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『春雷のあとで』
薄曇りの春の午後。
大学の講義が終わると、翔太はいつものように、正門の前で亮平を待っていた。
シャツの袖をまくりながら、スマホをいじるふりをして、ちらちらと人の流れを見つめる。
「お待たせ、翔太」
「…遅い。10分も待ったんだけど」
「5分だよ」
亮平は笑いながら、翔太の隣に並んだ。
柔らかい空気をまとった彼に、翔太は口をとがらせながらも、無意識に手を伸ばす。
指先が触れ合い、ゆっくりと繋がった。
_2人は付き合って、もうすぐ2年。
些細な喧嘩もあったが、それでも毎日を一緒に過ごせるだけで満たされていた。
春になったら、一緒に住もう。
そう言い合ったのは、去年の冬だった。
「亮平、今日行かない?物件。」
「うん、でもその前に、ひとつ寄っていい?教授にレポート提出しに行きたいんだ」
「は?今?」
「すぐ終わるから」
亮平はふわりと笑い、翔太の頭を撫でた。
「待ってて、ね?」
翔太は渋々、学内のカフェに戻った。
その時だった。
_大学の構内で、悲鳴が上がった。
「えっ……」
翔太がカップを置いた瞬間、
どこかでタイヤが軋む音が聞こえた。
走って駆けつけると、
校門前の交差点で、人が倒れていた。
教授が、 「誰か救急車を!」と叫んでいた。
_倒れていたのは、亮平だった。
「っ……りょう、へ…」
「……亮平”っ、!!」
翔太は喉を裂くように叫んだ。
でも、彼はもう動かなかった。
ー
三ヶ月後
翔太は部屋にひとりだった。
あの日から、ずっと空虚なまま。
亮平が送ってくれた最後のLINEを、
何度も何度も読み返す。
『翔太、今日はありがとう。』
『すっごい楽しかった』
『また海行こうね』
あれが、彼の遺言のようだった。
声が聞きたくて、動画を再生した。
2人で撮った夜の海の映像。
亮平がふざけて、二人で笑い合うシーン。
『翔太って、一緒に居てほんとに楽しい』
『そう?笑』
『うん、何しても楽しいって思っちゃう』
『俺も、亮平と居る時が一番楽しい』
『ふふっ笑』
『翔太、大好きだよ。』
『…なに、急に笑 』
『ほんとの事、伝えただけ』
『…そ、』
『…俺も、大好き。』
彼の声。
彼の眼差し。
もう、どこにもいない。
ー
翔太は、しばらく立ち直れなかった。
大学も、家族も、友達も、
全部どうでもよくなっていた。
それでも、季節は過ぎていく。
春雷がまた鳴ったある日、翔太は亮平の遺品の中から、一通の手紙を見つけた。
もし、僕に何かあったら_
翔太は、どうか幸せでいてください。
僕の人生で、一番誇れるのは、
君を好きになったことです。
涙が止まらなかった。
翔太は空を見上げた。
亮平の姿は、もうこの世界にはいない。
翔太は、彼の愛を胸に抱いたまま、
ゆっくりと歩き始めた。
涙が頬を伝うたび、声が聞こえる気がした。
_『翔太、愛してるよ。』
ビルの最上階に、夜風が吹き抜けていた。
足元に広がる夜景は、まるで
宝石の海のようにきらめいている。
でも、その美しささえ、
もう彼の心には届かなかった。
翔太は、鉄柵の外側に立っていた。
「…なんで、こうなったんだろ、笑」
心のどこかが壊れていた。
喪失という名前の鋭い刃が、
静かに魂を削り続けていた。
翔太は目を閉じた。
深く、息を吸い込む。
耳の奥で、風の音が鳴り続ける。
「……亮平、」
(__待っててね。)
その名前を最後に、足に力を入れた。
地面は遠く、空はやけに近かった。
身体がふわりと浮いた。
落ちていく間、翔太の目には、
亮平の笑顔が浮かんでいた。
初めてキスをしたあの日。
喧嘩して、泣きながら仲直りした夜。
最後に見た、血の気の引いた彼の顔。
_もう、会えるかな。
翔太の体は、風を切り裂きながら 、
静かに、そして確実に落ちていった。
その夜、街は何も知らずに光り続けていた。
ー
⚠︎︎ この話はフィクションです。
コメント
14件
目がぁ目がぁ‼️泣ける
あぁ、、、目が痛い、、、、