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「まさか、あのような啖呵を切り、カリーヌ様を連れ出されるとは想像もしなかったですが……」


「あ、あれは……たまたまで!」


あの時の状況を思いだしてみると、ジョギング中で良かったのかもしれない。あと一時間遅かったら、お風呂で汗を流していた。確実に。

裸で、あの場に転移させられていたかもと思ったら……ゾッとする。完全に「もう、お嫁に行けません!」って状態になる所だったのだ。


ひとり胸を撫で下ろしていると、ステファンが窓の外を見ていることに気がついた。


「どこを見ているの?」


ステファンに尋ねるが、それには答えない。


「サオリ様。父上に、貴女の存在を知られたくなかった……」


視線を沙織に移したステファンは、どこと無く悲しげに見える。


「多分、呪いを解いてほしいと頼んだのでしょう? 僕のために」


「……ええ」


「僕はね。カリーヌ様さえ幸せになってくれれば……それだけでいいのです。スフィアも捕らえられ、これでアレクサンドルも、カリーヌ様を大切にするでしょうから」


(なんだろう? ステファンは何が言いたいの?)


「だからね、サオリ様。貴女は呪いを解きに行く必要はありません」


「えっ?」


「僕は今――。僕の影……シュヴァリエの姿を借りています。もし、呪いが解けたとして、本当の姿に戻れば混乱が起きるでしょう。アレクサンドルを蹴落として、王太子になるつもりもありませんし。この姿で、魔導師を続けるのは魔力的に難しい。カリーヌ様が王妃となれば、お側に行くことも出来なくなる……」


理解出来ず怪訝そうにしてた沙織に、ステファンは今までとは違う……憂いを帯びた微笑みを見せた。


「僕の命の為に、貴女に危険を冒してほしくないのです」

「………。それだと、ステファン様が死んでしまうじゃない」

「大丈夫、ちゃんと貴女を元の世界に帰します」


(……違う!)


「そういう事じゃないわよっ。何で、ステファン様が助かる方法があるのに、指を咥えて見てなきゃいけないの?」

「ですから、それは貴女が危険なんだっ!」

「危険でも! 私は……その為に呼ばれた、光の乙女なんでしょう? だから、やるわよ!」

「……貴女は分からず屋だ!」

「貴方こそ、お人好し過ぎだわ!」

「……僕はっ。カリーヌとアレクサンドルが幸せならいいんだよ!」



「――それは、無理かもしれないよ」


ステファンとの埓が明かない言い合いに、ガブリエルが口を挟んだ。いつの間にか、ガブリエルはこの部屋に戻ってきていた。


「……お義父様!」

「何故ですか? アーレンハイム公爵……」


「アレクサンドル殿下と、カリーヌの婚約は解消する事になる」


「「どうしてですかっ!?」」


沙織とステファンの声が重なった。

ガブリエルは、アレクサンドルからの話の内容を教えてくれた。

アレクサンドルが今回の件で、カリーヌに申し訳ないと思っているのは本心のようだ。

ただ、媚薬を盛られたとはいえ、スフィアを忘れられずにいる。寧ろ、廃嫡されても構わないから、国外追放されたスフィアを探しに行きたいと言っていると。


「こんな気持ちで、カリーヌを幸せに出来る自信はないそうだ」


「……何よそれ!」


ガブリエルの話を聞いて、怒りがふつふつ湧いてくる。


「私も、そんな男の所に……可愛い娘をやるつもりはない。だから、陛下にも許可を得た」


ガブリエルの話に、ステファンは真っ青になっていた。


「それでは……カリーヌ様が悲しんでしまう」


(そりゃ、好きな人と別れるのは悲しく無いわけない! ……あれ? 王太子と公爵令嬢って政略結婚じゃなかったっけ?)


「……そもそも、カリーヌ様はアレクサンドル殿下を好きだったのかしら?」


つい思ったままを言ってしまった。


「「……!!」」


ステファンとガブリエルは沙織の問いかけに、目を見開いた。


「カリーヌ様は、地位に目が眩むような方ではないわ」


「ああ、そうだ。婚約が決まってから、ずっと王妃教育を受けてきたが。王家の為というよりも、公爵家の為にと言って頑張っていたな……」


「では、カリーヌ様のお気持ちを聞かないと! もしかしたら、ステファン様! 貴方の出番ではなくて?」


「どういう事だい、サオリ?」


「勿論、カリーヌ様のお気持ちを聞いてからですけど……」と前置きして、沙織は自分の考えを伝えた。


ステファンはカリーヌが好きで、幸せになる姿を見るだけで満足だと言った。だから、呪いを解かずに二十歳までの命でいいと。

けれど、カリーヌはアレクサンドルと結婚して幸せになる筈が、叶わなくなってしまった。しかも、アレクサンドルは廃嫡希望。


そうなったら、次の王には誰がなるのか?

もし、ステファンの呪いが解けて王子に戻れるなら?


ステファンはカリーヌが大好きだ。

カリーヌが、まだ誰にも恋をしていなかったら。それは、ステファンが想いを伝えるチャンスではないのか――と。


「成る程。ステファンがカリーヌを……。それは悪くないかもしれないな。ただし、呪いが解けたらだが」


「……ですが、それはサオリ様が危険です」


尚も渋るステファン。

対して、やる気満々な沙織を見てガブリエルは苦笑する。


「サオリは……それで、本当にいいのかい?」


「どの道、王命ですし。カリーヌ様には幸せになってもらいます!」


(どうせなら、ステファンとカリーヌに2人で幸せになってもらいましょう!!)



その翌日――。


沙織は早速、カリーヌの気持ちを確かめるべく、学園へ向かった。

悪役令嬢は良い人でした

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