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宮舘さんが渡辺さんの部屋に現れ、二人だけの「儀式」を経て、阿部さんと目黒さんが踏み込む直前の「空白の時間」を描きます。
二人がどのように部屋を片付け、カメラを破壊し、狂気的な純愛を完結させたのか。その裏側の静謐で異常なひとときを詳しく描写します。
宮舘さんに縋り付いて泣きじゃくる渡辺さんを、宮舘さんは深い慈愛を込めて抱きしめました。その腕の強さは、渡辺さんをこの世界のあらゆる「正論」や「善意」から断絶させる、絶対的な檻でした。
「……翔太。最後だ。この部屋にある『俺』を、二人で片付けようか」
宮舘さんの穏やかな声に、渡辺さんは何度も頷きました。そこから、阿部さんのモニターがブラックアウトするまでの数時間、二人の奇妙な共作が始まりました。
渡辺さんが数日かけて、爪を血に染めながら狂ったように貼り付けた天井や壁の写真は、宮舘さんの手によって一枚一枚、驚くほど丁寧に剥がされていきました。
「これは、あの時の顔だね」 「……うん。涼太が、初めて俺を冷たく突き放した日の写真……。すごく、綺麗だった」
思い出を語り合う恋人のように、二人は微笑み合いながら、狂気の証拠を部屋の中央に積み上げていきます。渡辺さんにとって、その作業は「宮舘涼太を外の世界から回収し、自分たちだけのものにする」という、最後の浄化の儀式でした。
部屋が少しずつ白さを取り戻していく中で、宮舘さんの視線がふと、本棚の隙間に隠された阿部さんの小型カメラに向きました。宮舘さんはそれを指先で摘み上げ、怯える渡辺さんに見せるようにして、優雅に微笑みました。
「阿部も、目黒も……ここで、お前をずっと見ていたんだね。可哀想に。……でも、もう終わりだ」
宮舘さんはカメラを床に置くと、迷いなくその靴で踏み砕きました。バキリ、という硬質な音が響き、阿部さんのモニターが永遠に闇に落ちたその瞬間、渡辺さんは喉の奥で、歓喜に近い溜息を漏らしました。 これで、世界と繋がっていた最後の糸が切れたのです。
家具も写真もなくなった、殺風景なリビングの真ん中。 高く積み上げられた「宮舘涼太の写真の山」の前に、二人は腰を下ろしました。宮舘さんが持参した深紅のワインが、二つのグラスに注がれます。
「俺たちの門出に。……そして、この醜くて愛おしい世界との決別に」
カチン、と乾杯の音が虚空に響きます。渡辺さんは、宮舘さんの唇が触れた後のグラスを奪うようにして、その残りを飲み干しました。
「……涼太、全部捨てたよ。俺にはもう、あんた以外、何もない」
「ああ。それでいい、翔太。……さあ、行こうか。夜が明ける前に、誰も届かない深淵へ」
宮舘さんは、自分のコートを渡辺さんの細い肩にかけました。 部屋の真ん中には、剥がされた写真の山と、飲み干された二つのグラス、そして無惨に壊されたカメラの死骸だけが残されました。
二人が部屋を後にしたとき、廊下に残ったのは、渡辺さんの部屋に充満していたサンダルウッドの、重苦しくも甘い香りの残滓だけでした。
数時間後、血相を変えてこの扉を蹴破る阿部さんと目黒さんが目にするのは、一分の隙もなく「神」によって管理され、解体された、狂気の跡地でした。