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『偽りの無能、真の覚醒〜転生皇女はすべてを奪い返す〜』
お兄様との特訓が始まってから、さらに数日が経った。
私の魔力の成長速度は、アルベルトお兄様の予想を遥かに超えていた。
初級の攻撃魔法の制御を完全にマスターした私は、
今日、お兄様から教わったばかりの高度な応用魔術――
『遠隔投影魔術』に挑戦していた。
自室の机の上。
精神を集中し、体内の膨大な魔力を、細く、長く、南の空へと伸ばしていくイメージを描く。
目指す先は、ここから数百キロメートルも離れた、かつての祖国――バロア王国だ。
「ローゼマリー様、本当にやるのですか……? あまりご無理はなさらないでくださいね」
隣でリンが心配そうに私の顔を覗き込んでいる。
私は彼女に安心させるような笑みを向け、深く息を吐いた。
(繋がれ……っ!)
頭の芯がカッと熱くなった瞬間、私の目の前の空間がぐにゃりと歪んだ。
空中へと溢れ出した紫色の魔力が、まるで水面に映る景色の映像のように、
ひとつの『画面』を形作っていく。
映し出されたのは、ひどく薄暗く、埃っぽい部屋の景色だった。
「……あ。映ったわ」
「すごいです、ローゼマリー様! 本当に遠くの景色が見えるなんて……!」
リンが小さな歓声を上げる。
だが、その映像の中心にいる二人の男女の姿を捉えた瞬間、私の瞳は冷たく、凍てつくような温度へと変わった。
そこにいたのは、前世の私を奈落に突き落とした張本人。
元婚約者のカイルと、浮気相手のエレンだった。
かつては王宮の最高級の衣装を纏っていたカイルは、
今や仕立ての汚れた色褪せた上着を着て、見る影もなく窶(やつ)れていた。
エレンも自慢だった美しい髪はボサボサで、かつての聖女としての輝きは完全に失われている。
アルベルトお兄様の情報の通り、王位継承権を剥奪された二人は、
王宮の片隅にある物置のような冷遇部屋に押し込められているようだった。
『……おい、エレン。お前、今日のスープに肉が入っていないぞ。どういうことだ!』
カイルの苛立った怒声が、魔力を通じて私の部屋に生々しく響く。
『仕方がありませんわ、カイル様!
私たちの予算は先月の半分に減らされたのですもの!
料理番たちも、私を聖女とも思わない不届き者ばかりで……っ』
エレンはヒステリックに叫び、持っていた食器を床へ投げつけた。
ガシャーンと大きな音が響く。
『すべては、あの忌々しいシャルロットのせいですわ!
あの無能の呪い女が死に際に、私たちに呪いをかけていったに違いありません! だから、私の癒やしの力が偽物だなんて、あり得ない言いがかりを……っ!』
『そうだ……!あいつが大人しく、エレンの引き立て役として罪を認めていれば、こんなことにはならなかったんだ……!
死んでまで俺の足を引っ張りおって、あの無能の悪女め……!』
二人は、自分たちの嘘が暴かれたことへの反省など一欠片もしていなかった。
それどころか、崖から飛び降りて死んだ私に、
今でもすべての罪を擦り付け、呪いのように罵り続けている。
その様子を画面越しに見つめながら、私の唇からは、自然と冷たい笑みが漏れていた。
(本当に……どこまでも愚かで、救いようのない二人ね)
怒りを通り越し、深い呆れが胸を満たす。
しかし、死んだ私をまだ悪女呼ばわりし、
自分たちの非を認めないその醜悪な姿に、私の中の『シャルロット』の魂が、静かに、だが強烈な拒絶の炎を燃え上がらせた。
「ローゼマリー様……。この者たち、なんて酷いことを……」
隣で映像を見ていたリンが、悔しそうに拳を握りしめ、ボロボロと涙をこぼしていた。
前世の私の正体は知らないはずなのに、リンは純粋に、
この画面の向こうの男女の醜さに怒り、私を気遣ってくれているのだ。
「大丈夫よ、リン。泣かないで」
私はリンの涙を優しく拭うと、静かに立ち上がった。
「あの人たち、まだ自分がどれほど罪深いか、本当の意味で理解していないみたい。
少しだけ……教えてあげましょう」
「え……?」
私は歪んだ空間の映像に向かって、そっと右手をかざした。
お兄様との特訓で培った、完璧な魔力制御。
投影魔術の回路を逆流させ、私の魔力を、その画面の向こうの空間へと直接送り込む。
ねむ
74
#転生
コシ
103
耀聖(ようせい)
1,401
287
(ほんの、挨拶代わりに。私の冷たい怒りを、その肌で味わいなさい)
パキキキキ……ッ!
画面の向こう、カイルたちの部屋の壁や床が、突如として激しく凍りつき始めた。
部屋の温度が一気に氷点下へと叩き落とされ、カイルたちのスープの皿が、一瞬でガチガチの氷の塊へと変わる。
『な、なんだ!? 急に部屋が冷気に……ひっ!?』
『カイル様! 氷が、部屋が凍っていくわ!? いやあああ!』
突然現れた謎の圧倒的な魔力と、部屋を埋め尽くす氷の恐怖に、
カイルとエレンは抱き合って床に転がり、ガタガタと震え出した。
私は冷徹な瞳でその無様な姿を見下ろしながら、
魔力を込めた『声』を、彼らの頭の中へ直接響かせた。
『――愚かな罪人たち。あなたたちの罪が消えることはない。
奈落の底で、震えながら待っていなさい』
『ひぃっ!? だ、誰だ……! 誰の声だ……!!』
恐怖に顔を歪ませるカイルの姿を確認し、私は静かに右手を下ろした。
空中の映像が霧のように消え去り、いつもの温かく豪華な私の部屋へと戻る。
「……ふぅ」
初めての遠隔攻撃魔法で少し息が上がったが、胸の奥には、今まで感じたことのない確かなカタルシスが宿っていた。
カイル、エレン。
あなたたちの地獄は、まだ始まったばかりよ。
私は、守るべきリンと、愛してくれるお兄様がいるこの温かい居場所で、
もっと圧倒的な力を手に入れる。
そして、あなたたちを文字通り、完璧に叩き潰してあげるわ。
覚醒した帝国の皇女としての私の復讐は、
ここから本格的な幕を上げるのだった。
コメント
5件
1日にこんなに登校できるのすごい、、!!! そして設定、物語、書き込み、文章力、全部尊敬する、、!!
すごい、、、!
第5話、読み終わりました!遠隔投影魔術で元婚約者たちの惨めな姿を覗き見る展開、ゾクゾクしましたね……。「死んでまで足を引っ張りおって」なんて口にするカイルの醜悪さに、むしろローゼマリーの冷徹な復讐心に納得がいきました。氷の魔力で直接お仕置きするシーンはカタルシスそのもの。でもリンが涙する場面で、ローゼマリーが「もう一人じゃない」と感じられたのが温かかったです。続きが気になります!