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第45話「エルフの血を採る場合」
二週間後。
大学病院。
研究棟。
午前九時。
森野リリカ。
椅子。
目の前。
採血セット。
森野。
「……」
相沢直人。
「大丈夫?」
「大丈夫です」
耳。
ぴく。
「大丈夫じゃない?」
「大丈夫です」
ぴく。
看護師。
笑いをこらえる。
森野。
「耳は見ないでください」
「すみません」
「採血してください」
「はい」
相沢。
「怖いの?」
「怖くありません」
ぴく。
「怖いんだ」
森野。
「相沢さん」
「はい」
「帰ってください」
「付き添いで来たんだけど」
「邪魔です」
「手握る?」
「子供じゃありません」
看護師が。
注射器を準備。
森野。
視線をそらす。
相沢。
「手」
「いりません」
針。
近づく。
森野。
無言で。
相沢の手を握る。
相沢。
「……」
森野。
「何も言わないでください」
「はい」
採血。
数秒。
終了。
看護師。
「終わりました」
森野。
「え?」
「終わりました」
森野。
腕を見る。
「もう?」
相沢。
「百四十三歳でも注射怖いんだ」
森野。
「怖くありません」
ぴく。
「耳」
「うるさい!」
研究。
第二段階。
参加者。
森野リリカ。
百四十三歳。
月島セシル。
二百三歳。
神崎レオン。
百四十七歳。
藤堂アリア。
百五十二歳。
比較対象。
藤堂修一。
百二十五歳。
人間。
ただし。
研究内容は。
限定。
採血。
一般的な細胞検査。
老化関連指標。
遺伝子解析は。
まだ行わない。
データの第三者提供。
禁止。
商業利用。
禁止。
本人は。
いつでも撤回可能。
研究協力検討委員会。
委員長。
森野リリカ。
本人。
ものすごく嫌がっている。
「どうして私が委員長なんですか」
高橋雅人。
「皆さんの推薦です」
「誰ですか」
「全員です」
森野。
「裏切られました」
月島。
「適任です」
神崎。
「適任ですね」
アリア。
「昔から仕切りたがり」
森野。
「アリア!」
修一。
「百年前から変わらないな」
森野。
「修一さんまで!」
相沢。
「委員長」
森野。
「相沢さんは黙っててください」
採血。
月島。
平然。
神崎。
平然。
アリア。
平然。
修一。
平然。
森野。
「……」
相沢。
「森野さんだけ怖がってた」
森野。
「怖がってません!」
四人。
森野を見る。
耳。
ぴく。
アリア。
「昔から注射嫌いだったよね」
森野。
「百年前の話を持ってこないで!」
一週間後。
会社。
普通の日。
午前九時。
森野。
企画書。
相沢。
メール。
月島。
会議資料。
藤堂ユウ。
データ整理。
田中美咲。
突然。
森野の耳を見る。
「森野さん」
「はい」
「一つ聞いていいですか?」
「仕事に関係あります?」
「ありません」
「駄目です」
「エルフって」
「もう聞いてますよね」
「献血できるんですか?」
森野。
止まる。
「……」
田中。
「できます?」
「知りません」
「血液型は?」
森野。
「A型です」
相沢。
「普通」
森野。
「何を期待してたんですか」
田中。
「E型とか」
森野。
「ありません!」
月島。
「私はO型です」
田中。
「普通!」
月島。
「だから何を期待してるんです?」
藤堂。
「僕B型です」
田中。
「ハーフエルフも普通!」
部長。
「仕事しろ」
全員。
「はい」
午後。
高橋から。
電話。
森野。
「はい」
『第一段階の結果が』
「出ました?」
『一部ですが』
「どうでした?」
高橋。
少し間。
『予想以上です』
森野の表情。
変わる。
「何が?」
『老化に関連する複数の指標です』
「はい」
『四人のエルフに』
「……」
『共通する特徴があります』
森野。
「全員?」
『はい』
電話を。
スピーカーへ。
月島。
相沢。
藤堂。
部長。
集まる。
高橋。
『ただし』
『現段階では』
『これが長寿の原因とは言えません』
森野。
「分かっています」
『そして』
「はい」
『もう一つ』
「何ですか?」
『藤堂修一さんです』
藤堂ユウ。
「父?」
『はい』
森野。
「修一さんは人間ですよね」
『人間です』
「何か?」
高橋。
『修一さんにも』
少し間。
『エルフほどではありませんが』
『似た特徴が見られます』
全員。
沈黙。
藤堂。
「父に?」
『はい』
森野。
「だから百二十五歳?」
『可能性はあります』
「でも」
『はい』
「修一さんは」
森野。
藤堂を見る。
「エルフじゃない」
『もちろんです』
「ではなぜ?」
『分かりません』
また。
その答え。
分からない。
研究とは。
分からないことが。
増えていく。
高橋。
『そこで』
「はい」
『一つ確認したいことがあります』
藤堂。
「何でしょう」
『藤堂さん』
「はい」
『あなたにも』
少し間。
『検査へ参加していただけませんか』
藤堂ユウ。
二十六歳。
ハーフエルフ。
藤堂。
「僕?」
『はい』
「どうして?」
『あなたは』
高橋が言う。
『エルフの母親と』
『人間の父親から生まれています』
「はい」
『もし』
『同じ特徴が』
『あなたにも存在すれば』
「……」
『非常に重要な手がかりになります』
藤堂。
黙る。
森野が。
すぐ言う。
「ユウ君」
「はい」
「断っていいですからね」
藤堂。
