「え、嫌だよ………」
「ね?お願いー!!!
一緒に合コン行こうー!!!」
「はぁー?
次からは絶対無理だかんな!…
てな訳で先輩!後、頼んます!」
先輩。私の事だ。
私は肝っ玉が小さいので
言い返す事もあまりしないし、
断わる事が出来ない。
だからだろうか。
ズルズルと後輩を甘やかして
しまうのは。
残った山のような原稿に
一人で立ち向かい、
文字やイラスト相手に
勝てる訳もなく、
無理だと悟ったのは
結局、朝日が顔を出してからだ。
「あぁー…、若いって良いなぁ!
なんであんなに眩しいのかな?
朝日の方がほら!
直視、出来…!!!うわ!痛!」
なんて馬鹿な事をしているのだろうと
自分で自分を笑ってやる。
この歳になると、自分を
労ってあげれるのは自分だけなのだ。
「情けないなぁ〜…、両親にも
成功した姿見せた訳でもなく、
孫の顔見せれた訳もなく、ただただ
毎日毎日絵を描いて…
それが何かになるって信じて、
ずっと今日までいるんだもの」
そこまで独り言を言うと、
私は深々とため息を着いた。
しかし、「売れない」漫画家を
辞めようと思った事は
1度も無いのだ。
何より……………
そういう自分が好きだった。
勿論、普通の仕事も
アルバイトだけどしたことはある。
だけど「適応能力がみられない」
とかで、1日にしてクビになった。
今となっては笑いの種だ。
私は、昔から両親や祖父母以外には
フワフワして掴みどころのない
落ち着かない変わった子、と
みんなに言われて育った。
私は、最近までずっと思っていた。
みんなそうやって自分を見るなら
私がみんなを捨ててやろうと。
だから、独立したのかもしれない。
所詮、分からない人に
ずっと「私はこうなんだ」って
伝えても伝わる訳がない。
人には、それぞれ正義感が
あってそれが正しいと思うと
それを基準に動いて耳を貸しては
くれない。貸してくれるのは
ほんの、ひと握りの人だ。
第一、人の為に働くのではない。
私は私の為に働くのだ。
他の人になんと言われようが
それが、私で。私という人間。
その人たちの為に生きては
駄目なんだ。自分が大事に
出来ない人は、周りも大事に
出来ないと、母は言っていた。
まだまだ人の機嫌とか、
伺いがちだが、時が経てば経つほど
気持ちが柔らかになった気がする。
自分という人間が、そして
段々と掴めてきた気がするのだ。
──────────ピピッ!
不意にスマホの
居眠り防止アラームが鳴る。
「もう朝10時〜?朝ごはん何にしよ…」
周りを見渡すと、知らない
田んぼ道に小さな公園が一つ。
ひとまず、そこで休もうと
自転車から降りた時だ。
古ぼけた公園に子ども達が2、3人。
他には…………
居た居た、保護者…
じゃない?
これは…
不審者!?
私は自転車を慌てて押して行って
子ども達の安否を確認した。
「大丈夫!?」
子ども達の中心核のような
男の子が一言。
「何がー?」
あ…、これは私が怪しい人な
オチだ…と慌てていると
すかさず、もう一人の子どもが
口に出した一言で、私はこの
集団に巻き込まれる事になった。
「でも、考えてもみてください
潤ちゃん!これはこの怪しいうさぎ
から助けてくれる、大人の方かも
しれませんよ!…その名も!!!
救世主その1です!」
「なるほどなるほど…」
中心核の子は、顎を人差し指で
撫でて考えると、うさぎに向き直る。
「で?その風船をもらってやったら
俺らにメリットある訳?」
「え!潤ちゃん、まさかの無視!?」
驚いた様子の賢そうな子は、
どうやら中心核の助言をする
軍師役、といったところか。
メリットと言われて、
うさぎは嬉しそうにコクコクと頷く。
「だって、風船もらったら
きっと幸せになれるよ」
ポカーンとする子ども達、と私。
「な、ん、だ、よ!!!
その根拠のない自信は!!!!!!!
どっから湧いて来るんだよ!」
遂に中心核の子が怒り始めた。
それもそうだ。私も同感だった。
私も頷き、付け加えようとした時だ。
中心核の子の瞳がキラキラと
輝き出した。
「うさぎ、結構カッケー奴だな!
さっきはごめんな!!!正直、
交番行こうと思ってた!」
「えぇーーー!!!」
うさぎはいかにも「ビックリ」と
いうようなパントマイムをした。
「でも、今日からは違うぜ!うさぎ!
