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誰も知らない、高嶺の花の裏側2
第10話 〚共犯の成立〛
見えないところで、
歯車は、確実に回り始めていた。
◇
カフェを出たあと。
夕方の空気は、まだ少し暖かい。
恒一は歩きながら、
りあの横顔を盗み見た。
――もう、十分だ。
「さっきの話だけど」
恒一が、何気ない口調で言う。
「橘って、人気あるよね」
「……あるに決まってるじゃん」
りあは即答した。
少し誇らしげに。
「顔も良いし、運動もできるし。
クラスの中心って感じ」
恒一は、そこで足を止めた。
「もしさ」
声を落とす。
「姫野さんが、橘と付き合ったらどうなると思う?」
りあは、一瞬きょとんとしたあと、
想像するように視線を宙に泳がせた。
(……もし、私が)
頭の中に浮かぶ光景。
橘海翔の隣。
みんなに注目されて。
女子の視線は、羨望。
(私、一軍じゃん)
いや、一軍どころじゃない。
勝ち組。
「……やば」
思わず、声が漏れた。
「それ、人生変わるじゃん」
恒一は、微かに口角を上げた。
「だよね」
りあは、胸が高鳴るのを感じていた。
澪の顔が、ふと浮かぶ。
静かで、近寄りがたくて、
それなのに――全部持っていく。
(なんで、あの子なの)
悔しさが、胸の奥で燃える。
「白雪さんさ」
りあは、無意識に言っていた。
「橘と隣になってから、調子乗ってるよね」
恒一は、何も言わない。
ただ、肯定もしない。
「……私が橘と付き合った方が、絶対しっくり来る」
その言葉を待っていた。
「だったら」
恒一は、静かに言う。
「俺が、手伝うよ」
りあは、目を見開いた。
「え?」
「橘と、自然に距離が縮まるようにする」
「白雪さんから、少しずつ引き離す」
言葉は冷静。
感情は、見せない。
「姫野さんは、普通に近づけばいい」
「橘は優しいから、拒まない」
りあの心臓が、どくんと鳴った。
(……それって)
「私と、組むってこと?」
「そう」
恒一は、はっきり言った。
「お互い、得でしょ」
りあは、一瞬だけ迷った。
でも、その迷いはすぐに消えた。
澪の静かな横顔。
自分を見下ろしている気がする視線。
(奪われる前に、奪う)
「……いいよ」
りあは、笑った。
「協力しよ」
その笑顔は、甘くて、
どこか歪んでいた。
恒一は、内心で息を整える。
(これでいい)
海翔を、澪から切り離す。
りあを前に出す。
そして――
澪を、孤立させる。
誰も気づかないまま。
夕暮れの中、
二人の影が、並んで伸びていた。
それは、
“共犯”の影だった。