テラーノベル
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「うん、そう。 3ヶ月くらいやりとりしてる……合ってる?」
その人は、ふっと力が抜けたように笑った。
「うん。はじめまして。」
相手は噴水を回り込むようにして隣まで来ると、少しだけ離れた位置に立った。近くで見ると、その肌は陶器のように滑らかで、まっすぐにこちらを見ている。身につけているものは質素だが仕立ての良いもので、やはりどこか一般人とは違う空気を纏っていた。
少し首を傾げて、確かめるように。
「……思ってたのと、ちょっと違うかも」
悪い意味ではなさそうだった。むしろ、目の前の存在をどう受け止めたらいいのか測りかねているような顔だ。
「もっとこう、堅い人かと思ってた。
……手紙、退屈じゃなかった?」
水音に混じって、風が二人の間を通り抜けた。対立する国の王子同士がこうして並んで立っているという事実を、この場の誰もまだ知らない。
「ううん、全然。
逆に文通始めてから毎日が楽しくなった」
相手は一瞬、目を丸くした。それからすぐに視線を落として、噴水の水面に映る自分の顔を見るふりをした。
「……そういうの、ずるいな」
耳の先がうっすら赤くなっているのを、本人は気づかれていないと思っているらしかった。
咳払いをひとつして、話題を変えるように。
「ねえ、ここ座ってもいい?」
噴水の縁を指さして、自分との間に拳ひとつ分の隙間を空けて腰掛けた。水飛沫が時折ふたりの肩に散る。
しばらく黙って水を見ていたが、相手がぽつりと口を開いた。
「ずっと怖かったんだ 」
風が凪いだ。遠くで商人の荷車の車輪が軋む音がした。
「もし会って、がっかりされたらとか。
文通やめようって言われたらとか。
……でも来てくれたから、よかった」
そう言って横目で自分を見た。その目は文面の印象そのままに、真っ直ぐで少し不器用だった。
相手の言葉に微笑みながら自分は言った。
「心配しないでよ。
自分も会いたかった。
ずっとね、どんな人なんだろうって気になってたんだ」
相手は自分の目をじっと見ていた。それからはっと我に返ったように、慌てて前を向いた。
「……そ、そっか。」
相手は明らかに動揺していた。膝の上で組んだ指が落ち着きなく動いている。
「あのさ」
言いかけて、一度口を閉じた。
何かを迷うように唇を噛んでから、もう一度。
「自分たち、お互いのことまだ全然知らないよね。
……国のこととかも」
相手が放った言葉で空気がわずかに変わった。
「国」
という単語が二人の間にぽとりと落ちたように。相手の横顔からさっきまでの無防備な笑みが消えて、代わりにどこか探るような色が混じった。
水面を見たまま、静かに。
「聞いていい?
……君ってさ、どこの国に住んでるの?」
知っているくせに聞いたのか、それとも本当に知らなかったのか。声のトーンは変わらないのだが、組んだ指の力が少しだけ強くなった。
「……聞いても、なにもしない?」
このまま捕まえられて、殺される可能性もゼロではない。
自分の言葉に、わずかに目を見開いたのが見えた。
その反応が答えだったのかもしれない。相手は小さく息を吐いて、それから自分のほうへ体を向けた。
「しないよ」
声は静かだったが、はっきりとしていた。
「なにもしない。
……約束する」
風がまた吹いたが、今度は止んだ。噴水の音だけが律儀に水を吐き上げ続けている。
相手は少しだけ眉を下げて。
「自分が先に言わなきゃだよね。
……自分はキャペカジアの人間。
あっちの、山のほう」
隠しもせず、あっさりと。まるで天気の話でもするみたいに言った。その顔には怯えも虚勢もなく、ただ自分がどう出るかを待つ目があった。
のりもちさん
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コメント
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第3話読みました……! まず噴水のシーン、水音や風の描写が美しくて、目の前に景色が浮かびました。 「ずっと怖かったんだ」って素直に打ち明けるところ、めちゃくちゃ刺さりました。 お互い探り合いながらも、ちゃんと「約束する」って言えるのが尊い……。 でも「国」の話になった途端の空気の変わり方、ゾクっとしました。続きが気になる……!