相も変わらずバイクで登校する司。
「いったらっしゃいませ」
「うん。いってくるね!」
「お疲れ様です!」
「お疲れ様です!」
遊と助が幸に敬礼する。
「やめてください。お2人もいってらっしゃいませ」
幸が遊と助にも軽く頭を下げる。
「いってきます!」
「いってきます」
まるで遊と助の執事でもあるようだ。
「いってらっしゃいませ」
「いってくる」
美音が帆歌(ほか)に見送られる。
「あ、狐園寺(こうえんじ)さん」
栗夢(くりむ)が美音を発見する。
「あ、栗鼠喰(りすぐい)さん。あ、帆歌。こちらが昨日ケーキをくださった」
まあ、帆歌は昨日、美音の後をついていっていたので知っているのだが
「その件に関しましては、私までケーキをいただきまして、本当にありがとうございます」
と栗夢(くりむ)に頭を下げる帆歌。
「あ、いえいえ!うちのケーキでよければ、いつでも持ってってください」
一応一流店なのだが。
「あ、お2人さん。おはよー」
とワイヤレスイヤホンを外しながら光(ひかり)が合流した。
「あ、宝孔雀(ほうくじゃく)さん。おはようございます」
「おはよ」
「あ、うちの執事」
と2人に紹介する美音。
「美音様の執事をさせていただいています。猫ノ宮 帆歌です。よろしくお願い致します」
頭を下げる帆歌。
「あ、栗鼠喰(りすぐい) 栗夢(くりむ)です。狐園寺(こうえんじ)さんには仲良くさせてもらってます」
「宝孔雀(ほうくじゃく) 光(ひかり)です。私も仲良く…させてもらってるよね?」
「…まあ?」
「お2人とも、今後とも美音様をよろしくお願い致します」
「はい!」
「かしこまりました」
「では美音様、栗鼠喰(りすぐい)様、宝孔雀(ほうくじゃく)様、いってらっしゃいませ」
帆歌が頭を上げ、辺りを見回すと、一目散にバイクで走り去る姿が見えた。
「いっちゃった」
帆歌も車に乗って家へと戻った。
「あ、美音。おはよ」
司が美音を見つけて話しかける。
「お、おはよ」
「あ、狐園寺(こうえんじ)さんですよね?え、司、狐園寺さんと知り合いなの?」
「うん。幼馴染」
「マジか!」
「鴨条院(おうじょういん)」さんですよね?」
「うん」
「栗鼠喰(りすぐい) 栗夢(くりむ)です。まる鴨さんにはよくお世話になってます」
「あ、そうなの?こちらこそ、お買い上げいただきありがとうございます。言ってくれればあげるよ?」
「いえいえ。そんな悪いです」
「栗鼠喰(りすぐい)さん家(ち)ってあれでしょ?名前…忘れたけど、ケーキ屋さん」
「はい。ま、ケーキに限らずですけどね」
「うちの両親がよく利用してます」
「あ、そうなんですね。えぇ〜と」
「法鹿(ほうじか) 助です」
「法鹿さん。ご両親はなんのお仕事をされているんですか?」
「うちは2人とも弁護士なんですよ。で、事務所に来た人とかに出す用にって感じで」
「なるほど。お世話になってます」
「いえいえ。こちらこそです」
「…宝孔雀(ホウクジャク)さんだよね?」
「うん」
「だよね。可愛いから覚えてた」
「ナンパかよ」
「まあぁ〜、に近い?」
「チャラいな」
「遊雉(ゆうち) 遊。よろしく」
「宝…名前は知ってるか。よろしく」
全員が自己紹介をしながら大きな広い学校へと足を踏み入れた。
広い下駄箱で広いホールを歩く。下駄箱のすぐそこのホールは吹き抜けとなっており
総ガラス張りで3階まで見上げることができる。室内なのにホール中央には木や植物が植っており
その周りがベンチになっている憩いのスペースとなっている。
その周辺で1人の先生に女子生徒が群がっていた。
「九尾(くお)先生、人気なんだね」
九尾先生とは現代文の先生で、ずっと笑顔のような細い目が特徴の先生である。年齢は25歳。
