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皆さん、こんにちは。超巨大積乱雲・すーぱーせる。と申します!!
いやはや、続きを読んでくださるなんて、なんたる光栄!
長話は皆さんも飽き飽きしてくるでしょうし、ここいらで本編へ。
それと、この小説に史実は含まれておりません!とも言えないし、史実です!!とも言えない状態になってます。お許くださいませ…。
それでは____
『また世界大戦が起きるかもなぁ……』
公務もうわの空、執務室の机に頬杖をついて、お気に入りの羽ペンを握ったまま、外を眺める。
『………ッあ!!インクが!!』
ずっとペン先を紙に付けていて、じんわりと闇のように滲んだインクを見て叫ぶ。
……紙もインクも無駄になっちゃった。
濡れふきんで、汚れた手を拭きながら、ぼんやりとそんなことを考えた。
『はぁぁ……、お昼寝、したい…。』
ため息を一つ。何年か前の、心地よい春の日を思い出して、彼は少々ほおを膨らませた。
最近、世界情勢の雲行きが、だんだん怪しくなってきているのだ、仕方あるまい。
軍を拡大強化したり、国境付近の警戒を強めたり外交・政策に気を張ったり……。
やることが多い。まずは目先の仕事を片付けなければ。
『ドイツとの関係が少し…や、結構まずいかも………』
『新しい政権…ナチス政権か。あの政治方針は絶対おかしいよ……』
比較的、平和主義者なフランスは、ナチスのユダヤ人迫害や周辺国の侵害、おまけに独裁制という非人道的な行いを嫌っていた。
『はぁ……、お金もないし、今日もご飯抜きかなぁ……。』
また一つ、大きなため息をついて、机に突っ伏す。
集中なんて、とっくのとうに切れていた。
そんな時だった。
執務室のドアを勢い良く開け、入ってきたのは伝達兵だった。
なにやら酷く焦っている様子だ。
『大変です!!あのナチス・ドイツが、フランスに侵攻してきました!!』
『えッッ!?!?』
突然の報せに、頭が真っ白になって、思わず書類を取り落としてしまう。
『な、なんで…ッ、!国境防衛はしっかりしてたはず!!!』
『それが……、我々も全力を尽くしましたが…』
『へ…ッ?』
突然の銃声。
伝達兵が、目の前で頭を撃ち抜かれた。
ドサ…ッと、兵は崩れ落ち、床の、ラピスラズリ色の絨毯を真っ赤に染め上げる。
先ほどまで話していたはずの仲間が、無惨にも血を流し死体と化している。
冷たい鉄の匂いに、横隔膜が痙攣する。
『ひゅッ………』
ああ、まずい。
何がまずいかって?
だって、目の前に……
『 Hallo , mein Engel ♡ 』
今、自国が……、世界が、最も恐れている人物____ナチス・ドイツが、返り血まみれで佇んでいた。
元から真っ赤なかんばせにも、夕闇のような上質なクロークにも、べっとりと血しぶきが飛んでいる。
『な、ナチス、どいつ……ッ?』
『ははッ、覚えていただけていて光栄ですよ。』
にっこりと、整った顔を綻ばせるナチスに、フランスは怯えながら逃げる機会を伺う。
『……ああ、無駄な抵抗はよしてくださいね。貴方に何をしてしまうか分からないから……。』
顔に出ていたか、ナチスはフランスの心を見透かしたように発言する。
『や、やだなあ?冗談でしょ??』
笑顔のままじりじりと近付いてくるナチスから逃げようと、ゆっくりバレないように後ずさるフランス。
透き通った翠の瞳は怯えて揺れている。
『ははぁ…やはり貴方は美しい……♡♡』
『な、なにいって……ッ』
とん、と背中が格子のガラス窓に当たる。
服越しに、ガラスの温度が伝わってくる。刺さるような冷たさに、びくんっ、と少し跳ねた。
とん………。
『ひ……ッ!』
顔の横に、黒手袋を纏った大きな手が付かれる。
鮮血のように鋭い眼差しで見下ろされれば、怖くて怖くて固まってしまう。
目尻に涙が浮かぶ。身体が悲鳴をあげている。
『綺麗な瞳です…。貴方の瞳の中に、私だけを映すことができるようになるなんて、本当に夢のようですよ…♡♡』
『…今は、ゆっくりとお眠りください。』
口元を覆うように、布を押し付けられる。
抵抗するようにナチスの手首を掴むが、その程度で彼からの拘束が解かれることはない。
布から酷く甘い香りがして、すぐに頭がくらくらと酔っ払い、ぼーっとしてしまう。
『んん゛ッ!?ん゛ッ!ぅ゛、んん………』
徐々に身体に力が入らなくなってくる。
(くすり…睡眠薬の類か……、くそ、やられた……)
ナチスの手首を掴んでいた華奢な手が、脱力して、くたん、と重力に従った。
『………やっと手に入れた。私の、私だけの天使様…♡』
意識を失い、眠っている状態のフランスを愛おしそうに抱き締める。
ふわり、と優しくフランスを抱き上げると、意気揚々と執務室を後にするナチス。
可哀想に、もう彼はあの春の日のように、暖かな丘の上で、安らぎ、眠ることはできないのだろう。
フランスは、ナチスの腕の中で揺られ、すやすやと小さな寝息を立てていた。
美しき地上の天使は、悪魔に籠の中へと囚われてしまったのだ。
続く