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第46話「エルフの彼女と子供の話をする場合」
その日の夜。
森野リリカの部屋。
午後八時十二分。
相沢直人。
ソファ。
森野。
キッチン。
夕食。
カレー。
相沢が言う。
「森野さん」
「何ですか」
「電車で」
森野。
「聞こえません」
「まだ何も言ってない」
「聞こえません」
「子供の」
「聞こえません!」
耳。
真っ赤。
相沢。
「家ならいいって言ったじゃん」
森野。
「言ってません」
ぴく。
「言った」
「家でしてくださいとは言いました」
「だから」
「してくださいとは」
森野。
カレーを置く。
「話していいという意味ではありません」
「難しいな」
「日本語です」
二人。
食べる。
五分。
無言。
相沢。
「おいしい」
「ありがとうございます」
さらに。
三分。
森野が。
自分から言う。
「……聞きたいことあります?」
相沢。
「子供のこと?」
耳。
ぴく。
「もう少し遠回しに!」
「じゃあ」
「はい」
「将来の家族構成について」
森野。
「会社の面談みたい」
「どうすればいいんだよ」
森野。
少し笑う。
「普通に聞いてください」
「じゃあ」
「はい」
「エルフと人間の間に」
「はい」
「子供はできる?」
森野。
「できます」
耳。
動かない。
「普通に?」
「普通に」
「藤堂君みたいに?」
「はい」
「必ずハーフエルフ?」
森野。
首を振る。
「そこが少し違います」
「どう違う?」
「人間に近く生まれる子もいます」
「うん」
「エルフに近く生まれる子も」
「うん」
「ユウ君みたいに」
「中間?」
「そうです」
「耳は?」
森野。
「そこ?」
「気になる」
「いろいろです」
「長い?」
「長い子も」
「丸い子も?」
「います」
「ちょっと長い子も?」
「います」
相沢。
「かわいいな」
森野。
「まだいません!」
「想像」
「早いです」
相沢。
「森野さん」
「何ですか」
「顔赤い」
「カレーが辛いんです」
相沢。
食べる。
「甘口だけど」
森野。
「私には辛いんです」
ぴく。
「耳」
「カレー食べてください!」
食後。
コーヒー。
二人。
ソファ。
森野は。
少し真面目になる。
「相沢さん」
「うん」
「子供」
「うん」
「欲しいんですか?」
今度は。
相沢が止まる。
「……」
森野。
「何ですか」
「急に直球」
「さっき普通に聞けって」
「そうだけど」
相沢は。
考える。
「分からない」
森野。
「分からない?」
「うん」
「欲しくない?」
「そうじゃなくて」
「はい」
「まだ」
森野を見る。
「森野さんと付き合って」
「……」
「そんなに長くないでしょ」
「はい」
「だから」
「うん」
「結婚も」
森野の耳。
ぴく。
「子供も」
ぴく。
「百年後も」
ぴく。
「全部まとめて決めるのは」
森野。
「……」
「早いと思う」
耳。
静かになる。
「でも」
相沢が続ける。
「森野さんとの子供が」
「うん」
「絶対嫌かって聞かれたら」
「……」
「全然嫌じゃない」
森野。
コーヒーを見る。
「そうですか」
「森野さんは?」
「分かりません」
耳。
動かない。
「本当に?」
「はい」
「考えたことは?」
「あります」
「いつ?」
「最近」
「藤堂君見て?」
「それもあります」
森野は。
カップを両手で持つ。
「昔は」
「うん」
「考えませんでした」
「どうして?」
「人間とは」
少し間。
「長く一緒にいられないと思っていたから」
相沢。
「……」
「だから」
「うん」
「子供なんて」
「うん」
「最初から」
「考えないようにしていました」
相沢は。
何も言わない。
森野。
「でも」
「うん」
「アリアと修一さん」
「うん」
「ユウ君」
「うん」
「ミナちゃんの家族」
「うん」
「見てたら」
少し笑う。
「考えてもいいのかなって」
相沢。
「うん」
「今すぐじゃありません」
「分かってる」
「本当に」
「うん」
「今すぐじゃありませんからね」
「分かってるって」
「あと」
「何?」
「私」
少し迷う。
「子育て」
「うん」
「長くできます」
相沢。
「そこは強い」
「百年くらい」
「長すぎる」
森野。
笑う。
「冗談です」
相沢。
「でもさ」
「何ですか」
「もし子供がエルフで」
「はい」
「俺が人間なら」
森野。
表情が変わる。
「うん」
「その子も」
「……」
「俺より長く生きる可能性あるんだよね」
森野。
「あります」
「そっか」
少し。
沈黙。
森野が。
相沢の手に。
自分の手を重ねる。
「そこまで」
「うん」
「今考えなくてもいいです」
相沢。
「森野さんが言う?」
「何ですか」
「百年先まで考える人が」
「最近」
森野は笑う。
「三十一歳の人に」
「うん」
「教育されています」
「いい教育?」
「雑です」
翌朝。
会社。
午前九時。
田中美咲。
森野を見る。
「森野さん」
「何ですか」
「昨日」
「はい」
「何かありました?」
森野。
停止。
「何もありません」
ぴく。
田中。
「耳」
「何もありません!」
月島セシル。
「何の話?」
田中。
「なんか今日」
森野を見る。
「妙に相沢さんを意識してる」
森野。