ずっと笑顔のような顔で、九尾 歌良人(かいと)という名前から
笑顔のような世界一しあわせな動物と呼ばれるクオッカにあやかり
クオッカ先生というあだ名で生徒から呼ばれていると最初の授業で言っていた。
「若いから人気なんじゃない?」
「あと遊んでそうだしね」
「そお?」
「ピアス痕すごいもん」
さすがはジュエリーメーカーの娘。
「そうなんですね。さすがです」
「いや、栗鼠喰(りすぐい)さんのほうが気づくでしょ。ピアスめっちゃ開いてんだから」
「まあ…でも気づかなかったなぁ〜」
そのまま6人は教室へと行った。
「司は狐園寺(こうえんじ)さんのことどう思ってんの?」
席に着くなり遊が司に聞いた。
「ん?美音?美音は大切な友達だよ」
「大事な“友達”かぁ〜」
「遊はなにを言ってんの?」
「ん?いや、別に。宝孔雀(ホウクジャク)さん、可愛いよなぁ〜」
「なに。一目惚れ?」
「まあぁ〜、そうかなぁ〜?」
「認めた」
「あのクールな感じ?心にグンッっときたね」
「恋愛の話で初めて聞いた擬音だわ、グンッって」
「あ、恋愛の話だったの?」
と今気づく司。
「そうそう。司は狐園寺(こうえんじ)さんとはいつからの幼馴染なの?」
「美音とは幼稚園からの幼馴染」
「マジ!?そんなちっさい頃から?」
「すごい!そんな幼い頃から一緒だったんですね!」
遊と助が驚いている頃、女子3人も同じ話をしており、栗夢(クリム)も驚いていて、光も静かに驚いていた。
「そんな驚くこと?」
「いや、まあまあすごいよ?私いないもん、幼稚園からの幼馴染なんて」
「私もいないです」
「そんなもんなんだ」
「小学校からの友達…もいないかも」
「私は1人います。イギリスとのハーフの子なんですけど、めっちゃ可愛いです。あとお金持ち」
「あ、他クラスにいる感じ?」
「あ、いえいえ。学校は違うんですけど」
「へぇ〜。お金持ちなのに白樺来なかったんだ?」
「はい。同じ中学でできた友達と同じ高校に行くって言ってて
私もそっち行きたかったんですけど、両親がこっちにしたら?って言ってたので」
「その子はどこ高行ったの?」
「達磨ノ目高校です」
「あぁ〜達磨ノ目高校か。栗鼠喰(りすぐい)さんは合わなそうだね」
「そうなんですか?」
「うん。うちのクラスだとぉ〜…」
光は教室を見回して3人の男子のグループを指指し
「遊雉(ゆうち)くらいだね」
「そうなんですね」
「あそこお祭りが資本みたいな高校らしいから」
と話していると担任の先生が入ってくる。ホームルームが始まり、終わる。1時間目の授業の用意をする。
一方その頃、ベランダで口に咥えたタバコにZippoライターで火をつけ
「ふぅ〜…」
と煙を吐く幸。
「改めて思うと、口から灰色の煙出すって、なかなかにヤベーよなー」
とは思うものの辞めはしない。無心でボーっとしながらタバコを吸い終え
灰皿にタバコを押し付け、火を消してから捨てる。
「さて。一服し終えたところで…んん〜っ…!」
伸びをする。
「寝るか」
下着のパンツ一丁で自分の部屋に行って、最高級のフカフカベッドで眠った。
「…んん〜…」
薄らと細く開いた目でスマホを取る。画面をつける。12時34分。
「おぉ〜…1234」
謎にちょっと嬉しい幸。
「昼食べてまた寝るか」
ベッドから立ち上がり、階段を下りてリビングへ。テレビの音が聞こえてくる。
「あれ。テレビ消し忘れたっけ。電気節約…勿体無い」
「なんでこいつ女優ぶってんだよ。顔だけで売れたモデル崩れが。
読モなんて基本誰でもできるわ。演技も始めの作品では畑が違うから気取らず、素でやってて
それが好評だったらしいけど、ま、たしかに始めの作品はよかった。
