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守はマリアに詰め寄った。「小百合さんを人間に戻すにはどうすればいいんですか?」
マリアは手に持っていたピザを一口頬張りながら、軽く首をかしげた。
「戻す?モンスターだよ、フクちゃん。モンスターは戻れないよ、防衛軍の任務は、抹殺することだもん。」
守の表情が険しくなった。「でも元は人間なんでしょう?それに、
今はモンスターじゃなくて、人間に戻ってるんですよ、何か方法はあるんじゃないですか?」
マリアは飲みかけのコーラを置き、少し考え込むような表情を浮かべた。
「うーん、強いて言えば…スウォームフライの母体を倒せば、
もしかしたら寄生の影響が消えて元に戻るかもしれないけど。」
その言葉に、守の心は揺れ動いた。「母体?それが現実の世界にいるっていうんですか?」
マリアはのんびりと頷いた。「いるかもね~。スウォームフライは一度現実世界に侵入すると、
母体がどこかに潜んで卵をばらまくんだよ。それが奴らの繁殖方法だからね。」
小百合がモンスター化した理由が少しずつ明らかになり、
彼女を戻す唯一の手段が母体を倒すことだと知ったが、その現実の重みは簡単に受け入れられるものではなかった。
守は眉をひそめ、目の前でピザを頬張るマリアに問いかけた。
「どうして母体を倒したら小百合さんが元に戻るんですか?」
マリアは口を拭いながら、コーラをひと口飲むと、
「スウォームフライの仕組み、ちゃんと説明してなかったっけ?あいつらの寄生システムはちょっと特殊なのよ。」
ルナが無言でうなずきピザのチーズを引っ張っているのを横目で見ながら、守は身を乗り出した。
「特殊って、どういうことですか?」
「まずね、スウォームフライは母体がいないと何もできないの。
あいつらの卵ってね、母体から出る特殊な信号で動くようにプログラムされてるのよ。」
「信号?」守の顔に疑問の色が浮かぶ。
「そう、母体は卵に『動け』『モンスター化しろ』って命令を送るの。
寄生された人間が完全にモンスター化するのも、その信号が原因。
だから母体がやられたら、卵も寄生虫も動けなくなる。簡単に言えば、
あいつらの『司令塔』が壊れちゃうってこと。」
「じゃあ、母体がいなくなれば……」
「寄生された人間も元に戻る可能性が高いよ。ただし、
寄生が進みすぎてたら元に戻らない場合もあるけどね。」マリアはさりげなく追加する。
「それなら、母体を探して倒せば小百合さんは助かるってこと?」
マリアはピザを口に運びながら微笑んだ。
「まあ、話は簡単だけどね。実際にやるとなると大変よ。
母体は普通、群れのど真ん中にいて、周りのスウォームフライの数が異常に多いんだ
攻撃力も桁違いだし、防衛軍でも母体の討伐任務は高ランク扱い。フクちゃん、そんな自信ある?」
「い、いや……ボクは……」
守は言葉に詰まった。モンスターを倒し、小百合を救う――そんなことが本当に自分にできるのか?
思わず彼女をここへ連れてきてしまった自分の軽率さに、後悔の念がこみ上げる。
小百合は、出会い系で知り合い、さんざん課金してやっと会えた女性だった。
守は本気で恋愛をしたかったのに、小百合にとって彼はただの財布でしかなく、恋愛感情など微塵もない。
そんな彼女のために、命を懸けてモンスター退治をする価値があるのか? いや、あるはずがない。
「その様子じゃ、彼女を救う価値なんてないって思ってるんじゃない?」
――ドキッ!
マリアの鋭い指摘に、守は息を呑んだ。心の奥を見透かされたようで、胸の奥がざわつく。
「最初に『殺さないで』って言ったのはフクちゃんなんだよ。だから、ここに連れてきたんじゃないの?」
「そ、そうなんですけど……」
言い淀む。ゲームの中なら、どんな強敵でも倒せる……いや、実際、守はまだレベルが低く、
強い装備も持っていない。高難易度のクエストには挑んだものの、クリアできずに何度もやられてきた。
だけど、ゲームならリトライができる。最適な戦略を練り、経験を積めば、いつかはクリアできるはずだった。
だが、これは現実だ。目の前にいるのはデータではなく、本物のモンスター。リトライはできない。
死んだら、それで終わりだ。それを退治するなんて……そんなことが、本当にできるのか?
守が視線を落としたまま、何も言えずにいると、マリアがスッと立ち上がった。
「じゃあ、完全にモンスター化する前に抹殺するからね」
その言葉と同時に、横でピザを食べていたルナが無言で立ち上がる。彼女の手には、すでに銃が握られていた。
銃口が、眠る小百合の額に向けられる。
守は強く唇を噛んだ。
小百合を助けるべきなのか、それとも見捨てるべきなのか。彼女は自分を利用していただけだ。
それなのに、命を懸けて守る価値があるのか?
だが、目の前で銃を突きつけられている彼女を見て、胸が苦しくなる。
このまま何もしなければ、彼女は本当に殺される。
――これで本当にいいのか?
自問自答する。その答えを出さなければならない時間が、刻一刻と迫っていた。
守は頭の中で恐怖と決意が交錯していた。
「……母体を倒しましょう。」
マリアはその言葉に満足したようにうなずき、「そう、本当にそれでいいのね?」
「はい、自信はないけどマリアさんたちが一緒なら・・・」
「じゃあ、腹ごしらえが終わったら準備しよっか。母体の情報を調べて、さっさと片付けるよ。」
守はマリアの頼もしい言葉に力をもらいながらも、
不安と緊張を胸に秘めていた。果たして、自分にそんなことができるのだろうか?
天城はうっすらと目を開けた。視界に入るのは見慣れない天井。
枕元に灯る薄明かりがぼんやりと周囲を照らしている。
「……ここはホテル?」
ゆっくりと起き上がると、体に鈍い痛みを感じたが、
特に怪我や傷跡はない。記憶が途切れている。首を傾げながら部屋を見渡しても、誰もいない。
「あの子を捕まえて……その後どうなったんだ?」
立ち上がって一歩踏み出すと、体が少しふらついたが、歩けないほどではなかった。
部屋を出て廊下を進む。静まり返ったホテルの中は異様にひっそりとしていて、
まるで自分一人だけが取り残されたような気分になる。
ポケットからスマホを取り出し、画面を確認した。時間は深夜を回っている。
操作しながら、ふと守の顔が頭に浮かんだ。
「守さん、大丈夫かな……?」
そう思いながら連絡を取ろうとしたが、スマホの連絡先リストを開いてはっとした。
「そうだ……守さんの連絡先、知らないんだった。」
肩を落として深いため息をつく。守のことが気になるものの、連絡を取る手段はない。
仕方なく、その場を後にして家へと向かうことにした。
ホテルを出ると、夜の冷たい空気が肌にしみる。足早に人気のない道を歩きながら、頭の中で疑問が渦巻いていた。
「何が起こったんだろう……守さん、無事だといいけど。」
自宅が見えるまで、天城の胸に重い不安は消えることがなかった。