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鉱山都市ミラエルツを発ってから3日目の夜。
ここまでの道中は何事もなく、今晩は小さな村で宿泊していた。
節約のために野営をする人もいるけど、私たちはのんびり過ごしたいので、迷わず宿屋に泊まることにしたのだ。
ありがたいことに、懐事情も温かいしね。
「――っと、今日もお疲れ様でした。
まぁ、馬車に揺られて話をしてばかりでしたけど」
「でも、疲れは出ますよー。
自由に動けないのは逆につらいと言いますか」
「しかし、それ以外は順調すぎるくらいでしたね。
魔物もまったく出ませんでしたし」
「そうだねー。このままあと4日、何事も無ければ良いんだけど」
「ところでアイナ様。
次の街、メルタテオスでは何をするんですか?」
「うん。ミスリルを持ってる人がいるらしいから、譲ってもらえないか交渉してみる予定ー」
「そういえばジェラードさんとそんな話をしてましたよね。
えぇっと……あと、髪が何たら?」
「ふふふ。
オズワルドさんからの情報なんですけど、ミスリルを持ってる人がハゲ……てきたのを気にしてるんですって。
だから、育毛剤とミスリルを交換できないかなぁ……って」
「えぇ? 育毛剤とミスリルをですか?
いやいや、さすがにアイテムの格が違うのでは……」
エミリアさんがそんなことを言うと、ルークが真面目な顔をして語り始めた。
「エミリアさん、男性の髪への執念を馬鹿にしてはいけません。
女性の美容のようなものです。大金持ちともなれば、庶民では考えられないお金を出すでしょう」
「な、なるほど……?
でも少しくらい髪の毛が薄くても、わたしは気にしませんけど……」
まぁ、女性でも気にする人もいるし、気にしない人もいるし。
こればかりは人それぞれだからね。ちなみに私もあんまり気にしない方かな。元の世界の会社で見慣れているし。
「女性が気にする以上に、男性は気にするものですよ。
ナイーブな話なので、エミリアさんは少し注意した方が良いかもしれません」
「ふむー。確かに悩みなんて、他の人にはなかなか分からないものですからね。
それでは失言しないように、気を付けることにしましょう」
「私も、気にしてる人には慎重に話すようにしないと。
特に今回は、取引が上手くいかなくなっても困りますし」
「そうですね。
うーん、それにしても育毛剤とミスリルですか……」
「ちなみにエミリアさん。
流通している育毛剤って、どれくらいの効果があるかご存知ですか?」
「え? わたしはちょっと分かりませんけど……」
「ルークは分かる?」
「はい、気休め程度でしかないですね。
それなりの値段はしますが、効果があっても抜けるペースを遅くするくらい……でしょうか」
「ふーん? ちなみにルークって気にしてるクチ?」
「えっ!? いやいや、さすがにまだ大丈夫――
……ですよね?」
そう言いながら、不安そうな顔をするルーク。
今のところは、どこからどう見ても大丈夫そうかな?
「あ、いや、ごめんね。
何か詳しい感じで言うから、つい……」
「そ、そういうことでしたか。いえ、私の父親が割と気にしていたので」
「ほほう……。
というと、ルークさんも将来は……」
「き、気にしていただけで、そんなに薄くはなかったですよ!?」
「エミリアさん、もうやめてあげてください。ルークが死んでしまいます」
「アイナ様!?
ですからそんなに薄くは――」
「ああもう、別に大丈夫だから。
私はそんなの気にしないから、安心して私の側にいてね」
「あ、はい! も、もちろんです!」
「――……アイナさんって、割と天然ジゴロですよね」
「え?」
「いえいえ、何でもないですよ。
……ちなみにアイナさんのいた国にも育毛剤はあるんですよね?
まさか、使うとフサフサになったりするんですか?」
「いやいや、私のところも気休め程度くらいでしたよ。
カツラとか、植毛があるくらいですから……」
「……植毛? 何ですか、それ」
「髪の毛が生えてる毛穴にですね、毛を埋め込むみたいです」
「「ひぇっ!?」」
……あ、さすがにそういう発想は無かったか。
私もテレビの知識くらいしか無いけど、確かにちょっと『ひぇっ!?』とは思ったことがあるし。
「でも、さすがにアイナさんの国でも育毛剤はその程度なんですね。少し安心しました」
「そうですね。
でもそれは、私の錬金術とは関係無いですからね」
「……ま、まさか――!?」
「ふふふ……。いえ、作ったことはないですけど」
「アイナ様。
もしもフサフサになるくらいの育毛剤が作ることができるなら、髪に悩む男性には朗報となりますよ!」
「うーん? それじゃちょっと作れるか確認してみようかな?
えーっと……」
『創造才覚<錬金術>』を使って――
…………。
バチッ
「――はい、できた!」
「ちょ、ちょっとアイナさん!?」
「おお、今ここに奇跡が……。
アイナ様、ぜひ鑑定を」
「はいはい、ちょっと待ってね」
しかしルークは育毛剤に熱心だなぁ? やっぱりお父さんの血を心配しているのかな?
それじゃ、ウィンドウに出す感じで、かんてーっ。
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【育毛剤<優しい世界>(S+級)】
育毛に若干の期待が持てるようになる薬
※追加効果:髪がフサフサになる。髪の質×2.0
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「「おお……」」
「何か説明がテキトーな感じもするけど……いけるじゃん!」
「アイナ様、これだけで一生食べていけると思いますよ!」
「そ、そこまで!?
……いや、そう言われてみればそうかも?」
「ダイアモンドなどはたくさん売ると価値が下がってしまいますが、育毛剤なら困ってる人の分は売れますからね!」
「なるほど……!
よし、将来は安定したぞー!」
「あのあの、ちなみにアイナさん!
この育毛剤の追加効果が『髪の質』になってるんですけど……。
もしかしてヘアオイルみたいなやつも作れるんですか?」
「えーっと、どうでしょう。……あ、いけそうです。えいっ」
バチッ
そしてかんてーっ。
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【ヘアオイル(S+級)】
髪に潤いを与える
※追加効果:髪の質×2.0
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「うひゃ」
効果を見るや、エミリアさんが変な声を出した。
「アイナさん、これください! ぜひぜひ、ください!!」
「はい、大丈夫ですよ。どうぞー」
「やったー。早速あとで試してみます!」
「む、それはいいですね、私もあとで試してみよっと。
あ、ルークも試してみる?」
「いやいや、私は大丈夫です。まだハゲてませんし!」
「……え? いや、ヘアオイルの方……」
「はっ!?
ああ、そっちは結構です……」
……う、うーん? やっぱり気にしているんじゃないかな……?
どう見てもまだまだ大丈夫そうなんだけど、男心って……難しい。