コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
朝の光がカーテン越しに差し込む。けれど涼ちゃんの体は、まるで水の中に沈んでいるみたいに重かった。
昨夜飲んだ強い眠剤のせいで、頭がぼんやりしている。
目を開けても、焦点がなかなか合わない。
「……起きなきゃ……」
言葉だけ出るけど、体がついてこない。
ソファからゆっくり起き上がると、視界がぐらりと揺れた。
立ち上がる時、足がよろけてテーブルの角に手をつく。
その手も少し震えていた。
——飲みすぎたかも。
胸のどこかでそう思うのに、
それでも「寝なきゃ仕事できない」と自分に言い聞かせていた昨夜の気持ちがまだ残っている。
キッチンに向かって歩き出すと、またふらついて壁に手をついた。
自分でも分かるぐらい、足に力が入らない。
冷蔵庫から取り出した水のペットボトルも、
キャップを開けようとして滑り、床に落としてしまう。
「……なんで、こんな……」
俯いて落ちたペットボトルを拾おうとしゃがんだ瞬間、
ぐわっと世界が回った。
頭の奥で鈍い痛み。
喉の渇き。
胸の重さ。
体を起こすだけで精一杯だった。
その時——
玄関の電子ロックが開く音がした。
ガチャッ。
「おはよー……って、涼ちゃん?」
若井の声だ。
続いて元貴の軽い足音も聞こえる。
「昨日返事なかったから心配で……」
2人がリビングに入ってきて、
涼ちゃんが床にしゃがみ込んでいるのを見た瞬間、表情が一気に変わった。
「え、ちょっと待って…涼ちゃん?」
若井が駆け寄る。
元貴も慌てて近づいて、肩に手を置く。
その手が触れただけで、涼ちゃんはびくっと震えた。
「顔真っ青だよ。どうしたの…?」
若井の声は驚きと不安で揺れている。
「……なんでも、ないよ……」
涼ちゃんはかすれた声で言う。
言わないといけないことは山ほどあるのに、
喉がふさがったみたいで、何も言えなかった。
若井は、そっと涼ちゃんの額に手を当てた。
その優しさが逆に胸に刺さる。
「熱ないけど……これ、眠剤のせいじゃない?」
涼ちゃんの目が一瞬だけ揺れた。
若井と元貴はすぐに気づく。
「涼ちゃん…昨日、薬飲んだ?」
元貴の声は優しいけど、いつもより低い。
涼ちゃんは視線を避ける。
その仕草だけで、2人には全部わかった。
若井がそっと肩に手を回して支える。
「無理して立たなくていいよ……ほら、座ろ?」
その声が温かすぎて、
涼ちゃんの胸の奥がぎゅっと痛くなった。
「……ごめん……」
かすれた声で落ちた言葉は、
涙と混ざって震えていた。