でも調子に乗って次の作品では“女優”として演技してて、見てるこっちが恥ずかしくなるレベルだったわ。
女優面もモデル面もすんな。ガチ女優とガチモデルに謝れ。
あとバラエティ番組でお金もらえてんだからもっとやる気出せよ。なんなんマジ。このやる気のなさ。
腹立つわ〜」
「…」
ジトーっとリビングのソファーに座る人物を見る幸。
そこにはなぜか帆歌(ほか)の姉、女優をしている波歌(なみか)がいた。
お昼のバラエティ番組の出演者に毒づいている波歌が幸に気づき
「おぉ!こーくん!おはよー」
「…」
「どした?」
「どした?じゃねぇよ。不法侵入やろがい」
「失礼な。ちゃんと玄関から入ったっつーの」
「は?んな訳ねぇーだろ。鍵ちゃんと閉めたし」
と幸が言うと波歌はバッグからキーケースを出し、中の鍵を幸に見せる。
「…は?」
「こないだこーくんが飛び出して行ったときに合鍵作っといたんだよね」
「…」
言葉を失う幸。
「イエイ」
謎になぜかダブルピースをする波歌。
「え、なみ姉オレのストーカーなん?」
「バカ言え!なんで私がこーくんを」
「いや、オレイケメンだし」
「…あ、ごめん。一瞬宇宙行ってた。なに?もっかい言って?」
「だからオレイケメンだからさ」
「もっかい言ってって言われてもっかい言えるメンタルよ。すごいな」
と謎の感心をする波歌。
「いや、でも違うから。なんなら私がストーカーされる方よ?女優なんだから」
「…まあ、たしかに」
と言いながらキッチンへ行き、オレンジジュースを飲む幸。チラッっとソファー前のローテーブルの上を見る。
するとそこにはオレンジジュースの入ったグラスが置いてあった。
「なみ姉それ」
基本的に司と幸の住んでいる家には司と幸、2人分の食器類しかない。
食器棚を見ても1つグラスが置かれてある。そして幸の手にも1つグラスが握られている。
「あぁ、オレンジジュース拝借させてもらってます」
「いや、そっちじゃなくて」
「ん?」
「グラスグラス」
「あぁ、コップね」
「そそ。なにそれ」
「私用ー」
「…」
お昼のバラエティ番組の音声が鮮明に聞こえるほどの静寂。
「は?」
「いや、勝手に使ったら悪いしさ?」
「買ってきたん?」
「そ。で、置かせてもらう」
「自分ん家(ち)か?」
「さすがにそこまで烏滸がましくないよ〜」
充分に烏滸がましいが。
「…」
ジト目でソファーで我が家のように寛ぐ波歌を見て
こいつの烏滸がましいレベルってどこだよ
と思った。
「お昼なにー?」
「ん?いつもはデリバリーしてるけど」
「マジ?執事なのに作んないの?」
「いつもは作るけど」
嘘である。
「1人んときは作らんよ」
「あ、そーなん?じゃ、なにデリバリーする?寿司とか?」
「寿司?ま、いいけど」
「こーくんの奢りで」
「…。は?なんでオレが奢らんといかんの?」
「え?そりゃーもらってるからでしょー」
と人差し指と親指で丸を作る、お金のマークを作り、いやらしい顔で幸を見る波歌。
「それ言うならなみ姉だってもらってんでしょ。女優なんだし」
「いいや?全然もらってない」
「嘘つけ」
「いやガチガチ。ほら、私まだ駆け出しの女優だから」
「木曜10時のドラマにちゃんとした役で出てんのに?」
「いや、それ最近の話だから。ここからなのよ。
これからどんどん良い役勝ち取ったりしていって、どんどん1本のギャラがよくなるの。
だから全部これから。大金稼げるようになるのもこれからなのよ」
「へぇ〜。そんなもんなんだ」
「そんなもんなのよ。ってなわけで、これからの私に投資すると思って。ね?」
「…ま、いいけど。なんで歳上に奢らないといけないのか…」
「やったー!寿ー司、寿ー司」
