「な‥なんで‥」
‥家の前で佇む祐希さんに近寄り問いかける。
「藍に‥会いたくて‥さっき来たところ‥」
俺を見て微笑む祐希さんだが‥服が雨で濡れている‥
傘も持っていないのを見ると、少なくとも雨が降る以前から待っていたんじゃないだろうか‥
さっき来たなんて嘘じゃん‥。
「話がしたい‥時間ある?」
そう言い、俺の手を握ってきたその手は‥冷たくて‥
慌てて、部屋に案内する。
別にいいよ‥という祐希さんを説得し、とりあえず濡れた服を脱いでもらい、冷えた身体を温める為シャワーを浴びてもらうように伝える。
その間、ソワソワとリビングを右往左往するが気持ちが落ち着かない。
話ってなんやろ‥。
珈琲でもいれるか‥いや、この時間には飲まないかな。
なんて‥考えていたら‥
ガチャ。
「藍‥サンキュー。服も‥借りちゃって、ごめん」
リビングにやってきた祐希さんは、俺の服を着てどこか照れくさそうな表情を見せる。
ちょっと小さいけど‥
なんて言うから、そんなに体格は変わらんやんと返すと‥クスクスと笑っていた。
祐希さんが笑っている。
何故かそれだけで、とても嬉しかった。
「あっ、珈琲飲む?それとも‥やっぱ水かな‥」
じっと見ていたら、祐希さんと目が合い‥思わず立ち上がる。
「いいよ、藍‥」
そんな俺の手を取り、引き止めた祐希さんに‥力強く抱き寄せられる。
あまりにも突然過ぎて‥身体が動かなかった。ただ、祐希さんからほのかに香るシャンプーの匂いだけが、何故か鮮明に感じて‥
「‥ゆ‥祐希さん‥ちょっと‥」
「抱きしめたらダメだった?」
「いや‥お‥俺、練習した後だし‥汗臭いから‥」
そう伝えると‥なんだ、そんな事?と、逆にキツく抱きしめられ、耳の辺りをクンっと嗅がれてしまう。
「俺は藍の匂い、好きだよ」
「嫌や、嗅がんといて///」
「なんで?こんなにいい匂いじゃん。甘い匂いがする‥なんでかな‥」
ペロッと耳の後ろを舐められ、変な声が出てしまう。
「やっ、舐めるのあかん‥//」
そう伝えるが祐希さんは止めるどころか‥さらに刺激を与えて来る。
チュッ。
耳への執拗な刺激のせいで‥膝が震える。
立っていられなくなり、崩れそうになった瞬間‥祐希さんに抱きすくめられ‥正面から見つめられた。
「藍‥キス‥しても‥いい?」
話がしたかったんじゃないのかと問いたかったが‥いつもよりも気を遣った言動に思わず頷いてしまう。
スラリと伸びた綺麗な指が唇の輪郭をなぞり、そのまま後頭部へと移り、上向きにされると‥深く口付けされる。
差し込まれた熱い舌が口腔内をまさぐるたびに、体全体に熱が集中し‥それだけで達してしまいそうだった。
相変わらずの執拗なキスに‥息苦しさを感じながらも、祐希さんが与えてくれる刺激を取りこぼさないようにと‥必死で舌を出し応える。
‥唇が離れる頃には息が上がり、ハァハァと吐息が漏れ‥ 目の前の祐希さんの唇が、2人の唾液により濡れている。
ああ‥もっと欲しい。
考えるよりも先に、濡れる祐希さんの唇にカプっと噛み付いた。噛みつき、チュッと吸うと‥もっと欲しくなる‥
甘えるように自ら祐希さんの首に手を絡め‥唇を味わう。
「藍‥もっと欲しいの?」
祐希さんに問われ頷くと、かわいい‥とキスをされ、そのまま床に押し倒される‥
「藍‥かわいい」
そう言われ、顔中にキスの雨が降る。
それがとても心地いい。
うっとりと瞳を閉じるが‥祐希さんに名前を呼ばれ開眼すると‥真剣な表情をした瞳と対峙した‥
「藍‥ずっと辛い思いさせてごめん。
この間ね‥小川が俺の所に来たんだ」
「えっ‥小川さんが?」
なんでと、思わず聞き返してしまう。小川さんは一言だってそんな事は言ってなかった。
「藍と話しをして欲しいって。よりを戻して欲しいって‥小川はね‥泣いてたよ、藍の事本当に好きだったんだと思う」
ゆっくりと身体を起こされ、そう教えてくれた祐希さんにふと手を握られる。
「そして、これ‥」
何かを掌に握らされよく見ると‥
「えっ‥これって‥」
それは‥以前小川さんに取り上げられた‥指輪だった。
それが掌で照明の明かりをうけ、キラリと光る‥。
「小川はね‥これを渡してほしいって。自分であげるよりも俺があげたほうが藍が喜ぶって‥。
指輪‥大事に持っててくれたんだね‥藍。
小川はそんなお前が好きだって言ってたよ」
優しく伝える祐希さんを見て、掌の指輪を見つめる。
好きだよ‥。
そう何度も言ってくれた小川さん‥
俺は何一つ返してあげれなかったのに‥
気がつけば、ボロボロと涙が零れ落ちる。
ごめんね‥
ごめん‥。
祐希さんが居ない日々は‥いつも小川さんがそばにいてくれた。
だから、寂しくなかった。
ほんとに‥小川さんはなんで俺なんか好きになつたんやろ‥。
それでも‥小川さんがくれたこの想いが‥