お前は、俺の子分no.301だぜー!
やったな!!!喜べ!」
そこでサッと賢そうな子が来て
中心核の子を止めた。
「待って!!!
潤ちゃん!潤ちゃん、300人も
手下は居ないし、友だちさえ
僕一人だよ!?」
「いちいち細けーんだよ!
康介はー!!!だから俺が
友だちになってやってるんだからな!
わざわざ個人情報、言うなやー!」
不服そうに賢そうな子は
細ぶち眼鏡を上げていつもの事の
ようにため息をついた。
「第一、言葉の一つ一つが
馬鹿っぽいよー!これだから子どもだ
ってまたオジサンに言われても
知らないからね!」
オジサン…。
多分、潤くんのお父さんの
事だろう。
それにしても。
康一くんのキレッキレのツッコミが
凄い。正直、現れてから私は
それに驚いて喋れてない。
「よし!!!
康一!決めたぞ!今日から…
そうだな!このうさぎもマブダチな!
はい!友だち二人GETーーー!!!」
「あ、潤ちゃん…もう、いいよ」
「じゃあな!!!うさぎ!
明日の今くらいここで待ち合わせな!
俺らは大丈夫だけどお前は
大人だから、15分前集合な!」
うさぎは、機嫌よく手を振って
嬉しそうだった。
私も、ちょっとしたコントを
見たようで疲れた心が少し
ホッとなった。子ども達が見えなく
なるまで私も手を振っていた。
「あのーーー…」
ふと、うさぎから私に会話を
切り出されてビクッっとなったが
ちゃんと応えた方が良いかと
思い、返事をした。
「はい…?」
「潤くんと康一くんみたいに、
逃げなくて俺、嬉しいです…
あ、あの…その、ありがとう、
ございます」
「あ、は、はい…」
うさぎが余り緊張するものだから
私までどぎまぎしてしまい、
ちゃんと喋れなかった。
『………あの!!!』
次の瞬間、私とうさぎは同時に
喋っていた。
私が逆に色々と聞きたい事だらけ
だったのだが、先にうさぎが
喋っていた。
「お近くの人ですか?」
「いえ…家は通り過ぎてしまって、
考え事してたら………」
「あ、分かります!
ありますよ、俺も一緒です」
私は「へぇ…似たような人も居るんだ」
と思って、少しうさぎの着ぐるみ以外に
親近感が湧いてきて、彼に尋ねた。
「結構、遠いんですか?家?」
「隣町ですよ俺は」
(…は!!!!??????)
隣町からこんな田舎の山里へポテポテ
うさぎの着ぐるみを着てやって来たと
思うと、ちょっとツボにハマった。
「よく、捕まりませんでしたね…」
「あ…、想像を壊すようですみません!
俺、山道用の車で来ました…えへへ」
(えへへ、じゃないよ!想像
壊れた方が良かったわー!)
と、内心思っていたが、私は
話を合わせて笑っていた。
(下手に刺激したら地雷あるかも
だからな!)
うさぎはサッと片手を差し出した。
「これ…」
そこには真っ赤な風船があった。
赤い赤い風船は、
上下左右に自由気ままに揺れるけど
芯はしっかりズレずにずっと
一生懸命、宙に浮いていて
健気すぎて、私は貰えなかった。
「ごめんなさい、貰えない…」
一瞬、ショックを受けたような
素振りをして、うさぎは
「そっかぁ…こちらこそ、ごめん」
と、言った。
しゅん、と分かりやすく落ちた頭。
私はいつの間にか撫でていた。
「私はね、うさぎさん…
まだまだやらなきゃいけない目標とか
使命が沢山ありすぎて、
こんな綺麗な風船を貰える人じゃ
ないの」
うさぎはギューっと私を抱きしめて
「お互い、頑張りましょうね!」と
言った。
一瞬、何されるのかと思った
私は、そのビックリした体制のまま
固まって「はい…」と安心して
ため息混じりに言ったのだった。
その時、ブワッと突風が吹いて
風船が全て飛ばされた。
「あ…!!!」
咄嗟に顔を上げたら、うさぎの
着ぐるみの被り物に頭が激突して
外れてしまった。
そこには…
おひさまの色の髪と、
空色の瞳を持つ、異国を感じさせる
とても綺麗な顔立ちの
男性が尻もちをついていた。
キョトン、として開かれた目は
とても大きくまつ毛も長い。
髪の毛は、白いフードを
深々と被ってはいるものの
日光に照らされて黄金色に光って
いた。