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山中side
衣装の急な変更。
正直、本当に無理な事を言った。
何度も断られた。
作ってしまっている生地を分解し、また縫い直す。
この手間がどれだけ面倒か。
作らなくとも想像がつく。
でも、なぜか譲れなかった。
スタッフさんに「柔太朗さんがここまで頑固なのははじめて」とビックリされるくらい何度も頼み込んでいた。
多分、はやちゃんに喜んで欲しい。
無理をしてほしくない。
多分ただそれだけだったのだろう。
フィッティングの日。
遠く離れた場所からあの人のフィッティングをぼんやり見つめる。
真剣な眼差しでフィッティングする彼の横顔がちょうど窓から差し込む光と相まって王子様みたいだ。
横からそのざきが俺の頑張りを彼に伝えているが、その言葉が聞こえていないかのように淡々と試着を続けている。
ああ、彼を思っても自分には返ってこない。
そうわかっていたはずなのに、いざそれを確信すると無理矢理埋め込んでいた心のピースがボロボロと崩れていく。
彼が振り向かなくてもいいんだ。
彼の求める幸せを提供できるそれで十分だと。
これ以上の欲を出さないと誓った。
吉田side
これ、あの時の話のやつだ。
柔太朗はやはり気遣いの人間だ。
細部までメンバーのためにこだわりが持てる、これほど衣装担当に向いている奴を見たことはない。
それに一度作ってしまった衣装。
多分、衣装チームに相当な無理を言ったのだろう。
自分なら多少暑くても我慢しろと言ってしまうだろうが、メンバーを思って最善を尽くす彼は尊敬する。
そう思いながら、隣にいる柔太朗を見ると自分の試着もせずに横を向いている。
その虚ろな視線の先にいたのは佐野だった。
やっぱりメンバーへの愛は相当重い。
しかし、佐野はそそくさと試着を終えて残りの2人と楽屋に戻っていってしまった。
柔太朗の顔が暗くなる。
なんて言葉をかけるべきかと少し悩むが、その沈黙を破って柔太朗が呟いた。
🤍「衣装やっぱり作り替えてよかった」
💛「みんな…喜んでたしな…」
🤍「はやちゃん喜んでた…?」
その言葉の返答に困っていると柔太朗が続けてこう言った。
🤍「これでいいんだ…これでいいんだよ…」
それがどういう意味かわかるには相当な覚悟が必要で、どんな意味を持つものか察しはつくが探らないようにと自分の危機管理センサーが発動していた。
そのセンサーを掻い潜り口から出た言葉は
💛「勇斗もお前のこといっぱいみてるよ」
しまった!と思った。
なんでこんな言葉を伝えたのか、この言葉は柔太朗にとって逆効果でしかない。
🤍「みてくれてるんだ…」
柔太朗は俺の予想を反して笑顔をみせる
そして、そそくさと試着を終えると楽屋を出ていった。
その足取りはいつもより軽やかだった。
💛「(なんだったんだ…あれ…)」
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