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Doors好きな主
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その建物には2基のエレベーターが並んで設置されており、そのうちのどちらかで昔、自殺があったという噂がある。
「近いから行ってみましょうよ!」
夜の部室で酒を飲みながら、そんな話を軽率に口にしたのが間違いだった。
夏の夜、肝試しにはうってつけだと、後輩達が盛り上がったのも無理はない。
「行かねーし、やめとけ」
私は即座に断った。
以前、肝試しで痛い目を見ているし、面白半分でそういう場所へ行くこと自体、もう懲りていたからだ。
後輩達も私が肝試しに否定的なのは知っていたので、それ以上しつこく誘ってはこなかった。
「じゃあ、俺達だけで行ってきますね!」
そう言い残し、意気揚々と部室を出ていった。
その建物は立ち入り禁止の廃墟などではなく、学生なら普通に出入りできる場所で、少なくとも不法侵入になるような場所ではない。
心配ではあったが、私は追いかけることもせず、部室で酒を飲みながら帰りを待つことにした。
1時間ほど経った頃、部室のドアが開き、後輩達が戻ってきたのだが、出ていった時の勢いはどこへ消えたのか、全員が俯き、誰一人として口を開こうとせず佇んでいる。
「どうした? 何かあったのか?」
しばらくして、そのうちの1人が絞り出すように答える。
「……怖い体験をしました」
「とりあえずみんな入ってきて座れよ。落ち着いてからでいいから、ゆっくり話せ」
私の声に少し安心したのか、後輩達はようやく顔を上げ、部室の中へ入ってきた。
それぞれ空いている椅子へ腰を下ろしたものの、妙に距離が近い。
まるで、互いに身を寄せることで、さっきまでの恐怖をどうにか薄めようとしているようだった。
「行く途中で、坂本先輩に会ったんです」
もう、それだけで嫌な予感しかしなかった。
私はもともとオカルト好きで、これまでにも妙な体験を重ねてきたから、多少なりとも免疫がある。
けれど後輩達は、「夏だし肝試しでもしよう」という程度の、無邪気な気分で出ていった普通の学生だ。坂本が案内する心霊体験に耐えられるとは、とても思えない。
「噂のことと、今からそこへ行くって話したら、坂本先輩が少し考え込んで、『俺も行く』って言い出したんです」
「視世先輩から『坂本の霊感はヤバすぎる』って聞いてたから、せっかくだし一緒に来てもらおうってなって……」
嫌な予感がますます強くなる。
坂本を加えた一行は、そのまま建物へ向かい、問題のエレベーターの前まで辿り着いたという。
そこには、噂どおり2基のエレベーターが並んでいた。
「で、どっちなんだろうな?」
いざ目の前まで来て、どちらで自殺があったのかという話になりかけたらしい。
私自身、小耳に挟んだ程度の噂だったので、どちらかまでは知らなかった。
だが、彼らの議論が始まることはなかったという。
「こっちだよ」
坂本が、迷いもせず片方を指さしたからだ。
後輩達が最初に感じた恐怖は、自殺の噂に対するものではなかった。
何ひとつ確認することなく、当然のように片方を選んだ坂本そのものが、急に不気味に見えたという。
「ちょっ、待ってくださいよ!」
制止する声に構わず、乗降ボタンを押す坂本。
エレベーターは1階に止まっていたようで、待つことなくすぐさま扉が開いたという。
暗いエレベーターホールに、内部からの白い光が漏れ出す。
もちろん、中には誰もいない。
「……何もないですね」
時刻はすでに日付をまたいでいた。
そんな時間に誰かが無言で乗っていたら、それはそれで幽霊とは別の怖さがある。
後輩達は、空っぽのエレベーターを見て安心したらしい。
ところが坂本は、中を覗き込みながら平然と言った。
「乗ればわかるよ。誰か1人でな」
空気が固まった。
「行き先は押さなくていい。俺が外から扉を開けるまで、ドアに背を向けて黙って立ってろ」
誰が乗るかで揉めた末、じゃんけんに負けた女の子が1人で入ることになった。彼女は坂本に言われたとおり、扉へ背を向け、中央でじっと立っていたという。
やがて、扉が閉じた。
そのまま数分が過ぎた頃――
「キャアアァァァァ!」
閉じた扉の向こうから、突然、絶叫が響いた。
「何だ!?」
「どうした!?」
後輩達が一斉に取り乱す中、慌てる様子もなく乗降ボタンへ手を伸ばす坂本。
ゆっくり開いた扉の向こうから、女の子が泣きながら転がるように飛び出してきた。
「視世がお前らの肝試しを止めた理由がわかっただろ。これに懲りたら、さっさと帰れ」
坂本は泣き崩れる彼女を取り囲む後輩達へそう告げると、追い払うように手を振った。
「後の調査は、俺1人でやっとくから」
つい先ほど悲鳴が響いたエレベーターを前にしても、まるで動じていない。
その姿が恐ろしく、後輩達は坂本を残して部室へ逃げ帰ってきたのだという。
話を聞き終えた私は、1つだけ尋ねた。
「エレベーターの中で、何があった?」
1人で乗せられた女の子がびくりと肩を揺らし、自分の身体を抱くように腕を回す。
「何もしてないのに……いきなり電気が消えました」
そんなことだろうと思い、思わずため息をつく。
「お前達、坂本に揶揄われたな」
「は?」
「揶揄われた?」
「ああ。機種によるけど、エレベーターって、使われてない時に節電のために照明が落ちるものがあるんだよ」
「えっ……じゃあ」
「坂本に言われたとおり、何も押さずに中でじっとしてたから消えたんだろ」
後輩達の顔に、恐怖とは違う感情が浮かぶ。
「やられた……」
「あいつは霊感のことで散々苦労してきてるからな。面白半分で肝試しに行ったお前達への、戒めのつもりだったんじゃないか」
少し強めに言うと、全員がばつの悪そうな顔で俯いた。
その後は何となく気まずい空気になり、その日はそこで解散となる。
部室に泊まるつもりだった私は後輩達を見送り、全員の姿が見えなくなったところで携帯を取り出した。
履歴に残っている番号を選び、発信する。
「終わったぞ。みんな帰った」