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皆さんは「運命の人」って信じますか?
私っ、まさに今日、ビビビッときちゃったんです!
周りにはいつも、「恋に恋してる」なんて言われてたけど、今回は絶対に運命なんです!
滝沢沙織、あの人好みの女の人に変わるって決めました。
デブと言われ続けた人生に幕を下ろして……この恋、実らせてみせますっ!!
<プロローグ>
皆さんは「運命の人」って信じますか?
私っ、まさに今日、ビビビッときちゃったんです!
周りにはいつも、「恋に恋してる」なんて言われてたけど、今回は絶対に運命なんです!
だって目が合った瞬間、いつもの100倍くらい電気が走ったし、
「―――ちょ、ごめんな。前見てなかってん。大丈夫か?」
そう言って体を起こしてくれた時は、電気が1000倍くらい走ったんですっ!
だから決めたんです、あの人好みの女になろうってっ!
チョコもケーキも、菓子パンもやめ!
揚げ物は中身だけ食べるし、コーラもジュースもやめて、飲むのはお水!!!
……そんなの、考えただけで泣きそうだけど、滝沢沙織、24歳!!
デブと言われ続けた人生に幕を下ろして……この恋! 実らせてみせますっ!!
***
「滝沢さーん。これ出張のお土産。君が好きそうだなって思って」
仕事中にふらっとやってきた部長が差し出したのは、関西限定の有名チョコスティックだ。
こ、これめっちゃ食べたかったやつだっ!
「わっ、ありがとうございます! すっごく食べてみたかったんですっ」
雑誌とかテレビで見ていつかだれか買ってきてくれないかなーって思っていたの!
うれしいー!!
お菓子を手にそわそわしていると、部長は二度頷いて今10分休憩してもいいと言ってくれた。
「ありがとうございます~! 皆さんのコーヒーも入れますねっ!!」
るんるん気分で給湯室に入り、インスタントコーヒーを人数分入れてオフィスに戻る。
私の勤め先は総合商社で、このビルの3階と4階部分に事務所がある。
私の所属する産業化学品部は、4階にある20人くらいの小さな部。ちなみに事務員は私一人。
ほかの部署は事務員ももっといるんだけど、女一人も、慣れればかなり快適なんですよ?
営業の皆さんが、各地でお土産を買って来てくれるし、なんだかんだと可愛がってもらえるんです!
「みなさーん! コーヒー入りましたー!」
「おぉ、ありがとう」
コーヒーを配り終えると、私はいそいそと自分の席についた。
あぁ、あこがれの限定チョコスティック!
いっただきまーすっ!!
……うぅーーん!! これこれ!
沁みる~~!
甘いものは正義!
やっぱ全世界を救う食べ物ですよねっ!!
「いやぁ本当、滝沢さんは食べてる時、いい顔するなー」
向かいの営業さんにしみじみ言われて、ちょっと照れちゃう。
「そ、そうですかぁ?」
「うん、ていうか、ずっとだれかに似てると思ってたんだよね。そうだ。滝沢さんは七福神の恵比寿様そっくり!」
「あっ!それそう! 似てる似てる!」
「あー、それもあるけど眼鏡をかけたら、お笑い芸人っぽくない? えーっと最近出てきた一発屋の!」
「え、それ誰ですかぁー!」
みんなで笑いながらお菓子を食べるのは、仕事の合間の至福のひと時……。
一生お菓子を食べていたい。
やっぱりお菓子は世界を救うよね!
袋をぽいっとゴミ箱に放ると、自分の飲み物用にコーラを買おうと、財布を片手に立ち上がった。
給湯室を通り過ぎ、通路の端にある自販機へと向かう。
(私って、七福神の恵比寿様に似てるのかぁ~。縁起いいかも~)
私の見た目はいわゆる「ぽっちゃり」さん。
だけど、皆さん間違わないで!
間違っても私は「デブ」なんかじゃないんです!
昔からずっとぽっちゃりな私は、時々心ない言葉……「デブだデブだ」って言われてきました。
だけど「ぽっちゃり」と「デブ」はぜーんぜん違うんだから!