「してません」
ぴく。
相沢。
パソコンを見る。
田中。
「相沢さん」
「仕事中」
「何があったんです?」
「カレー食べた」
森野。
「それだけです!」
ぴく。
田中。
「カレー以外ある」
「ありません!」
午前十一時。
高橋から。
研究関連のメール。
森野。
開く。
藤堂修一。
百二十五歳。
人間。
エルフとの血縁。
確認できず。
しかし。
老化関連指標の一部が。
一般的な人間より。
エルフ側に近い。
追加調査。
家族歴。
生活歴。
過去の医療記録。
森野。
「修一さん」
相沢。
「何か分かった?」
「まだ」
藤堂ユウも。
画面を見る。
「父」
「はい」
「昔から長生きの家系ではあります」
森野。
「そうなの?」
「祖父が九十八」
「長いですね」
「曾祖母が百四」
月島。
「かなり」
藤堂。
「でも百二十五はいません」
森野。
「アリアと暮らしていたことは」
「はい」
「関係ないですよね」
月島。
「どういう意味?」
森野。
「エルフと長く一緒にいると」
「はい」
「何か影響するとか」
相沢。
「一緒にいるだけで寿命伸びる?」
森野。
「そんなこと」
止まる。
全員。
少し考える。
月島。
「分かりませんね」
森野。
「ですよね」
藤堂。
「でも」
「何?」
「父と母」
「はい」
「百年以上一緒にいます」
森野。
「そうですね」
藤堂。
「生活も」
「はい」
「食事も」
「はい」
「ずっと一緒」
森野。
「……」
その日の午後。
高橋へ。
情報共有。
高橋。
興味を示す。
ただし。
『それだけで因果関係は言えません』
森野。
「もちろんです」
『ですが』
「はい」
『一つ』
「何ですか?」
『確認したいことがあります』
「はい」
『藤堂修一さん以外に』
「……」
『エルフと非常に長期間生活した人間は』
『いますか?』
森野。
考える。
アリアと修一。
百年以上。
他には。
エルフ社会では。
人間との交際自体。
長く避けられてきた。
だが。
「探してみます」
その夜。
エルフのネットワーク。
問い合わせ。
『人間と長期間生活した例』
返答。
少ない。
二十年。
三十年。
四十年。
亡くなった例も。
多い。
そして。
一件。
エリアス・リンデン。
八百十二歳。
返信。
『います』
森野。
すぐ電話。
「誰ですか?」
エリアス。
『昔の伴侶です』
「人間?」
『はい』
「何年一緒に?」
『六十四年』
森野。
「何歳まで生きました?」
少し。
沈黙。
エリアス。
『百十八歳です』
森野。
止まる。
「百十八?」
『はい』
「長寿の家系?」
『いいえ』
「ご家族は?」
『両親は七十代で亡くなりました』
森野。
「……」
『森野さん』
「はい」
エリアスの声。
少し低くなる。
『何を調べているのです?』
森野。
「もしかすると」
自分でも。
まだ。
信じていない。
「エルフと長く暮らした人間は」
「……」
「普通より」
「長く生きることがあるのかもしれません」
電話の向こう。
沈黙。
翌日。
高橋へ報告。
高橋は。
慎重だった。
「二例では」
「はい」
「何も言えません」
森野。
「分かっています」
「偶然の可能性も高い」
「はい」
「生活習慣」
「はい」
「社会環境」
「はい」
「選択バイアス」
「はい」
「全部考えなければいけません」
「はい」
高橋。
しかし。
資料に。
新しい項目を書く。
『長期共同生活者への影響』
森野は。
その文字を見る。
相沢も。
見る。
帰り道。
相沢。
「森野さん」
「何ですか」
「もし」
「はい」
「本当に」
「はい」
「エルフと一緒にいると」
「……」
「人間が長生きするなら」
森野。
「まだ分かりません」
「分かってる」
「二例です」
「うん」
「科学的には何も」
「分かってるって」
相沢。
少し笑う。
「じゃあ俺」
「はい」
「百五十までいける?」
森野。
「……」
耳。
ぴく。
「期待しないでください」
「百二十五は?」
「知りません」
「百歳」
「健康管理してください」
「森野さんと一緒にいるだけじゃ駄目?」
「駄目です」
「厳しい」
森野。
少し歩く。
そして。
小さく。
「でも」
相沢。
「何?」
森野は。
前を向いたまま。
「少しだけ」
「……」
「期待してもいいなら」
耳。
赤くなる。
「嬉しいです」
相沢は。
森野の手を握る。
「じゃあ」
「何ですか」
「長期共同生活」
「……」
「始める?」
森野。
停止。
「何ですか、それ」
「研究」
「違いますよね?」
「長期共同生活のデータを」
「相沢さん」
「はい」
「つまり?」
相沢。
少し笑う。
「一緒に住む?」
森野の耳。
一気に。
真っ赤になった。
コメント
1件
うわぁ〜〜〜〜第46話、めちゃくちゃ良かったです!!😭💕💕 カレー食べながら子供の話とか、もう完全に夫婦じゃないですか!?相沢くんの「一緒に住む?」の直球に森野さんの耳が一気に真っ赤になるシーン、想像しただけで胸がきゅんきゅんする〜〜〜!!🫣💗 それに、エルフと人間の寿命の話が本格的になってきて、科学的な調査も始まって…これからの展開がますます気になります!!「長期共同生活」って言い訳しながらの同棲申し込みにニヤニヤが止まらなかったです!次回も全力で楽しみにしてます!!🔥🔥🔥