と盛り上がっている一方
「終わったぁ〜」
白樺ノ森学院では4時間目の授業が終わっていた。
「司ー助ー。昼一緒に食べようよ」
「いいよー」
「いいよ」
「あ、2人とも弁当?」
「うん」
「オレも弁当」
「マジ?あ、じゃあ、オレコンビニで買ってくるからさ。
あ、なんかある?なんかあるならついでに買ってくるけど」
「特にないかな?」
「うん。僕も大丈夫」
「オッケー。行ってくるわー」
遊が教室を出た。
「狐園寺(こうえんじ)さん、宝孔雀(ホウクジャク)さん、お昼ご一緒にどうですか?」
「別にいいけど?」
「私もいいけど、私買いに行かないとだから」
「あ、そうなんですね」
「そう。だから、ちょっと行ってくる。あ、待ってなくていいから」
「わかりました。いってらっしゃい」
光も教室を出た。光に気づき
「お、宝孔雀(ホウクジャク)さんもコンビニ組?」
と話しかける遊。
「そう。遊雉(ゆうち)も?」
苗字呼び捨てに「おっ」っとなる遊。
「そうなんすよ」
2人は廊下を進み、階段に差し掛かる。白樺ノ森学院は日本屈指のお金持ち高校。
なんと校舎内にコンビニ大手3社が併設されている。
HIGH TOKU(ハイトク)、Heaven in Heaven(ヘブン イン ヘブン)、Shiny Mart(シャイニーマート)。
1年生の教室は2階にあり、コンビニは1階ホールのすぐ横にある。2人は階段を下りる。
「宝孔雀(ホウクジャク)さんはコンビニどこ派?」
「どこ派ってこともないけど、ま、強いて言えばHIGHTOKU(ハイトク)かな。
ま、中学の友達に促されて行っただけで、私が気に入ってるとかではないけど」
パアッっと笑顔になる遊。人差し指で自分を指指し
「オレもオレも」
スンとしている光。
「オレもHIGHTOKU(ハイトク)よく行く。
でもね、オレの場合は理由が違ってさ?ほら、うち、遊園地じゃん?」
「じゃん?って言われても初耳でだけどね」
「あれ?そうだっけ?ま、うち、遊園地なのよ。で、スタッフとかめちゃくちゃいるから
その人たちのためにオレがコンビニ行って飲み物とか買うのよ」
「へぇ〜。大変じゃん」
「まあねぇ〜」
階段を下り、下駄箱前のホールに出る。下駄箱を前に見たとき、左側にコンビニ大手3社が横並びなっている。
木や植物が植っていて、その周りがベンチで囲まれているところには
カップルだとか、友達同士だとかが一緒に座りながら駄弁ったり
お弁当を食べたりして賑わっていた。2人はHIGHTOKU(ハイトク)に入る。
「従業員155人?かな?いるからね」
「そんないんの?」
「そんないんの。でも、ま、1日でいったら…ま、多いか」
多いんかい
と心の中で思う光。
「そのスタッフさんたちの休憩のときのために、コンビニで飲み物めっちゃ買って冷蔵庫に入れとくのよ」
「へぇ〜。無料?」
「もちろん。しかもお昼も基本無料」
「マジか」
「領収書を提出してもらえば、必要経費として落とせるんだって」
「へぇ〜。遊雉(ゆうち)んとこに就職しようかな」
「え?いや、ふつーに宝孔雀(ホウクジャク)」さんとこ継げばよくね?」
「…いや。めんどくさい。宝石の良し悪しとか?デザインとか?」
「あぁ〜…。でも小さい頃から英才教育されてるでしょ」
「まあぁ〜…。でも母さんには遠く及ばない。から無理」
「へぇ〜。じゃあ、オレと結婚してオレと一緒に」
の先を言う前に
「あ、お断り致します」
と光が言う。遊は光のほうを向いたまま固まる。
飲み物の透明な扉がパタンっと閉まる。2人はお会計へ。一方その頃、司と助は
「司はご実家のお菓子作りしたりすんの?」
