案内人――完璧な紳士に案内された横開きの扉は、カードキーでしか開かないらしい。
「このエレベーターは、最上階専用なのです」
エレベーターという聞き馴染みのある現代の言葉に、逆に違和感を覚えながら。
「ってことわぁ、やっぱりぃ……?」
上機嫌なリズは、期待を隠す気がない。
「はい。当ホテル最高のお部屋をご用意いたしました」
「すごぉい。ねぇサラ、ずっとここに住もうよぉ」
まだお部屋を見てもいないのに、と思いつつも、リズは期待出来ることが分かっているからの先駆けだろう。
「なるほど。急患のお客様や従業員を癒していただけるなら、という条件付きですが。それで宜しければいつまででも」
完璧な紳士は、ニコリと微笑んでとんでもないことを言う。
「アァン、すごいじゃないサラ。そうしましょうよぉ」
「い、いえ……その、考えさせてください」
王宮での人間模様にこりごりだったから、誰かに匿われる感じは嫌だ。
でも、ここには敵対するような人は居ないのかもしれない。
貴族街の外れの家で十分だけど、身の回りのことに時間を取られているから……。
――もしも何も邪魔されないなら、ありかもしれない?
いや、そもそもリズに会えたのだから、もう王都に用はないような。
「この機会でなくても、いつでもそのようにさせて頂きますよ」
「聞いた? ほんとに別格よねぇ……」
「あ、ありがとうございます」
そんな会話が続く中、私は全方位ガラス張りのエレベーターも気になっていた。
乗った時は普通に、壁があったのに。
それは二階までの建物の壁で、途中からは本当に浮いている状態で上がっている。
足元だけは赤い絨毯が敷かれているけれど、天井も全て、本当に全方位がガラス張りなことに驚いている。
どうやって吊り上げているんだろう、と。
割と高さを感じるくらいの所で、空中ホテルの本館というべきだろうか、その建物が一面分を壁にしたけれど、外付けのこれは十分な展望を見せてくれている。
「エレベーターが気になりますか?」
完璧な紳士はそう言うと、続けて説明をくれた。
「これも本館と同じく、最新の浮遊装置を用いております。商業区ではここ数年で、魔工科学が目覚ましい進歩を遂げておりまして」
「魔工科学……」
元居た世界よりも、進んだ技術。
騎士団長も、人の体では装備出来ないような兵器を、その身ひとつで操っていた。
「左様ですね。人は戦争を繰り返してきましたから、御懸念なさるのも当然でしょう」
「えっ?」
心を読まれた。
「申し遅れました。私も転生者でございます。ですので、同じことを心配していました」
「……そうでしたか。でも、やっぱり心配ですよね」
そのまま話を続けたかったのに、そこでエレベーターが止まった。
「おっと、到着致しましたので、お部屋をご案内いたしましょう」
「ドキドキするぅ」
リズはこういう話よりも、お部屋が気になるらしい。
そして、通された部屋は――。
「ひろぉぉい!」
「ぇ…………」
リズは平然と歓声を上げているけれど、私は息を呑んだ。
シェナもひと目で気に入ったのか、珍しく身を乗り出すみたいに中へと進みたがっている。
コメント
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51話、読んでいただきありがとうございます。全面ガラス張りのエレベーター…乗ってみたいような、怖いような(笑) みなさんはいかがですか?