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あーる.(投稿不定期)
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一度あることは?
あの夜から、一週間が経った。
「はっくしょんっ……ずず……」
頭の奥が、ぐらぐらと揺れている。
鈍く重い痛みが、こめかみのあたりでずきずきと脈を打っていた。
「ゔぅ……あたま、いたい……」
暑い。
体のどこにも力が入らない。
なんとか起き上がろうとするのに、言うことを聞かない体は重くて、瞼までじわじわと沈んでいく。
「起きなきゃ……いけ、ないのに……」
意識が薄れて、途切れそうなその寸前。
ふと、あの雪の日のことが頭をよぎった。
頬に落ちた雪の冷たさ。
白く滲む吐息。
震える空気の中で、ぶつかりそうなくらい近くにあった距離。
肌に残った体温と鼻先をかすめた彼の香り。
熱に浮かされた頭の中で、それだけがやけに鮮やかに浮かび上がった。
「……凛くん……私は……」
こんなお約束みたいな展開、あるわけない。
そう思いたかったのに。
どうやら私は、ずいぶんタチの悪いものに感染してしまったらしい。
答えは出ないまま、意識は溶けて途切れていった。
⸻
「……い」
声がする。
遠い。
「……おい」
低い声。
聞いたことがある。
いつも、なんだか少し不機嫌に聞こえる声。
「……夢主。おい」
重たい瞼を、ほんの少しだけ持ち上げる。
白い。
ぼやける。
何度瞬きをしても、うまく焦点が合わない。
黒いものが揺れている。
その向こうに、青い色が見えた。
「……りん、くん……?」
自分でも、ちゃんと声になったのかわからなかった。
「……起きたか」
やっぱり。
凛くんだ。
ぼんやりとそう思って、また目を閉じる。
そっか。
凛くんの夢、見てるんだ。
「おい。寝んな」
頬を軽く叩かれる。
「……んぅ……」
「水飲め」
「……ねむい……」
「知るか。飲んでから寝ろ」
夢なのに、いつも通りだ。
もう少しくらい優しくしてくれてもいいのに。
そんなことを考えていると、額にひやりとしたものが触れた。
「……」
気持ちいい。
冷たいものを追いかけるように、無意識に頬を寄せる。
「……つめたい……」
「お前が熱いんだろ」
ぶっきらぼうな声。
でも、手は離れない。
大きな手のひらが、額を覆っている。
「……きもちいい……」
「……」
凛くんが黙った。
なんでだろう。
夢なのに。
「……もうちょっと……」
離れかけた手を追いかける。
もう一度、ひんやりした感触が額に戻ってきた。
安心する。
「……お前、起きてんのか?」
「……んー……」
「どっちだよ」
よくわからない。
たぶん寝てる。
だって、凛くんがいるから。
「……凛くんの夢……」
「……は?」
「……夢……」
また静かになった。
「……寝ぼけてんのか」
低い声が、少しだけ呆れたように聞こえた。
「水」
「……いらない……」
「飲め」
「……やだ……」
「飲め」
夢のくせにしつこい。
「……凛くんの、大怪獣……」
「は?」
「夢なのに……」
「……」
「もっと優しくして……」
「…………」
また返事がなくなった。
どうしたんだろう。
「……いいから起きろ」
さっきより少し低い声がして、背中に腕が回る。
身体を起こされる。
ぐらりと傾いて、そのまま何かに額がぶつかった。
あったかい。
「……」
鼻先に、ふわっと匂いがした。
洗いたての服みたいな、清潔な匂い。
その奥に、ほんの少しだけ甘い香りがする。
知ってる。
これ。
雪の日と同じ。
「……凛くんの匂い……」
「……は?」
すぐ近くから声がする。
「……おんなじ……」
「何が」
「雪の日と……」
言いながら、もっと確かめたくて少しだけ顔を寄せる。
「……おい」
「……いい匂い……」
凛くんの身体が固くなった。
でも、そんなことまで考えるほど頭が働かない。
あったかい。
眠い。
「……お前……」
「……ん……?」
「…………なんでもねぇ」
何だったんだろう。
まあいいや。
夢だし。
「口開けろ」
唇にコップが当たった。
一口だけ水を飲む。
冷たい水が、熱を持った喉を通っていく。
「もう一口」
「……もういい……」
「飲め」
「……やだ……」
「あと一口」
「……凛くん、しつこい……」
「うるせぇ」
仕方なく、もう一口飲む。
「……飲んだ……」
「ああ」
やっと身体を布団へ戻してもらえる。
ふわりと沈み込んだ枕が気持ちいい。
もう眠れる。
そう思ったところで、そばにあった黒いものをなんとなく掴んだ。
「……」
「……おい」
凛くんの声。
薄く目を開ける。
指の中に、黒い袖がある。
「離せ」
「……やだ……」
「は?」
どうして嫌なのかは、よくわからない。
夢なら。
せっかく凛くんが出てきたんだから。
もう少しくらい、いてくれてもいい。
「……もうちょっと……」
「何が」
「……ここにいて……」
自分の声が、ずいぶん遠く聞こえる。
返事はなかった。
「……凛くん……」
「……」
「……いなくならないで……」
長い沈黙。
それから。
「……わかったから」
低い声が落ちてきた。
「寝ろ」
「……ん……」
それで十分だった。
握った袖の感触に安心して、瞼がゆっくり閉じていく。
「……おい。手……」
何か聞こえた。
でも、もう眠い。
「……」
「…………チッ」
最後に、小さな舌打ちが聞こえた気がした。
額に、もう一度だけ冷たいものが触れる。
気持ちいい。
やっぱり夢だ。
こんなに優しい凛くんなんて、いるわけない。
そう思いながら。
私はそのまま、深い眠りに落ちていった。
⸻
チチチチチチ。
耳障りな目覚ましの音が、頭の中で反響する。
「……うぅ……あだまが……いだぃぃ……」
最悪の目覚めだった。
頭は痛い。
喉も痛い。
体中が、まるで誰かに押し潰されているみたいに重い。
「…………ん?」
……いや、待って。
重すぎない?
この感じ。
なんだか、ものすごく覚えがある。
「…………まって。デジャブ?」
嫌な予感がして、恐る恐る視線を下げる。
「………………」
そこには。
私の身体に半分もたれかかるようにして、規則正しい寝息を立てている男がいた。
長い睫毛。
無防備に閉じられた目。
見間違えるはずもない。
――糸師凛。
そして私は悟った。
一度あることは。
どうやら、二度あるらしい。
あとがき
更新全然できなくてすみません、、、
自分でもびっくりするぐらい時が立ってて震え上がりました!
ほんとに速度がムラがありすぎて恐縮の極みすぎではありますかなんとか、かならず完成まで持っていきますので気長にお付き合いいただけると嬉しいです!
コメント
1件
ああああ凛くんの看病回キターー!!😭💕 熱でうなされてる主人公の「凛くんの夢…」ってところからずっと胸がきゅんきゅんしてたんだけど、最後のデジャブで「二度ある」ってオチに持ってくの天才すぎるよここさん…! しかも夢だと思ってたのに袖つかんで「いなくならないで」って甘えるシーンがもう…語彙力消失案件…🥺✨ 凛くんの舌打ちのあとにもちゃんと手を離さない優しさがにじんでて最高でした! 続き気になりすぎる…お大事に無理せず更新待ってますね🌸