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時々、オリジナルと呑みに行くようになった。コイツは知らない。俺たちが恋人同士であったことを。
黒い、もやのかかった気持ちをひた隠しにして過ごす逢瀬の時間。それが正しいのかさえ分からないまま、仕事の忙しさで暫く逢えなくなったのが数日前のこと。
妙な胸騒ぎがしていた。
少々久しく訪れた彼の世界は、かつてそこにあった賑わいを失い、白に包まれた殺風景が広がるのみだった。
初めて、初めて会った時から分かっていた筈のこと。
常に可能性として存在していた事象。
覚悟した上で恋に落ちたつもりだった。
でも、らしくもないことを考えてしまった。
せめて今回は、別れの言葉ぐらい、だなんて。
───────────────────
辿り着いた回廊は、壮絶な戦いの跡を語っていた。
彼が果たした仕事の残滓を眼前にして、やはり来るべきではなかったと心の隅で後悔したものの、足は止まることなく、柱の影に見える人影へと近づいていく。
「…よう。」
「……アンタか。何しにきたんだい。」
「…」
彼はいつものように笑みを浮かべていたが、その胴体は切り裂かれ、赤い液体が流れ出している。
「……らしく、ないな」
彼がどこか不服そうに溢した言葉に返せるものを、俺は持ち合わせていない。
ただでさえ静かな回廊に、また沈黙が訪れた。
心は冷めていた。いつか愛していたひとが死にゆくのを目の前にして。
だって俺は、どうすることもできない。
彼は、仕事を果たしただけなのだ。
「………なぁ、ひとつ、…約束…してくれないか。」
沈黙を、掠れた声が切り裂く。
「また、──────────。」
俺だって、約束は嫌いだ。あの日交わした、くだらない約束も未だ果たせぬままなのに。
それでも俺はその言葉に、頷くことしかできなかった。
「…へへ………ありがとう。マスタード」
「─っ⁈ケチャップ────」
それだけ言い残して俺の恋人は塵になった。
最後に呼ばれた懐かしい渾名。
つくりものじゃない、優しい笑み。
後悔、というべき感情が涙と共に湧き上がってくる。
沈んでいた思考を、回廊を渡る気配が静かに断ち切った。
「随分と滑稽だな。」
近づく足音が、空色のパーカーの上で止まった。黒いその姿は、正しく悪夢のようだ。
少しばかり怯えながらも、問いを投げかける。
「…お前ら、最初から、分かってたのか」
「当たり前だろう。そうでもなければ、ここに来る意味などない。」
「………。」
「お前もサンズなら、こうなる可能性ぐらい、分かっているのだと思っていたが。」
「あし…」
「…?」
「……足、どかせよ…っ、」
図星を指されつつも、恋人の残骸が踏み躙られる光景は、見るに耐えないものすぎた。
「理解できんな。
お前が愛していたのは、コイツではないだろうに。」
否定も、肯定もできない。
最期に呼ばれたあの名前が、胸の奥で遅れて響いていた。
「…アイツは、アイツだった」
バグでもなんでもいい。
ただアイツは…ケチャップだった。
きっと、最初から。
そしてこれから何度やり直されようとも。
それに気付いたからこそ、俺は後悔するし、約束を、果たさなきゃならない。
「……まぁいい。予想外のネガティブも手に入ったことだ。時期に壊れるこの世界に、もう要はない。」
ナイトメアは静かにその青から足を退かすと、不気味な笑みを浮かべたまま、何処かへと消えていった。
黄金の回廊にひとり取り残され、
ひそかに、決意を抱く。
ああ、ケチャップは分かっていたのだ。自分ですら気づかなかった俺の本心を。
……また、──会いに行ってやるよ。
暫しのお別れってやつだ。
この世界がもう一度やり直されるその時まで。
「またな、ケチャップ。」