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次の朝、私たちは宿屋の食堂で合流した。


「おはよー。ゆっくり眠れました?」


「おはようございます、わたしはばっちりですよ! ほらほら、見てください!

アイナさんからもらったヘアオイルのおかげで、髪の調子も良いんですよー」


「あ、私も使ってみましたけど、すごく良いですよね!」


「ところで、もしかして乳液みたいのも作れたりしますか?

作れるならそれも欲しいんですが……」


「乳液ですか。あとで確認してみますね!

ルークもおはよう」


「おはようございます。

……そ、そうですね。今日はいつにも増して良い感じがします」


ん? ああ、もしかして上手くまとまった髪を褒めてくれているのかな。

お酒が入ったらストレートに来そうだけど、|素面《しらふ》のときはちょっと言葉遣いが慎重だよね。


「あはは、ありがと。ルークも欲しくなったら言ってね。

なかなか髪がまとまりやすくて使いやすいから」


「分かりました、お気遣いありがとうございます」


「さてさて、朝食のメニューは何かな?

……あ、サンドイッチのセットみたいですね。エミリアさん、足りますか?」


「大丈夫ですよー。アイナさんたちと会うまでは、これくらいが普通でしたから」


一応は大丈夫……という感じかな?

私たちと一緒のときくらいは、たくさん美味しく食べてもらいたいものだけど……。

そう考えると、ミラエルツの食事事情はエミリアさんにぴったり合っていたんだろうなぁ。


「そうだ、少しパンでも買い貯めしておきましょうか。

私のアイテムボックスなら、時間が流れないので保存が効きますし」


「そうですね。もしものときのためにも良いかもですね」


「もしも?」


「例えば、野盗に馬車が奪われて、歩く羽目になっちゃったときとか」


「洒落にならないことを言わないでくださいよ。

野盗なら用心棒の人たちがいるし、それにルークもいるし、大丈夫でしょう」


「ははは、そこらの野盗なら大丈夫ですね。

でもたまに、熟練の冒険者崩れの野盗が混ざっていたりして、油断はなかなかできないんですよ」


「なるほど。

確かに英雄シルヴェスターあたりが野盗になったら凄そうですもんね」


「神器を持った英雄が野盗に……。

何だか壮絶なドラマが見え隠れしてしまいます……」


「あはは、確かに。

では、もしものときも考えて、しっかり買い貯めておくことにしましょう」


「そうしましょう!」


「……ところで、メルタテオスって『宗教都市』なんですよね。

エミリアさん、どんな街かご存知ですか?」


「えっと……簡単に言うと、いろいろな宗教がごった返している街です」


「へぇ?」


「以前お話しましたが、わたしが信仰しているのはルーンセラフィス教です。

これは世界の中で最もメジャーな信仰でして、この国の国教のような感じにもなっています」


「ふむふむ」


「そんなわけで王都ではルーンセラフィス教が勢力を持っているのですが……。

それ以外のものが、メルタテオスに集まっている感じですね」


「へー。違う宗教なのに、同じ街に集まっちゃうんですね?」


「はい。メルタテオスに本拠地を置くと、税金が免除されるんです」


「理由はお金だった!?」


……日本でも、宗教法人は税金を優遇されているって話があるからね。

信仰とはいえお金が関わることだし……まぁ、仕方が無いのか。


「そういえば、メルタテオスにはパププパペロッチ教というものがあるのだとか」


「へ? 急にどうしたの、ルーク?」


「いえ。何か語呂が良かったので、つい覚えてしまったのですが」


パププパペロッチ教。

……ああ、なるほど。


「それってどういう宗教なの?」


「さぁ……?

しかしメルタテオスには、大小様々な宗教がありますからね。変わったものもたくさんありますよ」


「アイナさんがもし宗教を作るなら、まずはメルタテオスで旗揚げをするのが良いですね」


「いやいや、私は宗教なんて作りませんよ」


「でも何かすごいアイテムを錬金術で作って、『これが神の奇跡だ!』とか言っちゃえば、すぐに信者は集まるんじゃないですか?」


「……実際、まがい物ではなくて本物ですからね、アイナ様の場合は」


「確かに」


ルークとエミリアさんは、二人で納得しあっている。

確かに日本でも『癌が治る水』とかが売れているらしいし、実際本当に癌が治るくらいの水があれば、宗教としては成立してしまうだろう。

……私だったら、それくらいの薬は作ってしまえそうだし。


「でも、私の場合は宗教を挟む理由は無いですからね。

薬を作って誰かを治すのであれば、別にそのまま薬を渡せば良いわけですから」


「信仰は、心のケアというところで役に立ちますよ」


「ああ、そういう面もありましたか。……ふむ、それなら良いですね。

身心共に救われるのなら、宗教もありかな?」


「そうですよ!

