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王子はまさかの、ステファンだった。
(うそぉ……あの、残念魔導師の?)
「ではサオリ、後は頼んだぞ!」
呆然としているうちに、そう言い残し王は去って行った。
「……サオリ、大丈夫かい?」
心配そうに、顔を覗き込んでくるガブリエル。さらりと、ガブリエルの前髪が目の前に落ちたのが、沙織の視界に入った。
(ひえっ!)
顔が近すぎて、どぎまぎしてしまう。
「えっと、はい。少しだけ……いえ、だいぶ驚きましたが。王子がステファン様だと、お義父様はご存知だったのですか?」
「いいや。王子が呪いを受けた事は知っていたが、何処に養子に出されたか迄は知らなかった。まさか、魔導師になって宮廷へ勤めているとは……。サオリを呼んだのも、彼だったな」
「……そうです」
ガブリエルは思案顔だ。
何か運命的なものが作用しているのだろうか。
ふと、気になった――なぜガブリエルが、スフィアのプレート情報を知っていたのか。
訊けばすんなり教えてくれた。
どうやら、あの時にミシェルが調べていたのが、それだったらしい。
ガブリエルも、カリーヌに濡れ衣を着せたスフィアを詳しく調べていたのだ。ある意味、スフィアが光の乙女でなくて良かったのかもしれない。
スフィアにこんなイベントが起こったら……間違いなく、何か悪い事がおきていただろう。
取り敢えずガブリエルと共に、ステファンに会いに行くことにした。
魔導師は魔道士と違い、実は凄い人らしい。指導することも、独立することも出来るほどで、優れている者しかなれないそうだ。
(なのにステファンは、魔法陣を描き間違えるとか……)
本当に大丈夫なのだろうかと心配になった。
そして、見覚えのある扉の前までやって来た。
(さて、ステファンと自然に話せるかしら?)
ドキドキしならがら扉をノックしようと思ったら、後ろから声をかけられた。
「あれ? アーレンハイム公爵とサオリ様ではないですか!」
明るい声の主は、ステファン本人だった。
「ちょうど良かったです! アレクサンドル殿下の従者が、アーレンハイム公爵を探しておりました」
「アレクサンドル殿下が? そうか……ちょっと、行ってくる。サオリ、ここでステファンと暫く待っていなさい」
「はい、お義父様」
ガブリエルを見送り、ステファンに促され部屋の中へ入る。
「サオリ様、すっかり公爵令嬢になられましたね! 今日はまた一段と……素敵ですね!」
ステファンは、私を上から下まで繁々と眺めた。
(絶対、サウナスーツ姿を思いだしているわね……)
そんな胡乱な目でステファンを見ていると、沙織の視線を勘違いしたのか、目を逸らした。
「陛下からお聞きになったんですね、僕の呪いのことを」
「……えっ。ステファン様は、知っていたの!?」
先程、王に秘密裏に動けと言われたのに、ステファンはその事実を知っているようだ。
「まあ、そうですね。たまたま小さい頃に、アレクサンドル殿下を見て気が付きましたよ。あまりにも、僕とそっくりだったので。確信を得るまでには、少し時間がかかりましたが」
「え、アレクサンドル殿下と似ていた……と?」
クスッとステファンは笑う。
「光の乙女のサオリ様には、隠してもしょうがないですよね。……これが僕の本当の姿です」
ステファンは、左手首にしていたブレスレットの真ん中にある魔石に触れる。
すると――。
ステファンの全身が霧みたいなものに包まれ、別人が現れた。
思わず沙織は息を呑んだ。
それは、どう見てもアレクサンドル王太子だったからだ。
少しだけ違うのは、王太子より大人びた顔つき。髪色も、金髪でなく漆黒だった。
「本当に、そっくりね」
「でしょう? 普通、気がつきますよね。それに、僕が小さい頃から、誰かが見守ってくれている気配がありました。だから、義父に正直に話してほしいと頼み、全てを聞き出しました。因みに、先程までの僕は……見守ってくれている影の姿を借りています」
そう言い終わるや否や――。
スッ……と、さっきまでのステファンと同じ顔した、黒尽くめの人物が現れ横に立つ。そして、沙織に微笑むと直ぐに消えた。
ステファンはまたブレスレットに触れると、元の姿――黒尽くめの人物と同じ顔になる。
(あ、戻った……いや違う、変身したのか)
「じゃあ、呪いの件も?」
「勿論ですよ」と、ステファンは頷いた。
(そういえば、さっき私を光の乙女って言ってたような……。まだ天職の話は伝えていないのに……え!?)
「ああ、気づかれました? そうです……僕は、悪魔ではなく、最初から本物の光の乙女を呼び出したのですよ」
「……何で、私だったの?」
「それは僕にも。多分、その能力が貴女にはあった……としか」
ステファンは、肩を竦めた。
「わざと私を呼んだのがあなたなら、帰る方法も知っているのかしら?」
「申し訳ない。それはまだ……」
沙織の中で、プチッと何かが切れた音がした。
気づけば、全てを話さなければ協力しないと、ステファンをがっつり脅してしまっていた。
聞けば、ステファンは――。
自分のために、光の乙女を呼ぶつもりはなかったそうだ。ステファンは学園に入るまで、呪いも受け入れて延命もしないつもりだった。
だが、学園でカリーヌに一目惚れしてしまったのだ。
そして、カリーヌが実弟であるアレクサンドルの婚約者だと知ったステファンは……。優しいカリーヌを遠くから、ただ見守っていられたら充分だと思っていた。
――光の乙女を騙るスフィアが現れ、カリーヌを陥れようとするまでは。
ステファンは、スフィアの陰謀からカリーヌを守って、アレクサンドルとの仲が壊れてしまわないようにしたかった。
その為には、時間が必要だったのだ。自身の呪いを研究し……本来の、光の乙女の存在に行き着いたのだとか。
「けれど、あの時――。いきなりアレクサンドルとスフィアが、カリーヌ嬢を断罪し始めてしまい……慌ててあの場で、魔法陣を発動してしまったのです。それで本物の光の乙女なら、って」
「で、私があの姿で登場させられたのね」