俺に力をくれている気がした。
泣いてばかりの俺に‥
託してくれた‥そんな気がする。
「祐希さん‥」
今こそ伝えるときなんだ。
「俺‥
祐希さんが好きです。
結婚してても、
祐希さんが好き。
何度も諦めようと思ったけど‥俺、祐希バカやから無理やった」
泣きながら‥必死で伝える。
本当の気持ちを‥
「そばにいたい。
そばにいて欲しい。
他の誰でもない‥祐希さんに。
結婚してても、誰かのものになってても‥
俺は‥‥祐希がいい‥祐希しかいらない
だから、そばにいて‥」
祐希じゃないと俺は嫌だ‥そう伝える。
祐希さんは最後まで目を逸らさず聞いてくれていた。
そして‥
優しく俺の涙を拭ってくれた後‥
「藍にね‥見せようと思って‥持ってきたんだ‥」
祐希さんはポケットから何かを取りだして俺の目の前に差し出す‥。
それは‥
「ゆび‥わ‥」
俺と同じデザインの指輪‥ペアリングだった。
「藍と別れてからも‥手放せなかった。
‥いや、ずっとね、持ってようと思ってたんだ。
藍‥
俺はずっと藍が好きだよ。
別れた後も‥ずっと好きだった。
今日は‥全部話す。そのためにここに来たから‥」
「藍と別れる3ヶ月前かな‥その時に‥彼女と知り合ったんだ。彼女の父がスポンサーな事もあって‥最初めちゃくちゃ彼女に睨まれて‥俺、何かしたかなって心当たりが全くなかったから‥
その後理由がわかったんだけど‥
彼女には、ずっと想いを寄せる女性がいて、その女性が俺の事を熱烈に好きらしいって話を後から聞いて‥
“とっても素敵な女性なの。私‥はじめて出会ったわ‥あんなに心全部持っていかれるほどの女性に‥衝撃だった‥私、この人に出会うために生まれたんだって、ビビッときたもの‥
なのに‥彼女は貴方が好きって言うのよ。信じられない‥
何度も告白した‥
そのたびに振られて‥
でもね、私諦めないの!凄いでしょ‥フフフ、褒めてもらって構わないわよ。
だけど‥
何度想いを伝えても拒絶される‥
自暴自棄になったわ‥
だって、3年よ!?3年も振られ続けて‥
こんなにも胸が苦しいのに‥
彼女は貴方のことばかり話すの‥
私が貴方に会う仕事があると知れば、すぐに駆けつけて‥
そう‥そんなに積極的だと思わなかった‥ううん、知らなかった‥
何を伝えても、彼女の心は開かない‥
私に向けられない‥
そう悟った時にね、
わたし‥
思ったの。
貴方の事を大好きな彼女から、
貴方を奪えばいいんじゃないかって。
一番愛しい人を奪うのよ。
そうすれば‥
彼女は一生私に縛られながら生きていく。
恨まれるかもしれないけど‥
でも、いいの。
どんな形でも、彼女の心に私という存在が刻まれれば‥例えそれが憎悪であっても‥構わないわ“
そう言って彼女は笑った。
でも、普通に考えてそんな話乗るわけないよ。彼女にも言った。
“いいえ、貴方はこの取り引きという結婚に乗るわよ。何でだと思う?
私ね‥新聞社にも内通してる人がいて、その人からあるNEWSをリークしてもらったの。
なんだと思う?
まさかと思ったわ‥
貴方‥可愛い恋人がいるらしいじゃないの。
それも、同性‥同じ日本代表の‥確か、藍君‥だったかしら‥
ほら‥よく撮れてるでしょ?”
‥彼女が見せてくれた写真は‥俺の部屋で抱き合っていた2人の写真だった。位置的に藍の顔だけが写っていたけど‥
“もし‥貴方がこれを否定したとしても、こんな写真があれば、世間は何と思うかしら‥
まだまだ日本は同性愛には厳しいのよ。
好奇の目で見られるでしょうね、貴方も可愛い恋人も‥。
バレーボールどころじゃないのは確かね‥
貴方も恋人もスポンサーがいるでしょ?莫大な違約金も発生するだろうし‥
全てを失う‥
貴方だけじゃなく‥
貴方の大切としている彼も‥
だから、取り引きをしたいのよ。貴方が引き受けてくれるなら、この写真‥私が買うことになってるの。勿論、世間には公表されない。
しかも、私と結婚すれば、世間の目を欺けるし‥誰も貴方達を奇異な目で見る人はいないわ。
貴方はバレーを続けられるし、恋人も守れるわよ‥
悪い話じゃないと思うけど‥
それと‥
もう一つあるの‥
この写真を見たら‥貴方は悲しむかしら?“
‥そう言って‥
彼女が見せてくれた写真には‥
藍がね‥
ある女性と2人で写ってる写真だった‥。
「えっ‥」
驚く俺の顔を‥
祐希さんは静かに見つめていた‥
何もかも見透かしたような顔で‥
コメント
7件
やっとキター♡ でもここへ来てまさかのオンナ!? もぉ~気になる気になる😆 ずっと読んでいたいです✨
更新ありがとうございます!全裸待機していた甲斐がありました😭らんゆうキター!って感じです☺️祐希さんに愛されてる藍くんは可愛すぎてニヤニヤしながら読んでます(笑)次回も楽しみに待ってます!