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「竜馬さんっ!!竜馬さん」
彼を見た途端、ジェニは子供のように泣きじゃくった、安堵と感謝の気持ちがドっと溢れる・・・膝の力が抜け、その場で溺れそうだ、エレベーターの中の水位はジェニの胸まできていた
―竜馬さんが私を助けに来てくれた―
・.。. .。.:・
言いたいことがいくつも浮かんだが、言葉に出来なかった、その時ヌッとセキュリティの作業員が、脱出ハッチから顔を出した
「よぉ、お姉ちゃん!おっちゃんやったらアカンか?」
竜馬が笑った
「ダメですよ、その子は僕のものです」
「こんなかわいい子に、あんなこと叫ばせてなんて可哀そうな、社長!さっさとヤったらなアカンで」
「いや~ん、おっちゃん恥ずかしいわぁ~」
もう一人の警備員も照れて言った、そしてまた竜馬も愛想よく笑った
「そのつもりですよ、ジェニ!他にも君を助けに人が沢山いるから、言いたいことは後で二人っきりで聞くからな」
竜馬が天井から身を乗り出して腕を伸ばした、遠くで緊急のサイレンの音がする
「よしっ、手に掴まれるか?」
まだジェニはポロポロ涙を流しながら、バシャバシャ水をかき分け、竜馬の手を掴もうと腕を伸ばした、しかし腕に力が入らず中々上手につかめない・・・竜馬がジェニの手を握って、引き上げるのは断念した
ザワザワとエレベーターの天井が騒がしい
「つ・・・掴めないかも・・・」
泣きながら、なんとか冷静になろうとしたが、真っ暗闇で何時間も一人でいた孤独の恐怖から、まだジェニは抜け出せないでいた、彼は優しく言った
「大丈夫だプリンセス、僕がそっちに行くから泣くんじゃないぞ、ちょっと端っこによけていてくれ」
―私をまだプリンセスと呼んでくれるの?―
・.。. .。.:・
泣くなと言われても、あの暗闇の恐怖からはそう簡単には抜け出せない、ボロボロ涙がこぼれる、感情のコントロールが上手くいかない
彼は脱出ハッチにつかまってぶらさがり、狙いを定めてバシャンッとエレベーターの中に落ちた、グラリと揺れてジェニが悲鳴を上げる、バシャバシャ彼が水をかきわけ、ジェニを抱き上げた
うわーーーん「竜馬さん、竜馬さぁーーん!」
「つかまえたぞ、よく頑張ったな、偉いぞ」
彼はジェニのお尻を持ち上げて抱き上げてくれた、必死で彼の首にしがみ付き、ジェニは生きている喜びをかみしめた
―私は生きている、そして彼がここにいる―
ヒック・・・ヒック・・・「どっ・・・ど、どうしてここがわかったの?」
ジェニは震える体を彼の体温で温めようと彼にしがみ付いた、彼はジェニの背中を優しく撫でてくれた
「宗一郎がすぐに連絡をくれた、あいつは、今は金沢に出張中だからな」
ジェニはガチガチ鳴る歯の根をなんとか抑えて、彼を見つめた、寒いのか動揺して震えているのか、それすらもわからない
「警察と救急車には、まだ連絡がつかないんだ」
脱出ハッチの上から「大丈夫ですか」と大声が聞こえる、竜馬がジェニを抱いたまま合図する
「水位がかなり高くなってきている、ここから脱出するぞ!ここの地下は全部浸水している」
彼はジェニの頬にかかっている濡れた髪の毛を耳にかけて言った、彼の逞しい肩にしがみついているかぎり、何があっても大丈夫なような気がした
「それにしてもこの水・・・いったいどこから来ているの?」
「淀川の排水用の通路と、地下駐車場の間の壁が水圧で崩壊したようだ、まだこれからどんどん水位は上がってくるはずだ、こんなあちこちで災害が起きている時は、警察などはあてにならない、だからメビウスから救助隊を連れて来た、脱出ハッチのビスがさび付いて壊れていたんだ、ハンマーと電気のこぎりで、ハッチを壊すのに時間がかかったよ、ごめんな」
頭上で、トランシーバーで誰かひっきりなしで連絡し合っている声が聞こえる
「さぁ、ジェニ、僕が下から君を持ち上げるから、君は僕の肩の上に立って引き上げてもらえ」