だからアイナさんも、ルーンセラフィス教に――」


「入りません」


「くぅっ。でもアイナさんがプリーストになったら、かっこよくて可愛いと思うんですけどねー」


「プリーストって、もしかしてエミリアさんの着てるような法衣を着ることになるんですか?」


「ですです。きっと似合いますよ!」


「それは楽しそうですね。

でも私は錬金術に生きますので、残念ながらプリーストにはなれません」


「残念……。ちなみに、大聖堂に所属する錬金術師もいるんですよ。

どちらかと言えば薬師って感じではありますけど」


「そうなんですか?」


「ええ、病気の信徒の方もたくさんいますから。そういった方のためにお薬を作っているんです。

……まぁ、アイナさんの足元には及びませんけど」


「さすがに私と比べるのは可哀そうですよ……」


「そうですよね、れべるきゅうじゅうきゅうですもんね……」


「エミリアさん、それはシーっ!」


「はっ!?

失礼しました、どこで誰が聞いているか分かりませんからね。注意注意!」


「です! さて、そろそろ朝食を食べちゃいましょうか」


「はい、ゆっくりし過ぎたら馬車も行っちゃいます。

ぱぱっと食べちゃいましょう!」


「そうしましょう!」




◇ ◇ ◇ ◇ ◇




ゴトゴトゴト……。


馬車は揺れながら、今日もメルタテオスへの道を進み続ける。


「それにしても良い天気ですねー」


「そうですねー。

この揺れも慣れてしまえばこう、心地良いと言いますか――……すやぁ」


「……えっ!? この流れで寝ちゃうんですか!?」


「すやすや……」


「うーん、エミリアさんが寝ちゃった」


「流れるように寝入りましたね。

しかし、本当にうららかな陽気……といった感じですし、仕方ないのでしょうか」


「まぁ、他の人も寝てるしねぇ……」


さすがに御者と用心棒は起きているものの、他の乗客は全員が寝ている。

私たち以外の乗客三人は野営をしていたようだし、まぁ仕方がないのかな?


この三人、起きているときは割と話もするんだけど、やっぱり寝ている時間も長いんだよね。

特に仲良くなることもなさそうだし、まぁこれっきりになる……って感じかな。


「はー。私はそんなに眠くないし、どうしようかなぁ……」


「馬車の旅は、暇と感じてしまうとつらいですからね。

暇潰しになるものが用意できれば良いのですが」


「うーん、そういうのは持ってないなぁ……」


「それでは、メルタテオスで探してみますか?

王都まではさらに、1週間も掛かりますから」


「ああ、それは良いね。

でも暇潰しってなると、何が良いんだろう」


「私と一緒に、魔法の勉強でもしますか?」


「え、魔法? ルーク、魔法を勉強するの?」


「アドルフさんから属性石のナイフをもらったじゃないですか。

いざというとき使えるように、アイナ様も水の魔法を勉強してはいかがでしょう」


「あぁ……うん、勉強かぁ……。すぐに眠くなりそう……」


「ははは、私も眠くなる自信はありますよ。

ですので、一緒にやりましょう」


「なるほど。それも良いかなー」


魔法の勉強なんて、一人でやるのは大変だろうし――

……それなら、二人で一緒にやるっていうのも良いよね。


勉強仲間、兼、ライバル!


お、そう考えると面白くなりそうじゃない?

よーし、負けないぞー!


「それじゃ、メルタテオスで魔法の本でも探してみよっか」


「そうですね、良いと思います」


となると、メルタテオスでの目下の目標は、ミスリルの入手と魔法の本の入手。

そんなに長く滞在する気はないから、目的は2つもあれば十分だよね。


……よし、その2つをさっさと達成して、早々に王都に向かうことにしよう。

異世界冒険録~神器のアルケミスト~

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