勢に入る。
「ー何?私を殺す気?ー」
「伝七を返せ!」
そう怒鳴ると伝七は真顔になった。
「ー返せ?ー」
急に、伝七の背後黒い影が現れた。その影はどんどん大きくなっていく。
「伝七から出てきています。」
喜八郎が緊張した面立ちで言った。
黒い影は女の形になり、伝七を抱き上げた。
伝七は動かない。
心做しか顔がすごい真っ青だ。
ーこの子はそれを望んでない。ー
物凄い殺気を放つ女の影はこちらを睨んでるようだ。
「伝七は私の大切な後輩だ!例え伝七が私を嫌がっても、私は大切な後輩を見捨てない!」
ーよく言うわ‥‥。この子を傷つけていたのはあなた達なのに。ー
その言葉に何も言えなくなる。
ーこの子は消えたいといった。貴方達は私が無理やりこの子に取り憑いていると思ってるようだけど、この子が望んだことよ。ー
「何っ?!」
ーほんとうよ。だから早く消えてくれない?あなた達が来てから体がムズムズするのよ。ー
影は伝七をおろして立たせた。
伝七の目は開いていた。
でもいつも輝いていた美しい瞳ではなく真っ黒な濁った瞳だった。
ー消えてくれないなら無理矢理にでも消えてもらうわ!やりなさい!ー
影がそう言うと伝七が両手を広げた。
そして内側に手を動かし自分を抱きしめるようにした。
「!立花先輩!」
私は急に喜八郎に押された。
「喜八郎?」
「よかった。」
喜八郎の頬には傷ができていた。
細い傷だった。
「喜八郎!」
「大丈夫です。傷はあさいです。」
「‥‥‥どういうことだ?」
「伝七からの攻撃です。指を見てください。」
そう言われて伝七の指を見ると、細い糸のようなものが光って見えた。
「鋼糸?」
「はい。」
「用具倉庫を荒らしたのは鋼糸を手に入れるためか。」
「恐らく。」
「しかし、何故鋼糸なのだ?」
「わかりません。伝七が鋼糸の練習をしているのを見たこともありませんし。」
ーあら。知らないの?ー
影が嘲笑うかのように伝七にバックハグをする。
ーこの子は休みの日、いつも練習していたわ。まぁ、練習のときは普通の糸だったけど。ー
「っ何故そんなことを知っている!」
ーこの子の記憶を見たのよ。普段思っていることが見てとれたわ。とても可愛らしかった。あなた達に褒めてもらいたい。そのためだけに練習していたみたい。ー
「伝七‥‥‥。」
ーなんて可愛そうなのかしら。褒めてもらいたい人には見てもらえず、その人は別の子のもとへと行ってしまうんだもの。ー
その言葉に、ある光景が頭をよぎった。