「僕?ううん。あ、でも小さい頃に遊びの延長というか、経験として作ったことはある。でも最近はないかな」
「へぇ〜。あの鷺崎さんは?」
「あ、こー…うちの執事?うちの執事は作ったりはしないらしいけど
絶対味覚?を持ってるらしくて、新商品の試作の段階で、最終チェックして「GO」を出す役らしい」
「めっちゃすごいじゃん!」
もちろん嘘である。今現在も「まるかも」の本社では新商品の試作の試食が行われているが、幸はというと
「うん。ここの店の寿司も美味しいな」
「ねえこーくん。私に奢るからって安いとこ選んだでしょ」
「ん?違う違う。いろんな店の寿司を食べ比べたいじゃん?」
と波歌と安めのチェーン店の寿司を食べていた。
「たでぇ〜まぁ〜」
と遊が帰ってきた。
「お、おかえり」
「帰ってきた」
「ただいまー」
「あ、おかえりなさい」
「おかえり」
光も帰ってきた。
「まだ食べてなかったの?待ってなくていいって言ったじゃん」
「狐園寺(こうえんじ)さんがみんなで食べた方が美味しいでしょって」
「!私”が”じゃなくて栗鼠喰(りすぐい)さん“も”言ってたでしょ」
ツンデレである。
「ま、たしかにご飯はみんなで食べた方が美味しいですけど」
「ま、ありがと。じゃ、食べよ」
「「「いただきます」」」
光はレジ袋からお蕎麦を出し、美音と栗夢(くりむ)はお弁当を包む風呂敷を解いた。
「「!?」」
光と栗夢が驚いた。美音のお弁当箱は漆の2段重ねの重箱だった。
「重箱!?」
「うん」
「すごいですね!お正月みたい」
「そお?」
パカッっと蓋を開けたら、なおさら2人は驚いた。
そこには綺麗に盛り付けられた料理が、何品目あるのかってほど入っていた。
「ヤバッ」
栗夢(くりむ)は無言で生唾を飲み込む。
「それって誰が作られたんですか?」
「うちの料理担当の人」
「料理担当の人?」
「そう。次の料理長になるために審査として、うちの料理を作ってるの」
「ヤバッ。プロの料理ってこと?」
「ま。プロ?」
「あの狐福(きつねぶく)の料理ってことですよね?」
「そーゆーことね」
「ちょ、ちょっとでいいので食べさせてもらって良いですか?」
「いいけど?」
とお弁当をシェアして食べた。お昼休みが終わり、5時間目の授業が始まる。
「ご馳走様でした」
「はい、どうも」
「ま、安い寿司だったけどね」
「奢ってもらって文句ですか。いいご身分で」
「えへへ〜」
「えへへ〜じゃねぇよ。今日は…5時間目までか。そろそろ出る準備しないと」
「お。つーくんのお迎え?」
「そ。なみ姉どーすんの?ってもあれか。合鍵あるから勝手に帰るか」
「そーね。ま、つーくんに会ってから帰るかな」
「あ、そお。わかった」
しばらくして幸は執事服を着て、バイクのキーを持って玄関へ行く。波歌も一応幸のお見送りをする。
「いってらっしゃい」
「お、おぉ…いってきます」
そんなこと当分言われたことがないので、あからさまに動揺する幸。
「なんか奥さんみたいじゃなーい?」
「…」
無言ジト目の幸。ガッツリ無視して玄関のドアを開いて外へ出て行った。
「ま、こーくんは帆歌ちゃんか」
と1人玄関で呟き、リビングへ戻る波歌。
ブルルン。ドッドッドッドッ。エンジンをかけ、吹かして白樺ノ森学院へと出発する。
まだどの授業も本格的には始まっていないので、みんな伸び伸びと授業を終えた。
担任の先生が入ってきてホームルームが始まる。
「ということで、本日もお疲れ様でした。号令お願いします」
「起立、礼」
「さてー。帰るぞー」
「帰ろう帰ろう。あ、明後日のことだけどさ」
「明後日?」
「そ。明後日土曜じゃん?なんか2人とも予定あるかなぁ〜って」
「ないー」
「僕もないよ」
「じゃあさ、明後日どっか行かない?」