七福神の恵比寿様は可愛いキャラだもん!
Lサイズさんまでは標準体型で、LLサイズさんはぽっちゃりさん。
デブって言われるのは、それ以上の人のことなんですっ!
自分の持論を脳内で力説していると、下のフロアで働く同期の子たちとすれ違った。
「あ、滝沢さん…! ちょうどよかった!」
「はい??」
「明日って夜あいてる? メーカーさんと合コンなんだけど、一人風邪ひいちゃって来れなさそうなの。もし大丈夫なら一緒に来てくれない?」
「わー、ありがとう!! いくいく! 後で詳しいことは連絡ほしいです!」
やった!!
合コンなんて久々だなぁ~!
カッコイイ人いるかなぁ~!
今度こそ私の王子様、見つかるかなぁ?
コーラを買った私は、鼻歌混じりにオフィスへと戻る。
わーい、なんかいい事ありそうな予感がする~。
欲しかったお菓子はもらえちゃったし、合コンに参加出来るようになるし…!
「うん、いいことばっかり!あと半日頑張るぞ!」
私は勢いよくプルタブをひねり、ごくごくっとコーラを一気に飲み干した。
***
「お先に失礼しますっ」
仕事を終えた私は、会社近くの本屋にダッシュで駆け込んだ。
何故かって?
それは、今日は待ちに待ったマンガの発売日なんですっ!
いや、すでに電子で昨日の深夜に購入済なんですよ??
だけど大好きなマンガは紙媒体でも揃えたい。
これが真のファン心ってやつですからねっ!
大好きな漫画……そして私のバイブル。
ズバリ「恋色白書」!!
続きが出るまでそれはもう、何パターンもふたりの行く末を想像してスタンバっていました!
そしてそして……続きは私の想像のどれとも違う続きだったけど、それがまたイイんですっ!!!
って、普段あんまり走らないから、本屋さんに着くまでに動悸はマックスだし、汗びっしょり。
今すぐコーラ飲みたーい!!
いやでも先にマンガ!!
ハンドタオルで汗を拭きつつ、新刊のコーナーに直行すると、ありました!!私のバイブル!!
(あぁっ あったー!!)
カバー表紙を見ただけで、私のテンションは超最高潮!
大事に、でもさっと掴んでぎゅっと握りしめる。
あぁ、至福……!
レジに向かいながらも、顔がニヤけて止まらない。
お支払いしている間も頬はゆるみっぱなし。
あっ、カバーはつけてくださいねっ!!
ゲットしたマンガは大事にカバンの中へ。
いやぁ、この高揚感は言葉にならないなぁ~!
帰りの電車は満員御礼超ラッシュ。
だけど、そんなの気にしない!
漫画を手にした私に、怖いものなんて何一つないんだからっ!
人の隙間にサッと身を寄せて、鞄からスマホを取り出すと、昨日買った電子の「恋色白書」のページをクリック!!
ここはやっぱりゲットした高揚感のままマンガを読み返さなくっちゃ!
ここまでくれば、車内がすし詰めだって、多少うるさくったって、何にも気にならないマイワールド!
ずっとにやけている怪しい人だって自覚はなくはないです。
でもそれは仕方ない。
だって恋色白書がおもしろいんですから!
もうみんなに言いたい!
このマンガ、最高だって!!
それに、読みながらニヤけた顔を咳でごまかすのはいつものことだもん。
「ゴ、ゴホッ」
隠しきれなくなったら、咳するフリ!!
顔を手で隠してごまかせばオールオッケー!!
(はぁ~、やっぱり面白かったぁ)
新刊はわくわくするけど、読み終えた傍から続きが読みたくて仕方がなくなるよね。
続きが出るまで、また妄想で補完かぁ~。
最寄り駅について、ふわふわっとした気持ちで改札を出る。
(―――あ、そうだっ)
朝ごはん買ってかーえろっ!
鼻歌まじりでコンビニに入り、メロンパンとシュガーパンを5個ずつカゴに入れた。
コーラも5本カゴへ。
よしっ、これを5日分の朝ごはん完成だっ!
コーラとパンでずっしり重いレジ袋が腕に食い込んでも、ぜーんぜん気にならない!
