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誰も知らない、高嶺の花の裏側2
第9話 〚静かな計画 〛(恒一)
足音を立てずに。
気配を消して。
「……澪」
声には出さず、
名前だけを胸の奥でなぞる。
恒一は、
そのまま図書室の席に腰を下ろした。
誰から見ても、
ただ本を読んでいるだけ。
ページをめくる指は、落ち着いている。
表情も、いつも通り。
――けれど。
(……どうやって)
文字を追いながら、
頭の中では別のことを考えていた。
どうすれば、
澪を俺のものにできる?
力づくは違う。
今は、まだ。
澪は、警戒心が強い。
一度距離を置かれたら、もう近づけない。
(だから……遠回り、か)
視線を落とした先の小説に、
ふと、ある名前が目に入った。
――「りあ」。
主人公の友人として登場する少女。
明るくて、
イケメンにすぐ惹かれて、
感情で動くタイプ。
(……りあ)
恒一の脳内で、
何かが静かに噛み合った。
澪の周りにいる女子。
表と裏が激しい。
承認欲求が強い。
(使える)
そう思った瞬間、
胸の奥が、すっと冷えた。
罪悪感はない。
必要な手段だ。
ページを閉じ、
本を元の場所に戻す。
音を立てないように、
丁寧に。
(決まりだ)
恒一は、
図書室を出た。
向かう先は、
ひとつしかない。
――姫野りあ。
◇
放課後。
恒一は、
偶然を装って、りあに声をかけた。
「姫野さん」
振り向いたりあは、
一瞬で目を見開く。
マスクを外した恒一の顔を見て、
分かりやすく、頬が赤くなった。
「……え? なに?」
「少し、話したいことがあって」
声は低く、落ち着いている。
「近くのカフェ、行かない?」
りあは一瞬だけ戸惑ったあと、
すぐに笑顔を作った。
「いいよ〜!」
◇
カフェの中。
甘い匂いと、
小さな話し声。
恒一は、
聞き役に徹した。
りあが話す。
自分のこと。
クラスのこと。
澪のこと。
「白雪さんってさ〜」
少しだけ、声を落とす。
「静かなくせに、目立つよね」
恒一は、
否定も肯定もしない。
ただ、
「そうなんだ」と、相槌を打つ。
りあは、
それだけで饒舌になった。
(……思った通り)
単純で、
扱いやすい。
恒一は、
カップを置きながら、ぽつりと言った。
「橘、白雪さんと仲いいよね」
その一言で、
りあの表情が、わずかに歪む。
――引っかかった。
恒一は、
内心で、静かに笑った。
(これでいい)
利用するだけだ。
りあも、
自分が使われているなんて、気づかない。
澪に近づくための、
ただの“道具”。
恒一は、
甘いコーヒーを一口飲みながら、思った。
(もう、逃がさない)
見えないところで、
歯車は、確実に回り始めていた。