「いいねぇ〜。どこ行く?」
「どこ行こうか」
と教室で話している男子3人。
「あ、そうだ。明後日なんだけど、何時にする?」
帰る支度をしながら美音が聞く。
「んん〜。てか、場所知らないから、どっかで待ち合わせしてがいいんだけど」
「じゃあ、ここの正門の前に何時とかは?」
「いいじゃん。それで」
「いいですね。じゃあ、そうしましょう」
と教室を3人で出ようとすると
「あ!宝孔雀(ホウクジャク)さん!またね!」
と遊が光に言う。
「ん。遊雉(ゆうち)また月曜。生きてたらねー」
「生きる!宝孔雀(ホウクジャク)さんにまた会うために」
「鴨条院(おうじょういん)くんも法鹿(ほうじか)くんもまたー」
「あ、うん。宝孔雀(ホウクジャク)さん、栗鼠喰(りすぐい)さん、狐園寺(こうえんじ)さん、またね」
「鴨条院さん、法鹿さん、遊雉さん、またです」
「宝孔雀さん、栗鼠喰さん、美音も。また」
「ん。司またね。法鹿くんも遊雉くんも」
と言って女子3人は教室を出た。
「幸くん」
帆歌が車から降りてくる。
「おぉ。お疲れ」
「お疲れ。そういえばお姉ちゃん、こーくんに会いに行くって言ってたけど会った?」
「いや」
嘘をつこうとしたが帆歌の前では幸は無力。
「家にいるよ」
と真実を言った。
「え!?ほんと!?ごめんね、なんか」
「ま、そんな迷惑じゃないからいいけど」
と話していると美音、光、栗夢(くりむ)が昇降口から出てきた。長い道を歩いてきて美音が幸と帆歌を見つけ
「お、鷺崎くん。司ならまだ教室いたよ」
と幸に言う。
「お疲れ様です。狐園寺(こうえんじ)様」
頭を下げる幸。
「あ、こちら、司…鴨条院(おうじょういん)の執事」
「鷺崎 幸です」
光と栗夢(くりむ)に頭を下げる幸。
「あ、どうも。鴨条院くんとは同じクラスです。宝孔雀(ホウクジャク) 光(ひかり)です」
「宝孔雀(ホウクジャク)様。Pavone Gioiello(パボーネ ジョイアッロ)の代表のお嬢様でいらっしゃいますね」
「あ、はい」
「私も鴨条院さんと同じクラスにいさせていただいています。
栗鼠喰(りすぐい) 栗夢(くりむ)です。よろしくお願いします」
「栗鼠喰(りすぐい)様。
Les joues de Chestnut tombent(レ・ジューン・デ・チェストナッツ・タンブ)の代表のお嬢様ですね。
3姉妹の末っ子様で」
「はい。よくご存知で」
「一応、お坊っちゃまのクラスメイトのことは一通り。あとは他のクラス、学年、教師、コンビニの店員
学食の従業員、この学校に関わる者、一通りはザッっとではありますが、把握しております」
「すご」
圧倒される光と栗夢。
こいつこんなすごかったっけ
と疑いの目で見る美音。
「お嬢様、お疲れ様です。宝孔雀(ホウクジャク)様も栗鼠喰(りすぐい)様もお疲れ様です」
帆歌が頭を下げる。
「あ、ども」
「猫ノ宮さんもお疲れ様です」
光と栗夢(くりむ)も帆歌に頭を下げる。
「でね、明後日、うちに来るって話したでしょ?」
「はい」
「でも家の場所わかんないから、ここ。ここの正門前で12時に待ち合わせしたから」
「かしこまりました。お2人をお車でお迎えということでよろしいでしょうか」
「そういうこと」
「では、宝孔雀(ホウクジャク)様、栗鼠喰(りすぐい)様。明後日、お出迎えさせていただきます」
「こちらこそよろしくお願いします」
「お願いします」
「じゃ、また明日」
「はい。また明日」
「うん。明日ね」
帆歌が後ろのドアを開いて美音が乗り込み、ゆっくりとしっかりとドアを閉める。
今一度帆歌が光と栗夢に頭を下げてから運転席に乗り込み、美音は帰って行った。
「別次元なんだけど」