明日は合コン!
どうか、明日の合コンで、素敵な彼氏が出来ますようにっ!
そして次の日。
「あ、滝沢さん、こっちこっちー!」
待ち合わせ場所で手を振ってくれるのは、昨日合コンに誘ってくれた鈴木さんと、そのお友達さん。
(わぁ、鈴木さんも美人さんだけど、お友達も美人さんだなー)
なーんて思っていると、お友達さんは私を見てちょっとびっくりした顔をした。
それでとなりの鈴木さんに向かってなにか小さな声で話をしている。
ん?? なんだろう??
なんか「ぽっちゃり」ってワードが聞こえた気がするけど気のせい??
あっ!
私も今日は一張羅を着ているし、メイクだって頑張っちゃったから、「これはライバル出現!?」って思ってるのかも……!
そうです、私たちは恋のフィールドに立てばライバルです!
でも今はまだ同志、お互い頑張りましょうっ!!
「初めましてっ! 今日一緒に参加させてもらう滝沢ですっ! よろしくお願いします!」
「石井です、よろしくね」
石井さんは苦笑いしながら挨拶をしてくれた。
うーん。アンニュイな顔もさまになってる人だなぁ~。
でもでも、私だって今日は絶対にかわいいはずなの!
この間買ったばかりのワンピースはばっちりひざ上だし、髪の毛だって少しだけ巻いてきたんだからっ!
今日こそ彼氏になる人を見つけられる……そんな予感がビシビシしてるんです!
『滝沢さん、帰りは送らせて』
『いや、俺が…!』
脳内で繰り広げられる私を巡るイケメンバトルに、おろおろする私。
はっ!!
や、やばいっ!
イケメンが私の取り合いになった時の対処法、考えてなかったなぁ~!!
こういう時、どういう対応が正解??
みんなを傷つけずに、理想の王子様をゲットする方法ってどうするの??
考えて! 答えはいつもマンガの中にあるっ!
こんなシチュエーションだと、漫画の王道は――。
恋愛のバイブル、『恋白』を頭の中で広げかけた時、前を歩く二人がなにやら小声で話をし始めた。
「ねー、滝沢さんってちょっと変わってない? なんかひとりで百面相してるよ?」
「うん、かなり変わってるけど、合コンじゃ滝沢さんいるといいよ! 後でわかるって!」
「そうなの?」
そんな会話が聞こえてくるけど、今の私はそれどころじゃない!
だって、私をだれが送るかでイケメンが争った時、どうするか考えるのは今しかないんですっ!
けど脳内がシュミレーションがまだ終わらないのに、無情にも合コンの会場、おしゃれなワインバーに到着しちゃったの。
あぁっ!
まだイケメンがにらみ合いになった時、どうするか決まってないのにっ!
仕方ないっ、その時はその時!
まずはイケメンとのご対面だぁ~!
意気込んで入った店内は、オレンジ色の間接照明が素敵なお店で、大人な雰囲気!
わぁぁ、こんな素敵な場所なら、素敵な出会いがあるに決まってるっ。
わくわくしながら鈴木さんと石井さんの後に続くと、壁際のテーブルの男性たちが手をあげた。
「鈴木さん、こっち」
「あぁ、こんばんは」
私たちに合図をして鈴木さんがそちらのテーブルに近づいていく。
おぉっ!
スーツ姿ってやっぱいいですよねっ!
男性たちのオーラ、みんなイケメンさんだぁっ!
あぁ、胸の高鳴りが止まらない……!
今日こそは絶対、私の王子様をゲットだぁ~!
お尻をぱちんと叩いたのは、気合いを入れたい時のクセ。
よしっ! 気合い充分!
いざ着席!イケメンさんたちとのご対面!!
イスに座ると、鈴木さんが私たちを紹介してくれた。
「友人の石井さんと、同じ会社で同期の滝沢さんです」
「石井です、こんばんは」
私のすぐ隣でにっこり挨拶をしたのは石井さん。
おおっと、いけない!
後れをとらないようにしなきゃ!
「滝沢沙織ですっ!よろしくお願いしますっ」