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(な、なんで今こんな時に…)
必死に頭を振って思考を追い払おうとするが、一度意識してしまったらもう手遅れだった。
脳裏に焼き付いた映像は、消えるどころか
さらに鮮明さを増していく。
喉の奥がひどく渇き、心臓が不規則なリズムで高鳴り始めた。
(声がいいだけだ、大体俺は女が好きなんだ、あ、あんなやつ一夜の過ちだしな……!)
何度も何度も、呪文のように自分に言い聞かせた。
理性ではそう理解しているのに、体は正直だった。
股の奥が、じんわりと熱を帯び、言いようのない疼きを感じているのがわかる。
それは、昨夜の行為が、単なる「過ち」では片付けられないほど
深く俺の肉体に刻み込まれてしまった証拠のようだった。
「悟くん……?どうかした?」
俺の異変に気づいたのか
目の前の女の子が小首を傾げて不思議そうな顔でこちらを見つめてきた。
その純粋な視線が、さらに俺の罪悪感を刺激する。
「いやっ!なんでもないよ!」
咄嗟に、顔に張り付いた熱を隠すように笑顔を貼り付けて誤魔化した。
声が少し上ずったのは、きっと彼女には気づかれていないはずだ。
「そう?ならいいんだけど。あっねえ今日合コンあるんだけどもちろん悟くんも来るでしょ?」
彼女の無邪気な誘いに、俺は救われたような気持ちになった。
これだ。
この状況から逃れるには、女と戯れるしかない。
「あぁうん!行こっかな」
(とりま女の子とヤって忘れよ…)
そうして、俺は半ば自暴自棄な気持ちで合コンへ向かったものの
頭の中には、あの男、田丸清志のことが、まるでしつこい残像のようにチラついて離れなかった。
いくら意識的に排除しようとしても
彼の声、彼の表情、彼の指先が触れた感触が
まるで皮膚の下に潜り込んだ棘のように、俺の神経を刺激し続ける。
指定された店に着くと、すでに賑やかな声が漏れ聞こえていた。
扉を開けると、華やかな香りと、男女の楽しそうな笑い声が俺を包み込む。
「あっ、悟くん待ってたよ~!!」
「久しぶりー!」
見慣れた顔ぶれが、笑顔で俺を迎えてくれる。
その明るい雰囲気に、少しだけ心の重荷が軽くなったような気がした。
「おお~みんな元気そうだね~」
俺も努めて明るい声で挨拶を返しつつ、周りのメンバーを確認する。
女子は3人、俺を含め男子は2人。
(あれ?もう一人、男側いないけど遅れてんの
か?)
まあ、男なんか気にすることないか
いつものように適当に話して、適に女の子を落としていれば、あっという間に時間は過ぎ
ちゃちゃっとお持ち帰りコースだろう。
そう高を括っていた。
「もうひとり、男側いないけど遅れてんの?」
昼に合コンに誘ってくれた、女子のリーダー格とも言えるリサちゃんに尋ねると
彼女はにこやかに答えた。
「そうみたい、もうそろ来ると思うんだけど〜…って、きたきた!キヨくんこっち〜!」
そう言って、リサちゃんが店の入り口の方へ向かって大きく手を振る。
(は?キヨ…?)
その視線の先に目を向けた俺の目に飛び込んできたのは、言じられない光景だった。
そこに立っていたのは、まさしく
俺を昨夜、抱いた男、田丸清志
あの男だったのだ。
「うげっ……!」
思わず、喉の奥から情けない声が漏れ出た。
その声は、俺自身の耳にもはっきりと届くほどだった。
「ちょ、悟ってば人の顔見てうげはないやろー、う
げは」
俺の動揺を嘲笑うかのように、田丸はいつもの飄々とした
それでいてどこか人を食ったようなテンションで俺に接してくる。
そのあまりにも自然な態度に、俺はさらに動揺を隠しきれなかった。
心臓がドクドクと不規則に脈打ち、全身の血の気が引いていくような感覚に襲われる。
(いやいやいやおかしいだろ。なんでこいつがいるんだよ!?こんな偶然、ありえるわけないだろ!)
頭の中はパニック状態だった。
昨夜の出来事が、まるで悪夢のように現実と混ざり合い、俺の思考を掻き乱す。
そんな動揺を隠しきれない俺の様子に、女子たちが興味津々といった表情で話しかけてきた。
「えっなになに?!悟くんと友達?めっちゃイケメンじゃ〜ん!知り合いなら教えてくれれば良かったのに〜!」
リサちゃんの弾んだ声が、俺の耳には遠く聞こえ
る。
どう説明すればいい?「友達」?「知り合い」?
いや、こいつと友達と思われるのも嫌だな
「へ?えっと……お隣さんでさ…奇遇だよね!あはは…」
乾いた笑いが喉から漏れる。
その場しのぎの嘘が、いかに説得力がないか自分でもよく分かっていた。
そんな俺の苦し紛れの弁解をよそに、田丸はまるで自分の家のように堂々と俺の横に腰を下ろした。
そして、悪戯っぽい笑みを浮かべ
俺の耳元に囁くように、しかし周囲にもはっきりと
聞こえる声量で
「何言ってんねん、俺ら昨日抱き合った仲やろ?」
なんてとんでもない言葉を放った。
その言葉は、まるで爆弾が炸裂したかのようにその場の空気を一変させた。
俺の全身の毛穴が開き、背筋に冷たい汗が伝う。
「ちょっ!は!?何言ってんだよ!!?」
俺は必死に声を荒げたが、もう遅かった。