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「孝介《あいつ》が今日ここまで計画してたことは知らなかった。東京から出て、普通に働いてるって調査結果だったから、興信所の調査もやめた。俺、一応、社長だし、しばらくメディアとかで騒がれて大変かもしれないけど、時間が経てば騒ぎも収まるだろ。落ち着いて、そしたら――。いや、何でもない」
「なに、そしたらって?気になる」
途中まで言われて、その続きが気になるのは自然だよね。
「あー。しばらく美月のこと抱けないのだけが寂しいな。早く傷、治らないかな」
彼の考えていること、予測不能で全然わからない。
だけど……。
「迅くん、生きていてくれてありがとう」
心からそう思っていることを伝えた。
「美月、今のヤバい。キスだけしよ?」
「あっ!ねぇ!!安静じゃないのっ?」
腕を引っ張られ、ベッドに押し倒されて、容赦ないキスで責められる。
「んっ!!ん……」
こんなことされたら、キス以上のことをしたくなるのに。
そんなことを思っちゃうなんて……。
私はまだ、彼から飲まされた《《Love Potion》》の効果が身体のどこかに残ってるのかな。
その後の生活は、迅くんが言った通り、大変な騒ぎとなった。
《《あの》》九条グループ社長の息子が怨恨による犯行で、他企業社長を刺したというニュースは、面白おかしくメディアで取り上げられた。
社員からの告発で、孝介が私的に会社のお金を横領していたことも世の中に知られる形になってしまったし、どこで情報が洩れたのか不倫をしていたことも報道された。
孝介の父である九条社長は責任を取って退任。
今は河野さんって人が社長になったと聞いた。
もちろん、私にも何人もの記者が取材に応じてほしいと依頼が来たけれど、全て断っている。
迅くんのアパートに住んでいることがバレたらまた面倒なことになるため、彼の配慮でホテルを転々としながら生活をしている。
毎日迅くんとは電話をしているが、彼とも会えていない。
そんな生活がしばらく続いた、一カ月後――。
「迅くん!」
久しぶりにアパートで彼と会えることになった。
「会いたかった」
彼に抱きしめられる。
どうしてこんなに落ち着くんだろう。
「ごめん。大変だったな」
「ううん。迅くんの方が大変だったでしょ?もう傷、痛くない?」
「あぁ。大丈夫。明日、美月と一緒に行きたいところがあるんだ」
明日?どこだろう。
「うん。どこ?」
「秘密」
彼が秘密って言う時は、何かを考えている時だけど。
何をするんだろう。
次の日の夜、迅くんに連れてきてもらった場所は――。
「ここって……。小さい頃、迅くんと初めて会った公園!」
車から降り、誰もいない公園を二人で歩く。
遊具は随分と変わってしまい、迅くんと一緒に会話をしたあのトンネルもなかった。
「懐かしいな。小さい頃の迅くんと過ごした記憶がなくなってたこと、本当に後悔してる」
この公園で出会って、二人で遊びながら過ごして、成長して……。
あのまま彼とずっと一緒に過ごしていたらどうなっていたんだろう。
私の初恋の人は迅くんだったし、迅くんもあの時の私のことを好きだと言ってくれた。
大人になってもその関係は続いていたんだろうか。
もし彼の近くにあのまま居ることができたら、少しでも彼を助けてあげられたかもしれない。
「美月が悪いわけじゃない。後悔なんてしなくていい。今、こうやって一緒に居られることが大切だろ?」
彼が手を繋いでくれた。
<今一緒に居られることが幸せ>
過去には戻れない。
けれど、前向きな彼の考え方に救われる。
「そうだね」
空を見上げると星が見えた。
「昔、よくここで星を見てた。流れ星なんて滅多に見ることができなかったけど。俺が引っ越すことになって、この場所から離れる最後の日も、また美月に会えますようにって願ってた」
そんなことを想ってくれてたんだ。
彼も空を眺めている。その横顔はとても優しくて綺麗だった。
「俺の願い、叶ったよ。美月と再び出逢うことができて、初めて逢ったこの場所にまた二人で来ることができた」
真っすぐで素直な彼の言葉がとても嬉しい。
「美月、これからは俺とずっと一緒に居てくれる?」
もちろん、私の答えは――。
「うん!ずっと一緒だよ。もう迅くんから離れない」
この前、孝介の事件の時――。
彼が居なくなってしまうかもしれないと思った時、大袈裟かもしれないけれど、彼が居なかったらもう生きていく意味なんてないとそう思ってしまった。
失うのがすごく怖かった。
彼は私の返事を聞き、フッと笑った。
そして――。
「結婚しよう」
そう言ってくれた。
「はい」
私の答えは迷いもなく一つしかなかった。
…・――――…・―――
「プロポーズ、成功して良かったですね」
取引先へと移動中の車の中、亜蘭は運転しながらも俺の話を聞いてくれた。
「それにしても九条孝介に刺された時、あんな芝居までして<結婚でも何でもするから>って美月さんの気持ちを確かめるようなことまでして……。本当に性格歪んでますね?」
最近、亜蘭が毒舌になってきたような気がする。
彼の言葉に何も返事ができなかった。
「幸せになってくださいね?美月さんをあまり泣かせてはダメですよ」
「母親みたいなこと言うんだな」
相棒であり、家族のような存在の亜蘭に幸せになってくださいと言われ、正直ホッとした。
なんだかんだでいつも迷惑かけているし、仕事もプライベートも。
九条孝介から襲われた時、偶然にも亜蘭が近くに居てくれて助かった。
警察や救急への通報、その後の処理の早さに<俺が社長じゃなくてもいい>そんなことまで感じてしまった。
「あぁ。俺も美月さんのような可愛いお嫁さんが欲しいなー」
「美月は絶対に渡さないから」
亜蘭の言葉に過剰に反応してしまう。
「本当に加賀宮さんって、仕事以外は子どもみたいですね」
彼がそう言って笑った。
…・――――…・―――