「分かってます」
「会社とも関係ありません」
「はい」
「お母様とも」
「はい」
「私とも関係なく」
森野。
まっすぐ見る。
「自分で決めてください」
藤堂。
少し笑う。
「森野さん」
「何?」
「母から聞いたのと」
「はい」
「全然違いますね」
「何が?」
「百年前は」
「……」
「人の人生に」
「……」
「ものすごく口を出してたって」
森野。
「……」
相沢。
笑う。
月島も。
笑う。
田中。
「成長ですね」
森野。
「百年あれば成長します!」
藤堂は。
数日考えた。
母。
アリアとも話した。
父。
修一とも。
そして。
検査への参加を。
自分で決めた。
一週間後。
大学病院。
藤堂。
採血。
森野。
付き添い。
藤堂。
針を見る。
「……」
森野。
「怖い?」
「大丈夫です」
藤堂の耳。
動かない。
森野。
「ずるい」
「何が?」
「嘘ついても分からない」
「嘘じゃありません」
針。
藤堂。
少し顔をしかめる。
森野。
「怖かったんだ」
「少し」
「二十六歳ですもんね」
「年齢関係あります?」
「ありません」
採血終了。
さらに。
一週間。
結果。
高橋。
森野。
藤堂。
アリア。
修一。
相沢。
会議室。
高橋が。
資料を出す。
「結果から言います」
全員。
見る。
「藤堂さんにも」
「……」
「あります」
藤堂。
「何が?」
「エルフの四人に共通していた」
「……」
「老化に関連する特徴です」
アリア。
「どのくらい?」
高橋。
「エルフより弱い」
「……」
「しかし」
「一般的な人間より」
「明確に強い」
藤堂。
「じゃあ」
自分の手を見る。
「僕も」
「長生きする?」
高橋。
「分かりません」
「やっぱり」
「二十六歳では」
「はい」
「まだ判断できません」
修一が。
息子を見る。
「私より長生きするかもな」
藤堂。
「父さんが百二十五だから」
「超えるの大変だぞ」
アリア。
「私は百五十二」
藤堂。
「家族のハードル高すぎない?」
森野。
笑う。
だが。
高橋。
笑っていない。
「問題は」
「はい?」
「ここからです」
資料。
もう一枚。
「森野さん」
「はい」
「月島さん」
「はい」
「神崎さん」
「はい」
「アリアさん」
「はい」
「藤堂さん」
「はい」
高橋。
「この五人の結果を」
「比較すると」
「ある傾向があります」
森野。
「何ですか?」
高橋。
「純血のエルフ」
「はい」
「ハーフエルフ」
「はい」
「そして」
修一を見る。
「人間」
「……」
「段階的に」
「同じ特徴が」
「弱くなっています」
森野。
「つまり?」
高橋。
「まだ仮説です」
「はい」
「非常に荒い仮説です」
「はい」
高橋は。
慎重に。
言った。
「エルフの長寿に関係する何かが」
「……」
「親から子へ」
「……」
「受け継がれる可能性があります」
アリアが。
息子を見る。
藤堂も。
母を見る。
相沢は。
森野を見る。
そして。
森野の頭に。
以前。
自分が口にしてしまった。
言葉が戻る。
――もし私たちに子供ができたら。
耳。
真っ赤。
相沢。
「森野さん?」
「何でもありません」
ぴく。
「耳」
「研究の話をしてください!」
だが。
高橋は。
さらに言う。
「ただ」
「これだけでは」
「説明できないことがあります」
森野。
「何ですか?」
高橋。
修一を見る。
「藤堂修一さんには」
「エルフの親がいません」
修一。
「そうだね」
「少なくとも」
高橋。
資料を確認する。
「確認できる家系上では」
「エルフとの血縁はありません」
森野。
「では」
「はい」
「どうして修一さんにも?」
高橋。
「それを」
少し間。
「調べる必要があります」
修一が。
笑う。
「百二十五年生きて」
「はい」
「今さら」
自分の胸を指す。
「自分の身体が謎になるとはね」
その日の帰り。
相沢と森野。
二人。
電車。
相沢。
「森野さん」
「何ですか」
「さっき」
「はい」
「子供のこと考えた?」
森野。
「考えてません」
ぴく。
「考えたんだ」
「研究の流れです!」
「俺も考えた」
森野。
止まる。
「……何を?」
「もし」
「……」
「俺たちに子供ができたら」
森野の耳。
ゆっくり。
赤くなる。
相沢。
「ハーフエルフになる可能性が」
森野。
「相沢さん」
「はい」
「電車です」
「うん」
「その話」
「うん」
「家でしてください」
相沢。
「家ならいい?」
森野。
「……」
耳。
ぴく。
「そういう意味じゃありません!」
向かいの席。
小学生くらいの女の子が。
母親へ。
小声で言う。
「お母さん」
「なに?」
「あのお姉さん」
「うん」
「耳、真っ赤」
森野は。
次の駅で。
降りたくなった。
けれど。
今日は。
逃げなかった。
コメント
1件
ああ、第45話、めちゃくちゃ良かったです……! 研究が一歩進んで、今度はユウくんまで検査に参加することになる流れ、すごく自然で引き込まれました。何より森野さんの注射嫌いが可愛くて仕方なかったです。「怖くありません」って言いながら耳がぴくぴく動くの、百四十三歳の威厳どこいったって感じで微笑ましかったです(笑)。そしてラストの電車での相沢さんとのやり取り、「家でしてください」からの「家ならいい?」の返しに思わず声出ました。赤くなった耳、逃げなかった森野さんの成長も感じられて、すごく好きな回でした🌷