竜馬は上を見上げて目を細めた
「ええっ?だめよ、私・・・重いもの」
ジェニの焦り様に彼は笑った
「僕は毎日60キロのバーベルをかち上げているんだぞ、だから大人しく僕の言うことを聞くんだ、わかったかい?」
本当はジェニは彼と離れたくなかった、彼にこうしていつまでもしがみついていられるなら、水浸しのエレベーターの中も悪くないと思い始めていた頃なのに・・・ジェニは仕方が無く頷いた
「こっちは準備が出来た!!今からそっちに彼女を渡すから、引き上げてくれっっ」
そう彼は叫ぶと、ぐいっとジェニの両ワキを持ち上げ、彼女を肩に担いで座らせた
「キャァ!」
一気に服にしみ込んだ水があふれ出す、服の重みがすごい
「よしっ!!ゆっくり僕の肩に乗って踏ん張れ、大丈夫、僕が支えているから」
彼の支持の元ジェニは何とか彼の肩の上に仁王立ちになり、脱出ハッチから手を伸ばしている、セキュリティの二人の腕を掴んだ
「よーーーし!いいぞ」
「そのまま上にひきあげろっっ!」
彼はジェニが倒れないように、大きな手をお尻にあてがって、二人のセキュリティにジェニが届くように軽々ぐいっと押し上げた、あまりの力強さにジェニは圧倒された
「り・・・竜馬さん、重くない?」
「小鳥のようだよジェニ」
こんな時にまで冗談が言える彼は本当に心強い存在だ、さすがセキュリティのおじさん達も力強く、二人が一斉にジェニの両ワキに腕を差し入れて引っ張り上げ、とうとうジェニは脱出ハッチの上に乗り上げられた
あっという間の脱出に、驚く暇もなかった、セキュリティのオジサンに「よく頑張ったな」と優しく声をかけてもらいまた涙が溢れたさらに脱出ハッチから1階のエレベーター入り口の救助隊の人たちに引き上げられ、エントランスホールによじ登れた時には心底ホッとして全身の力が抜けた
「ああっ!!神崎さん神崎さん!!」
得意先の和菓子店の広告担当の斎藤が泣きながら、救出されたジェニに駆け寄って来た
「なんてことっ!!ほんの三時間前にはあなたと楽しくおしゃべりしてたのに・・・ああ、やっぱり私も一緒に駐車場に行けばよかった!!ごめんなさいね、まさかこんなことになるなんて、家の玄関先で連絡を受けて、慌てて引き返してきたの」
斎藤は酷く取り乱してジェニの肩を掴んで言った
「わ・・・私は・・・大丈夫です」
何とか笑顔を作ってジェニは斎藤を安心させた、斎藤の他にもジェニを助けに来てくれた人達が、数人、警備会社の人達や急な知らせを聞いて駆けつけて来ていた、エレベータ技師など、そしてビルのオーナーは血相を変えてあちこちに電話していた
ジェニはそんな人達を無視して、ただひたすら両開きに目いっぱい開いたエレベータ入り口を見つめた
パイプ椅子に座らせられ、大きな温かい毛布にくるまれ・・・斎藤にもらった温かいペットボトルのお茶を一口飲んだ
そしてひょこっと入り口に足が見、サルの様によじ登って来た竜馬が見えた
ジェニと同じぐらいビショビショだ、エレベータからはい出たビジネススーツの彼は、逞しい体に布をぴったり張り付け、髪もグシャグシャだった
なのに彼はこの世でジェニが出会って来た、どの男性より素敵だった
スーパーヒーローに恋をする乙女の気持ちが理解できた、どんなに彼に感謝してもしきれない
彼は全身ボタボタ水を滴らせながらも、まっすぐこっちに向かって来た
「大丈夫か?」
ジェニは彼に飛びつくと、両腕を彼の首に回してすすり泣いた
彼の首筋に顔を埋め、彼のドクンドクンと動く力強い首の静脈の音を聞きながら
コメント
1件
第105話、読み終えました…!もう、ジェニが一人で暗闇に閉じ込められた恐怖がひしひしと伝わってきて、胸が締め付けられました。そこに颯爽と現れる竜馬さん、かっこよすぎます…!「プリンセス」って呼び続けるところとか、重いと言うジェニを「小鳥のようだ」って軽々持ち上げるところとか、もう完全にヒーローです。助けに来てくれた人たちの温かさも良かったですね。二人の絆がまた深まった、素敵なエピソードでした!