「わかります」
と2人も帰って行った。しばらくすると司、遊、助が昇降口から出てきた。
「あ、鷺崎さん!お疲れ様です!」
「お疲れ様です!」
「お2人ともやめてください。お2人こそお疲れ様です。お坊っちゃまもお疲れ様です」
「お疲れ様」
いつも通り、慣れた手つきでヘルメットを取り、被り
幸もヘルメットを被り、バイクに跨る。司は後ろのシートに跨り、幸の腰に手を回す。
幸はフルフェイスのヘルメットのシールドを上げ
「では、失礼します」
と遊と助に言ってから、カシャンッっとシールドを閉め、エンジンを吹かせて、正門から出て帰って行った。
「目元だけでもイケメンってどーゆーこと?」
「わかる」
「「憧れるぅ〜」」
いつに間にか幸は遊と助の憧れの対象となっていた。
ちなみにフルフェイスのヘルメットのシールドを上げて鋭い目の目元だけが見えた瞬間
行き交う女子生徒の何人かは射抜かれていた。
「ただいまぁ〜」
誰もいないはずの家にも一応「ただいま」を言う司。
「お。おかえり〜」
「え?」
リビングに進むと
「お!なみ姉!いらっしゃい」
「お邪魔してまぁ〜す」
波歌がリビングのソファーで寛いでいた。
「どーしたの」
「ん?私は別荘を手に入れたのだよ」
「え!別荘!?どこに?」
波歌はニコォ〜と笑い
「ここぉ〜」
と言った。
「なんだ。そーゆーことか」
「そーゆーことかーじゃないですよ。勝手に別荘にしないでよとか言ってくださいよ」
ガレージにバイクを停めてきた幸が戻ってきた。
「別によくない?なみ姉だし」
「んじゃ、帰ろうかな」
波歌が立ち上がる。
「あ、帰るの?」
「お。なにぃ〜?つーくん、寂しいのぉ〜?」
「お坊っちゃまがそんなわけないだろ」
「どうせなら夜ご飯食べてけばいいのに。あ、でもご実家で食べるか」
「え!いいの!?夜ご飯“も”食べてっていいの?」
「いいよいいよ!じゃあ、夜はお寿司にしようか!」
マジか
と心の中で思う幸。
「お!高級な?」
「高級…かな?うち(鴨条院家)がいつも取ってるところ」
「じゃあ最高級だ」
と幸を得意げな、ドヤ顔のような表情で見る波歌。
「じゃあ、幸くん、電話しといて?僕は着替えてくるから」
「かしこまりました」
司は2階の自分の部屋に着替えに行った。
「最高級♪最高級♫」
これ見よがしに、昼間の当てつけのように喜ぶ波歌。
幸はスマホで検索エンジンHoogle(ホーグル)を開き、検索欄に「ドレミピザ」と入れる。
デリバリーで司の好きなピザは知っていたのでそれと
幸自身が好きなピザ、そして波歌が“好きかもしれない”ピザを頼んだ。
「そっかー。うち、なみ姉の別荘になったかぁ〜。じゃ、なみ姉の食器も買わないとね」
「大丈夫ですよ。いらないし、自分で買ってきますよ」
「いらないことはないよ。つーくんのお言葉に甘えようかな?」
「大歳下に甘えんなよ。あ、そうだ、お坊っちゃま。
いつものお寿司屋さんが、店内の観葉植物が異常に、急激に成長して
店内がジャングルになったそうで、臨時休業でした」
誰が信じるんだというレベルの嘘である。
「そっか。大変だ」
その嘘にこの世で恐らく唯一騙される司。
「なのでピザパーティーにしました」
「お!いいね!ピザ!最近食べてなかったから食べたかったかも」
「よかったです」
今度はドヤッっという顔を波歌に向ける幸。
なみ姉に高級寿司は奢らん
いつか絶対こーくんに高級寿司奢らせたる
という静かな目線のやり取りをしていた。なぜ高級寿司にこだわるのかは謎であったが。
その夜、結局ピザパーティーで大いに盛り上がった。
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