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< pnside >
仕事終わりの図書館は、いつもより少し静かに感じた。
返却カウンターの下にしまったカードケースの重みが、今日だけやけに気になる。
胸の奥が妙にふわふわして落ち着かない。
理由は分かってる。
今日、また先生に会うから。
バイト終わりにクリニックへ向かう足取りは、いつもよりゆっくりだった。
自分でコントロールしてるつもりでも、どうしても歩幅が狭くなる。
風が吹くたびに、あの夜の病院の白い匂いが、ふっと思い出の奥から顔を出してくる。
三年前の俺は、足も満足に動かせなくて、天井しか見えなくて、未来なんて考える余裕もなかった。
でも先生の声だけは、不思議とすっと耳に入ってきて、落ち着かせてくれた。
その声に、今日また触れる。
それを思うだけで、胸の奥がひゅっと鳴る。
クリニックの自動ドアをくぐると、薄い薬品の匂いが鼻に触れた。
受付の子がいつも通り名前を呼んでくれて、俺は軽く頷きながら診察室の前に立つ。
扉の前で、一度深呼吸した。
本当はこんなことする必要ないのに、胸の鼓動がうるさくて落ち着かない。
ノックして扉を開けると、先生が机の向こうからゆっくり顔を上げた。
rd「来てくれてありがとう」
rd「今日は忙しかった?」
その声が、思ってたよりずっと柔らかかった。
三年前の声と変わらないのに、前より穏やかで、俺の心にそのまま触れてくるような感じがした。
pn「まあ…忙しかったけど、なんとか。」
素直に言おうとすると照れるから、少しそっけない調子になる。
でも先生はそれを気にした様子もなく、俺を見る目だけほんの少し温度を上げた。
rd「声掠れてるね、喉痛い?」
pn「痛くないよ、疲れてるだけ」
そんなの普通気づかない。
でも先生はあの頃からそうで、俺の小さな変化を拾いすぎるくらい拾ってくる。
rd「そっか …」
その言い方が優しくて、思わず心臓がくすぐられる。
気づいてほしくないときに限って、先生は俺の変化を全部拾ってくる。
rd「昨日はよく眠れた?」
pn「….まぁ、一応、」
rd「あんま寝れてないんだ」
軽く笑うみたいに言うくせに、目はちゃんと心配している。
俺の声のかすれ具合だけで、そこまで気づく医者なんて他にいない。
先生はカルテに視線を落とすけど、その合間合間でこっちを確認するみたいに目を上げた。
何を探してるのかは知らないけど、俺の声や仕草にいちいち反応する。
三年前、あんなに弱った俺をずっと見てたからなのか。
それとも、それ以外の理由があるのか。
そんなことは聞けないくせに、知りたくて仕方ない。
先生はカルテをめくりながら、ちらりと俺の歩き方に視線を向けた。
その一瞬の動きに気づいた自分にも驚いたけど、それより先生の目の奥が少し揺れたのが分かった。
rd「歩き方、いつもより疲れてる感じしたけど…大丈夫?」
pn「見すぎじゃない?笑ヾ」
わざと軽く笑って返すと、先生はちょっとだけ息を飲んだみたいに見えた。
rd「まぁ医者だからね。そんなもん」
言葉では線を引く。
でも視線は嘘をついていない。
俺の全てを確かめるみたいに静かで、でも逃げない目をしている。
rd「……俺は医者だからなぁ、」
rd「線を引くのは大事なんだけど…」
距離を作る言葉のくせに、目が全然離れない。
むしろ、前より俺を見てくる。
これは気のせいでは無いと思った。
pn「先生って…ほんと分かりやすいよね」
冗談みたいに言ったのに、自分でもびっくりするくらい声が少し震えてた。
俺の言葉に、先生の手が一瞬止まった。
rd「え〜分かりやすいかな?笑ヾ」
その言い方が優しすぎて、俺の心の奥のどっかがゆるんだ。
そのせいで、つい本音が落ちた。
pn「だって…俺のことまだ見てくれてると思ったから…、 」
視線を外したのは俺の方。
頬が熱いのを見られたくない。
静かに息を整えた先生が、少し小さな声で言った。
rd「覚えてるに決まってるじゃん」
rd「俺の初めての患者さんだったし」
胸の奥が、ぽん、と跳ねた。
返事ができなかった。
pn「…先生ってさ、ほんとに変わらないよね。」
rd「そう?」
pn「うん、」
俺の声が少し沈んだのを察したのか、先生はペンを持つ手を止めた。
視線がまっすぐこちらに戻ってくる。
rd「…ぺいんとはかなり変わったね」
その一言で、胸がじんと熱くなる。
照れ隠しに視線をそらすと、先生が小さく息を吐いたように聞こえた。
rd「三年前より、歩き方も声も…全部変わったよ。いい意味で。」
pn「…そんなに?」
rd「うん」
その言い方が、ずるいくらい優しい。
医者としての線を引こうとしてるくせに、俺の変化には全部反応してくる。
その矛盾が、ほんのりあったかくて、でも少し苦しかった。
診察が終わってドアの前まで歩くと、先生がゆっくりと声を落とした。
rd「またいつでもおいで。無理しないで。」
その声音が、耳の奥に深く残った。
後ろを振り返る勇気はなかった。
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初コメ失礼しますm(_ _)m本当に話を書くのが上手すぎて感動してます🙊本当に文章も読みやすいし凄く魅入っちゃう。。魅力的すぎます🍀*゜これからも応援してます🩷