テラーノベル
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それから、何度も湊の名刺を頼りに、彼女の会社へと向かった。
「あー、今日も彼女来てませんよ」
出てきた眼鏡のイケメンがそう言った。
「……そうか、じゃあ、会社に戻るかな」
なぜか、嘘ではないと思い、そう言った。
「効率悪いなぁ。アナログですか? 」
「……いくつだと思ってんだよ」
彼と肩を並べて歩く。すっかり顔馴染みだ。
「次は、いつ来るか聞かないんですか? 俺に」
「教えてくれるのか」
「まさか! 」
「はは! そうか」
「その余裕が腹立ちますよね」
「そうかなぁ」
「いつまで続けるんですか、ストーカー。もう、一人いなくなったと思ったらまた次のストーカーだもんなぁ」
「君が、ストーカー退治してくれるからね」
「出来てないでしょ、退治」
「君は? 」
「何ですか」
「ストーカーしないの? 」
「会社で見れますから」
「もう、見れなくなる」
「いいんですよ、俺、若いから」
「確かにね。俺が君くらいの時は……あんないい女、いなかったかな」
「あなたの歳までには、見つけますよ。もっと……いい女」
「あと、5-6年でか」
「……嘘だろ!? 平成生まれかよ!? 」
……もう、何だ。この既視感。
「君、フォロワー多そうだね」
「あー、まぁ。この見た目もなんで。ていうか、そんなん知ってるんだ」
……今時、年寄りでもしてるだろ。
「明日も、来ませんからね、彼女」
「そうか、残念」
「……俺は未来の……可能性にかけるんで……」
「……その、つもりだ」
「ま、味見だけは……させてもらいましたけどね」
「……き」
味見!?何だよ!?
何を……
「ふっ、その顔が見たかった。ああ、ムカつく」
そう言って少し満足そうに去る。
明日も来ないのか。なかなか会えないもんだな……。
うーん……生意気だな。最近の若い男は。
俺にあれだけ言えるなら……うちに欲しい人材だな。などと考えてハッとする。……味見って何だよ。
商談ルームがノックされる。
「お世話になります」
「ああ、今日は君か」
「ええ。宜しくお願いします」
「順調?」
ちょっとした雑談をする。
「お陰様で。薔薇色ですわ」
にっこり笑ってそう言った。随分と、柔らかくなったものだな。
「ぶっ、ちょっと言うね。俺に」
「もう、とっくに前向いてるでしょ? 」
目の前の麗佳が綺麗な笑顔でそう言った。
「えっと……仕事の前に伝えろと言われているので……」
「誰から」
「私の、恋人から」
「はいはい。何? 」
「……恋人からと言うより……そうね……」
「早く言えよ」
「眼鏡のイケメンさんから」
「……」
「金曜が最終日。定時は17時半」
参ったな……随分な……伝言ゲームだ。
「……ああ。確かに、聞いた」
「綺麗な人ね、彼女」
「君と、同じくらいね」
「でも……私より……でしょ? 」
「君たちは……」
「言ったでしょ? 誰か探しましょうかって」
「ふっ、本当だ」
「私、結果主義なの」
「はは! 俺もだ」
「報告、待ってるわ」
「ああ、仕事は早い方だ」
明後日……明後日だ。
協力してもらうのも、悪くないな。
準備は出来ていた。
後は……。
昨日のうちに、打ち出しておいた。今日は、定時に帰ると。定時に会社を飛び出す。
5分とかかりはしないがあの日、走って去った吉良君を思い出す。
まさか、俺も走るなんてね。息を整えて待つと俺の待ち人が出てきた。
「やぁ、また会えたね」
少し明るく、短くした髪。以前は見えなかった首と肩のラインが春らしく覗く。相変わらず、綺麗で、自分の鼓動に再確認する。彼女に……惚れていると。俺に気づくと、目を見開き、踵を返そうとする彼女の腕を掴んだ。強く。でも……傷つかないように。
「見せたい物がある。悪い、付き合って」
もっとマシな言い回しが出来ないものか。
「私は……」
「うん」
分かってる。もう、会いたくなかっただろう事は。だけど……俺の家に向かった。
ゆっくり話がしたかった。ドアの前で、彼女の目に迷いの色。
それは、そうか。
「入って」
動かない彼女に言った。
「何も、しない。離れておく。ドアの鍵も開けておく」
彼女は、戸惑いながらも足を踏み入れた。
「何か色々言い訳するより、これが早いかなと思って」
そう言って手渡す。その書類に目を通し、何度も同じところに目を走らせる。彼女が、目を見開き
こちらを向いた。
「嘘……でしょ?」
「……本当だよ」
やっと、伝えられる。彼女に。それは、喜びのような、不安のような。だけど、その先に見る期待。彼女の、反応に期待をする。
……きっと……彼女も。
西原衣都
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コメント
1件
ああ、もう…この既視感、たまらないですね。眼鏡のイケメン君との軽妙なやりとり、それに最後のドアの前での彼女(Sさん)の迷いとか…「何も、しない。離れておく。ドアの鍵も開けておく」の台詞、グッときました。彼の真剣さと誠実さがにじみ出てて。前半の軽口から一転、真摯に書類を差し出す場面、すごく好きです。明日の展開が気になります!