コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
部活動対抗武術大会 ~前編~
ほぼすべての部活動が参加することになった部活動対抗武術大会、と言ってもただの銃撃戦だが。
部活動の中でも、部員の参加は自由のこの大会だが、参加に悩むものが居た。
体育館シューズの独特な足音が響いている午後4時ごろ、バスケ部が召集された。
この日は雨で、雨の日の独特な匂いが体育館に残っていた。
「俺と副部長が話し合った結果、バスケ部の参加が決まった。一応、参加はしなくても良いが、部活が終わったら俺のところに言いに来いよ」
部長が少し笑ってそう言うと、部員もそれに意義が無いように頷いた。
一人を除いては。
すぐ隣では、いつも通りバレー部が練習している。女子バスケは外で練習だ。男子バスケが体育館で練習をするのに、景音は少し抵抗があった。
それは、4年前の戦争が原因だった。
「……」
「おい、景音?大丈夫か?」
「わっ!びっくりした」
仲間からいきなり顔を覗き込まれて声を上げてしまう。
「お前、参加するんだろ?大会」
「うーん……俺は良いかな~」
景音が少し困ったように顔を顰めて言うと、友人は驚いた。
「ええ‼最高の褒美がもらえるのに⁉もったいないなー」
「……どうせ大会で優勝しようが、詩音は帰って来ないし」
景音が少し切ない顔で点を仰ぐと、仲間はためらったように言った。
「……まだ引きずってるのか?分かるけど、もういい加減に立ち直れよ」
「……」
景音は切なそうな顔のまま仲間の顔を見た。そして俯いてしまう。
景音が体育館での練習を嫌がるのには理由があった。
それは校内での練習は戦争を彷彿とさせるからだ。
バスケの動きは戦争の攻撃の避け方、もしくは、攻撃の受け身の動きに似ている。それを、戦場として多く使われた体育館で、なんて、戦争を思い出してしまうのだ。
彼は兵士として参加はしなかったものの、FBIに在籍していた際、一応の訓練を行っていたため、トラウマから逃げられなかったのだ。
戦争は彼にとって、辛いものだ。これから生きていくことに置いて、大きな足枷となってしまう。
そして、戦争がトラウマになってしまった理由として最も大きいのは、やはりバディが死んだことだろう。
仲間に言われた通り、いい加減立ち直らなければならない。詩音が死んだことを言い訳に、人生を生きない理由にしてはならない。
頭ではそう分かっているが、彼にとって、今守るべきものが存在しないのだ。
景音は梅雨の近づいた天気を見てそう思った。
校内で最も部員の数が多い、美術部、そんな中でも、参加を悩むものが居た。
「……」
雨の降っている風景をスケッチしながら、彼女は考え呆けていた。
「雪、雪は参加するの?」
「……絵菜か。あたしは、やめておこうかな、なんだか馬鹿みたいに思えてきた。死ぬ心配がないから参加したいけど、でも、自信がないんだ、誰かを守ることに対してな」
「へ?」
雪は遠い目をして風景を見た。薄暗い外を照らすように教室の照明が白く光っている。
彼女の暗い茶色をした髪色を、蛍光灯が明るく照らした。
それに相反するように、彼女の顔には暗い影が落ちていた。
「戦争をしていた時、あたしは兵士として参加していた。何人もの人間を殺してきた。もう分かってる、間違ってたって分かってるが……本当、尊敬するよ、あの探偵は。だって、どれだけ恨めしく思っていても、咎めるだけで決して、人を殺さない、だろ?」
「……」
雪がそう言うと、絵菜は黙ったままだった。
「……そう言えば、夏だったかな、食料が足らなくて、空腹で死にそうになっていた男を見つけたんだった。遠い目をしてたよ、だから、持ってたおにぎりをあげたんだっけ?」
雪は顎に手を当てて考えこんでいた。
「……雪って、何?」
「は?」
絵菜が突然口を開いたかと思えば、フィロソフィーのような質問を投げかけてきた。
「雪は自分の事毒別だって思ってる?違うからね?」
「え?ああ、それ、プロの漫画家のお前が言うか?」
「え?うん」
雪のツッコミにきょとんとした顔で返す、絵菜は少し不思議だ。
「……あ、思い出したな、死にかけてたやつ、多分景音だったかな?」
「景音って、中家?」
「ああ、向こうはきっと忘れてるだろうな。夏だから熱中症だし。アイツ、絶対参加しないんだろうな。あたしは向こうが心配だ」
「あいつの心配するより、自分の事心配しなさいよ」
「ハイハイ。ま、アイツ意外とタフだしな。参加はしないだろうよ、過去のトラウマから逃げられないんだ」
雪の目には戦争に対する怒りと憎しみが渦巻いていた。
「冷静じゃ、いられないだろうけど、参加するよ。優勝したいんだろ?任せとけ、射撃の腕前はCIAでトップだったからな」
雪は笑顔になってスケッチブックを机の上に無造作に置いた。